元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編

ル・コルビュジエがイメージした世界遺産、国立西洋美術館にリニューアル

文●玉置泰紀(LOVEWalker総編集長、一般社団法人メタ観光推進機構理事)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 フランスのマルセイユにあるユニテ・ダビタシオンなど、建築家ル・コルビュジエの建築作品17点が世界遺産に登録されているが、東アジアで唯一選ばれたのが、東京・上野公園にある国立西洋美術館である。地下にある企画展示館が1998年のオープンから20年以上経ち、温湿度を管理する施設の改修や展示室の屋根にあたる前庭の防水工事が必要となり1年半にわたり休館していたが、2022年4月9日、前庭自体を1959年の開館当時に近い姿に復原してリニューアルオープンすることになった。

 オーギュスト・ロダンの《地獄の門》や《考える人》、《カレーの市民》が屋外展示されている前庭は、開館当初に比べ、多くの植栽が加えられ、公園園路に面した南西側が植栽帯で囲われるなど閉鎖的になっていたため、2016年の世界遺産決議文でも、「前庭の顕著な普遍的価値が減じている」と記されていたが、今回、前庭を改修するにあたりロダンの2作品の位置を元に戻し、植栽を取り去り、園路に面した植栽帯も透過性のある低い柵に変更された。ル・コルビュジエの有名な尺度、モデュロールで割り付けられた床の目地も細部にわたって復原されている。

 本館の設計はル・コルビュジエが担当し、弟子である日本人、前川國男・坂倉準三・吉阪隆正の3人が実施設計・監理に協力し完成した。ル・コルビュジエは設計にあたり、建設予定地を視察のため生涯で唯一の来日をしているが、実作業は、この3人が行なった。

国立西洋美術館前庭。右から、ロダンの《考える人(拡大作)》《地獄の門》《カレーの市民》

国立西洋美術館から前庭を見る。突き当りは同館をル・コルビュジエと作った3人の弟子のひとり、前川國男が設計した東京文化会館

西側の門から一直線に伸びる線の先に《地獄の門》があり、右手に《考える人》、左手に《カレーの市民》を鑑賞しながら歩くと低く長い壁に遮られ、そこで床の線は左に分岐して本館に誘うように出来ている

低く長い壁

19世紀ホールも無料開放 常設展もブラッシュアップし小企画展も充実へ

 本館の中心に設けられた吹き抜けの大空間を、ル・コルビュジエは「19世紀ホール」と名付けた。天井は三角形の明り取りがあり、柔らかい自然光が入ってくる。近代の始まりにあたる19世紀の技術や空間を象徴するという意味で命名し、このホールからスロープを上って2階に進むと、囲むように配置された展示室を巡ることができる。このホールを起点とした、らせん状の動線は、中心に核となる部屋を作り、コレクションの増加とともに展示スペースを外側に増築していくという「無限成長美術館」のアイデアを反映している。

19世紀ホール

常設展の展示会場

国立西洋美術館を設計したころのル・コルビュジエの絵画

 常設展の中に設けられた小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジー大成建設コレクションより」。建築家にして画家でもあったル・コルビュジエ晩年の絵画と素描を展示。それらは、初期とは全く異なる新しい芸術で、第二次世界大戦の荒廃や冷戦による脅威から、機械万能主義を謳った第一次マシン・エイジ(機械時代)を再検証し、人間の感情や精神的必要性に寄り添いながら社会の要求に答えようとした。彼が国立西洋美術館の本館(1959年開館)を設計したのは、その頃だったのだ。

※全て大成建設株式会社所蔵(国立西洋美術館寄託)

左手前は《奇妙な鳥と牡牛》1957年、タピスリー。右手奥は《牡牛XVIII》1959年、グアッシュ/カンヴァス

左は《静物》1953年、油彩/カンヴァス。右は《牡牛XVIII》1959年、グアッシュ/カンヴァス

企画展「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」

 リニューアルオープン記念の展覧会は2022年6月4日より、「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」を開催する。ドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館の協力を得て、自然と人の対話から生まれた近代の芸術の展開をたどる双方の美術館所蔵品を展示する。

 フォルクヴァング美術館と国立西洋美術館には共通点があり、ともに、同時代を生きたカール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)と松方幸次郎(1866-1950)の個人コレクションをもとに設立されている。本展では、両館のコレクションから、印象派とポスト印象派を軸にドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える絵画や素描、版画、写真を通じ、近代における自然に対する感性と芸術表現の展開を展観する。

株式会社川崎造船所(現川崎重工業株式会社)初代社長・松方幸次郎 写真提供:川崎重工業株式会社

カール・エルンスト・オストハウス
Albert Renger-Patzsch, Karl Ernst Osthaus, before 1921 © Museum Folkwang, Essen

 産業や社会、科学など多くの分野で急速な近代化が進んだ19世紀から20世紀にかけて、芸術家たちは、新たな知識とまなざしをもって自然と向き合い、この豊かな霊感源から多彩な作品を生み出してきた。国立西洋美術館主任研究員の陳岡めぐみさんは、環境問題やパンデミック、なかんずく戦争などに直面する今日において、自然と人の関係が問い直されていると指摘、観る側それぞれの心のなかで、作品との対話を通じて自然をめぐる新たな風景を生み出していってほしいと狙いを説明している。

<主な展示作品>

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ《夕日の前に立つ女性》1818年頃 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Museum Folkwang, Essen

ゲルハルト・リヒター《雲》1970年 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Gerhard Richter 2022 (13012022) © Museum Folkwang, Essen

クロード・モネ《舟遊び》1887年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館 松方コレクション

開館・開催概要
国立西洋美術館ウェブサイト
https://www.nmwa.go.jp/
開室時間
 常設展:9時30分〜17時30分
  金曜・土曜日:9時30分〜20時
 企画展:9時30分〜17時30分
  金曜・土曜日:9時30分〜20時
 ※入室は閉室の30分前まで
開館時間:9時30分〜17時30分
 金曜・土曜日:9時30分〜20時
 ※「カフェすいれん」以外のミュージアムショップ等の館内施設の営業は開室時間と同じ
休館日:毎週月曜日
 ※ただし、月曜日が祝日又は祝日の振替休日となる場合は開館し、翌平日が休館
 ※年末年始(12月28日〜翌年1月1日)
  その他、臨時に開館・休館することがある
常設展観覧料
 一般:500円
 大学生:250円
 ※高校生以下及び18歳未満、65歳以上、心身に障害のある人及び付添者1名は無料
(入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳を提示)

小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」
会期:2022年4月9日〜9月19日
会場:国立西洋美術館 新館1階 第1展示室
観覧料金:当日:一般500円、大学生250円
※本展は常設展の観覧券、または「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」展観覧当日に限り同展観覧券で観覧可。
※高校生以下及び18歳未満、65歳以上は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください)
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)
※5月18日(水)(国際博物館の日)は本店及び常設展は観覧無料
※6月17日(月)に一部作品の展示替えを行ないます。

企画展「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」
https://nature2022.jp
会期:2022年6月4日~9月11日
観覧料金他:一般2000円、大学生1200円、高校生800円
※中学生以下、心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳をご提示ください)
※国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校の学生・教職員は各料金から200円引き(国立西洋美術館券売窓口にて学生証または教職員証をご提示ください)
※入場方式等についての詳細は、後日公式ウェブサイト等で発表いたします。

この記事の編集者は以下の記事もオススメしています

過去記事アーカイブ

2024年
01月
02月
03月
04月
2023年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2022年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2021年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2020年
01月
09月
10月
11月
12月
2019年
07月
08月
2018年
07月
11月
2016年
03月