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日本の災害対策に求められるデータ標準化やベストプラクティス共有

「災害時のICTが抱える課題の俯瞰 ~今後のビジネスチャンスを探る観点から~」基調講演レポート

連載
IoT H/W BIZ DAY 2021

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市場のトレンドとビジネスチャンス

 米保険会社が2019年に発表した1900年以降の自然災害による経済損失トップ10では、1位が東日本大震災約24兆円、2位が阪神淡路大震災約11兆円と、日本での災害損失は世界的にも巨額であり、災害対策の投資にはより力を入れていく必要がある。 実際、防災情報システム・サービスの市場は年々増加傾向にあり、シード・プランニング社の試算によると2021年度は約900億円、2025年には1160億円に伸びていくと試算されている。中でもセンサー設備、情報システムの成長率が高い。

 国の予算を見てみると、令和3年度の国土強靭化関係予算額4兆4036億円に対し、防災情報分野のシステム・サービス市場は875億円とわずか50分の1。自治体の災害対策はコンクリート系の公共工事に偏重しており、今後、ICTや情報システムサービスへの投資余地は大きい。特に人手不足が顕著な地方では自動化やセンサーを使って遠隔で情報処理する仕組みが期待されている。近年の豪雨災害では、市町村長による避難指示の遅れが問題となった。自治体の長や企業幹部向けに対処方針立案までを提供する判断支援システムもほしい。こうしたニーズに合ったソリューションを提案していけば、市場は2倍3倍へと拡大する見込みがある。

 シード・プランニング社の防災ビジネスのトレンド調査によれば、災害時のドローン活用、SNSの災害時リアルタイム活用、豪雨災害/河川氾濫/道路冠水への対策、AI/ビッグデータ/チャットボット、スーパーシティ/街づくりにおける防災推進、衛星センシングデータの活用、リモートやVRを使用した防災訓練、安否確認サービスなどが注目されている。こうしたトレンドを押さえながら市場を作っていくことも大事だ。

 また、市場の拡大には標準化もポイント。災害対応の業務手順や避難所の状況報告のためのフォーマット、避難物資の種類コード体系、ハザードマップの作成手順や記載内容の共通ルールなどを業界で取り決めていく必要があるだろう。

防災分野での人工知能(AI)の活用

 具体的な防災分野での見えているソリューション事例では、SNS災害情報サービスの「Spectee」や緊急情報サービス「FASTALERT」など、SNS上で情報を集めてAIで分析する防災情報サービスが増えてきている。

 たとえば、情報通信研究機構(NICT)の災害状況要約システムD-SUMMでは、大阪北部地震の発生2分後には鉄道の緊急停止や停電の報告を抽出。Twitterに投稿されるつぶやきや画像がそのままセンサーや監視カメラの役割になる。さらに、Twitterの膨大なつぶやきからAIが分析し、災害情報の内容を建物やライフラインといった種類ごとに自動仕分けされ、適切な物資や医療支援、インフラの早期復旧に役立てられる。

 近年、自然災害は頻発化・激甚化しており、災害対策の重要性はさらに高まる。特に、センサー情報の集約、災害対応プロセスの自動化、意思決定支援に対するニーズは高い。自治体や大企業へ参入するには、技術トレンドを踏まえながら、実際の災害に効果的な商品を磨くのがポイントで、小回りの利く企業にこそチャンスがある。

 市場拡大は、政治・行政・企業の意識改革がカギとなるが、これを突破できれば、今の3~5倍の市場成長シナリオもあり得る。ICT業界として団結し、データ標準化やベストプラクティスの共有を進め、業界として予算配分や施策に対して働きかけをしていくことも必要だ。

アーカイブ配信は12月9日まで! チケット受付中

 IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUPにて配信した基調講演および全セッションをアーカイブにて視聴できます。価格は無料。当日のチケット受け付けに間に合わなかった方や見逃した方など、動画にてぜひご確認ください。

【イベントレジスト】【Peatix】

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