座っただけで感情を可視化、三井化学のセンサー技術×リトルソフトウェアのAI技術で実現
三井化学 井上佳尚氏・澤和宏氏×リトルソフトウェア CEO 川原伊織里氏
この記事は、民間事業者の「オープンイノベーション」の取り組みを推進する、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)との連動企画です。
相手の本当の感情を知りたい――。それは有史以来の人間に共通した望みではないだろうか。そんな希望を叶えうるシステムが、この10月に国内でリリースされた。三井化学とリトルソフトウェアが共同開発した「PIEZOLA Emotion アプリ」がそれである。三井化学のフレキシブル・高感度・極細の接触・振動センシング基材「PIEZOLA」を椅子用バイタルセンサに用いて、リトルソフトウェアの「HuMAN Affective AI」プラットフォームと組み合わせたものだ。マット内のPIEZOLAが、心電計等の測定器を装着することなく、座るだけで心拍数や呼吸数、体動値等のバイタル信号を検出。その際、7つの感情状態(平常心、リラックス、ストレス(超集中状態、心理的不安感)、イライラ、ポジティブ、ネガティブ、集中)が可視化できる。
このユニークな製品を生み出した両社のコラボレーションの経緯について、リトルソフトウェア代表取締役CEO 川原伊織里氏、三井化学の新事業開発センター オープンイノベーション推進室 室長 井上佳尚氏、新事業開発センター ICT材料事業推進室 センサー&ソリューションPJ 澤和宏氏に話を聞いた。(以下、文中敬称略)
バイタルデータ×AIで多様なビジネス創出を目指す
実施内容の要約 | 座った人の脈拍などのバイタル信号を検出するセンサー(三井化学) 生体センサーから出力されたデータを感性(感情、状態、病気予知)に変換できる感性推定AIアプリ(リトルソフトウェア) |
関わり方や提供物 | アプリケーション(三井化学・リトルソフトウェア) |
求める成果・ゴール | ヘルスケア・モビリティ・エンターテイメント領域などでの新しいビジネスの創出(三井化学・リトルソフトウェア) |
将来 | 「PIEZOLA」の強みを生かし、パートナーとの共同取り組みを通じて社会課題解決やQoL向上に貢献するソリューションビジネスへ(三井化学) 大企業と組みながら世界と対等に戦える基盤づくり(リトルソフトウェア) |
両社のニーズが噛み合いパートナーシップが一気に加速
──最初に三井化学とリトルソフトウェアがPIEZOLA Emotion アプリを共同開発することとなったきっかけについてお聞かせ下さい。
川原 当社では脳波計から得られたデータから、感性(感情、状態)推定や病気予兆検知に生かすAIを作っていますが、脳波計ですとどうしてもヘッドセットの装着が必要となり、日常的に使用するうえでは課題だと感じていました。ヘッドセットも含めて、ウェアラブル機器を装着せず、バイタルデータを取得できないかと考えていたところ、出資会社から三井化学さんを紹介してもらい、ぜひPIEZOLAを使わせてほしいとお願いしたのが今回の始まりになります。
井上 我々も、リトルソフトウェアさんのような企業パートナーを探し続けていました。元々、PIEZOLAというフレキシブル・高感度・極細の接触・振動センシング基材自体は持っていたのですが、あくまで部材やセンサーとして販売をしていました。PIEZOLAについて、そこから得られるバイタルデータを活用した事業にまで広げられないかとずっと思案を重ねながら、バイタルデータや脳波解析をキーワードにパートナーを探していたんです。
そうしたなか、リトルソフトウェアさんをベンチャーキャピタル経由で紹介して頂き、そこから話はトントン拍子に進んでいった感じです。
川原 当社のクライアントには研究所が多く、お互いに仕事としてはスムーズに進展するものの、研究所は製品開発までに至らずプロダクトアウトしてしまうことが多いのが課題でした。しかしPIEZOLAはすでに販売もしており、市場からも評価されている製品もあるため、こことのパートナーシップであれば販売にまで漕ぎ着けられるのでは、という期待がありました。
井上 実際、2020年11月に川原氏とパートナーシップの話をしてから、わずか2カ月後の2021年1月には共同開発契約を結ぶという非常にスムーズな展開でした。さらに、そこからアルゴリズム開発を開始して、今年10月には「PIEZOLA Emotion アプリ」として開発製品のリリースに至ることができました。