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「顧客が求めるのは“ビジネスで機能するAI”」、5つの新AIサービスをラインアップ

オラクルが「OCI AIサービス」発表、業種別の事前構築済みモデルを提供

2021年11月24日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本オラクルは2021年11月22日、「Oracle Cloud Infrastructure AIサービス(OCI AI)」を発表した。テキスト分析、音声認識、画像認識、異常検出、時系列予測などの機能を持つ事前トレーニング済みモデルや、ユーザーによる追加トレーニングを支援するツールなどを提供する。

 記者説明会に出席した米オラクル 製品担当VPのエラッド・ジクリック氏は、ヘルスケア、金融、製造、小売などの業界に特化したデータでトレーニング済みのモデルを提供し、たとえば業界特有の用語や物体の識別にも対応することで「“ビジネスで機能するAI”がすぐに使える」ことが強みだとアピールした。

Oracle Cloud Infrastructure(OCI)で新たに提供されるAIサービス群(上段、「Oracle Digital Assistant」は2018年から提供中)

米オラクル AIサービス&データサイエンス担当 プロダクトマネジメント VPのエラッド・ジクリック(Elad Ziklik)氏

新たに5つのAIサービスと1つのAI開発支援ツールを提供

 今回新たに発表されたOCI AIサービス群は5つ。各サービスはそれぞれ次のような機能を提供する。なおテキスト/音声関連サービスの日本語対応については、今後1年をかけて段階的に進める予定だとしている。

●OCI Language:ビジネス文書やサポートチケット、ソーシャルメディア、契約書類などに書かれた大規模な非構造化テキストを対象とする文章分析機能を提供。テキストのセンチメント分析やキーフレーズ抽出、カテゴリ分類、固有表現抽出など。

 「センチメント分析はアスペクトレベルで分析できる。たとえば『料理はすばらしかったが、サービスはひどかった』という評価コメントがあれば、料理、サービスのそれぞれの評価を個別に認識できる」(ジクリック氏)

●OCI Speech:数千人のネイティブ/非ネイティブ話者の話し言葉を対象にトレーニングされた自動音声認識機能を提供。オーディオファイルからの文字起こし、クローズドキャプション(字幕)、音声/動画コンテンツのインデックス作成や分析強化などに利用できる。

OCI Language、OCI Speechの概要

●OCI Vision:画像認識やドキュメント分析のタスク向けに事前トレーニングされたコンピュータービジョンモデルを提供。画像/映像に含まれる物体の認識や分類、監視カメラ映像からの異常検知、OCRによる書類処理の自動化(テキスト分類、表中にあるデータの抽出など)に使える。

 「個々の業種に特有の物体画像を使ってトレーニングしている点も特徴。(ビジネス向けには必要のない)“犬や猫の画像を識別する能力”などではなく、たとえばエネルギー業界向けモデルであれば送電線、変圧器といった物体の識別能力も持つ」(ジクリック氏)

OCI Language、OCI Speechの概要

 さらにジクリック氏は、OCI Language/Speech/Visionを組み合わせれば「デジタルアセット管理」にも使えると説明した。オブジェクトストレージに格納した大量のコンテンツ群(ドキュメント、画像、映像)をこれらのAIサービスで一括処理し、自動的にインデックス化やタグ付けを行って検索や管理を可能にするというものだ。

OCI AI適用によるデジタルアセット管理/インデックス化のイメージ

●OCI Anomaly Detection:時系列データに基づく異常検出(アノマリー検出)モデル。ここでは特許取得済み技術「MSET2」を採用しており、複数のデバイス/センサーデータに基づいて異常を早期検知し、誤検知を減らす能力を有すると、ジクリック氏は説明した。

●OCI Forecasting:機械学習/統計アルゴリズムによる時系列予測を提供。ジクリック氏は、複数の統計アルゴリズムから最適な予測精度が得られるものを自動選択してくれる点が特徴だとする。

 「適切な予測のためには適切なモデルの構築が必要。OCI Forecastingでは複数のモデルを自動構築して、そこから最適なものを選んでくれる」(ジクリック氏)

OCI Anomaly Detection、OCI Forecastingの概要

 上述した5つのサービスでは、業界特化したかたちで事前トレーニング済みモデルが提供されるが、さらにユーザーが独自の学習データを用意して追加トレーニングを行うこともできる。すでに機械学習モデル構築/管理/展開ツールの「OCI Data Science」があるが、今回新たなツールとして「OCI Data Labeling」も追加された。

●OCI Data Labeling:AIモデルをトレーニングするためのラベル付きデータセット(画像、テキスト、ドキュメント)を構築するユーザー向け支援ツール。簡単に扱えるGUIを備えている。構築したデータセットをエクスポートし、OCI VisionやOCI Data Scienceにおけるモデル開発に使用できる。

 なおAIモデルはONNX(Open Neural Network Exchange)フォーマットを採用しており、AI開発者は主要なオープンソースフレームワークを利用することも可能。「(OCI AIサービスは)オープンかつ拡張可能なかたちとなっている。オープンソースプロバイダーと密に連携し、ユーザーがどこでどのようにAIモデルを実行したい場合でもそれをサポートする」(ジクリック氏)。

OCI Data Labelingの概要

主要なオープンソースフレームワークで実行することも可能

 AI/データサイエンスの知識を持たない開発者でもAIの能力をアプリケーションに組み込んで利用できるよう、REST APIや複数の開発言語に対応するSDKを用意している。加えて「Oracle APEX」や「Oracle Analytics Cloud」といったPaaSとの統合作業も進めており、「統合ができればビジネスユーザーがノーコードでOCI AIが利用できるようになる」とジクリック氏は説明した。また、無償提供するOCIトレーニングにも今後OCI AI関連コンテンツを追加していく。

 OCIではこれまで価格競争力を1つの強みとしてきたが、「OCI AIでも同じ戦略をとる」という。たとえばOCI Languageのサービス価格を見ると、月間5000トランザクションまでは無料、以降は1000トランザクションあたり25セント(30円)という設定になっている。

 「われわれはOCI AIサービス単体で稼ごうとは思っていない。ユーザーには『こんなに安いならば、あらゆるデータにAIを適用しない手はない』と思っていただきたいと考えている」(ジクリック氏)

「顧客が求めるのは『クールなAI』ではなく『ビジネスで機能するAI』」

 OCI AIの各サービスでは、業界ごとの事前トレーニング済みモデルを提供していく。これにより業界ごとに異なる専門用語、あるいは画像認識における業界特有の物体(設備、部品など)への対応をあらかじめ行い、ビジネスへのAI適用をより迅速に実現すると説明する。

 「最初のターゲット業界としてヘルスケア、金融、製造、小売を考えている。さらに(より細分化して)金融向けの中でも『保険業向け』といった専門用語にも対応していく方針だ」(ジクリック氏)

 これに加えて、自社独自のコンテキスト、ラベルも追加トレーニングできる点も重要だ。「たとえば『Fusion』という言葉は、オラクルで使う場合(製品名を指す)とエネルギー業界で使う場合とで、まったく異なる意味合いを持つ」と説明する。

 こうした業界ごと、企業ごとの用語などに対応することを重視する理由について、ジクリック氏は「顧客が必要としているのは『ビジネスで機能するAI』だからだ」と強調した。ジクリック氏はオラクル入社以前、マイクロソフトでAzure Cognitive Serviceに携わる業務に従事していたが、そこで目標となっていたものは業界最先端の研究結果を生かした「クールなAI」を提供することだった。

 「一方で、OCI AIが目標としているのは、AIを『(ありふれていて)退屈なもの』にすることだ。AIを毎日の業務の中で使うものにすること、退屈な業務プロセスや業務アプリケーションに適用できるものにすること」(ジクリック氏)

 そのために、オラクルではまず顧客の抱えるビジネス課題から発想をスタートし、課題解決に役立つAIの構築を目指す。「自分のビジネスですぐに使えるAI」として、事前構築済みモデルの提供や、シンプルさと一貫性、モデルやデータセットの一元化といったことを実現していると説明した。

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