パンデミック後に優位に立つために参加すべき、隠れた秀逸イベント
DX時代に必須の見識が得られる講演と交流、グラーツの「FIFTEEN SECONDS Festival」
2021年10月13日 06時00分更新
R/GAの日本のマネージング・ディレクター、嶋田 敬一郎です。これまで40ヵ国、200以上の国際イベントで講演し、また参加者との交流で得られたリアルな知見をもとに、日本人が自らの武器を磨くために、十分に理解し、参加すべきトップ5イベントを、日本のASCII読者にご紹介しています。第2回となる今回、紹介させていいただくのは、オーストリアの「FIFTEEN SECONDS Festival」(以降FIFTEEN SECONDSと表記)です。
AI(人工知能)/ML(機械学習)などによるデジタル化の波が始まり、それが世界的パンデミックにより、爆発的に加速した今、「さらなる革新を」という思いがこれほど強くなったことはありません。日本だけでなく世界中で、努力して革新を進める人々と、流れに身を任せて楽な道を行こうとする人々との間に、かつてないほどの乖離が生じています。
このことを念頭に置いて、前回ご紹介したイベント「DigitalK」のブルガリアから西へ向かい、ハプスブルク王朝の中心地であるオーストリアへ。オーストリアと言えばほとんどの方は首都ウィーンや雄大な自然に包まれたザルツブルクなどを連想すると思いますが、私が2015年から登壇させていただいている、今欧州で最も注目されているマーケティングイベントFIFTEEN SECONDS Festivalは、学生の街でもあるグラーツで開催されているのです。
ご承知の通り、オーストリアはドイツとスイスを含むDACH諸国の一つです。DACHでは主にドイツ語が話されていますが、第二言語の英語がよく使用されるため、フェスティバルでのコミュニケーションは円滑です。FIFTEEN SECONDSは、まずマーケティングイベント「MARKETING ROCKSTARS」として有名になりました。
それでは、私がこれまで講演や参加させていただいた中で、FIFTEEN SECONDSが必見イベントのトップ5に入る5つの理由をご紹介しましょう。
1. 幅広いテーマの講演からもたらされるインスピレーション
私は過去4回登壇し、主に先端技術やイノベーションについて公演してきましたが、扱われるテーマは非常に幅広く、プラットフォーム経済からクリエイティブミニマリズムの力まで、さまざまなパイオニアや第一人者の講演が聞けるこのフェスティバルでは、登壇するスピーカーから間違いなくインスピレーションを受けることができます。私自身FIFTEEN SECONDSに参加して、当時のある重要な取り組みのきっかけを得ましたし、またそこで得た洞察はその後の私の仕事に影響を与え続け、R/GAでの大きな飛躍につながっています。ここで出会う人々やアイデアが自分の考え方を変え、磨き、自分を発達させ続けてくれるのです。
2. エゴより参加者全員の利益という精神
傲慢さではなく謙虚さを優先するFIFTEEN SECONDSの精神が、スピーカーや参加者に対し、最終目標は「関係者全員の利益である」ことを理解させ、純粋にモチベートします。これには大きな相乗効果があり、自分の講演終了後にもより積極的に、深い質問にオープンに答えるよう刺激を受けます。またFIFTEEN SECONDSのゴールは、一人よがりではなく、豊富なアイデアを持つコミュニティを育成して、参加者すべてを向上させることです。ふと私たち日本人の精神性を念頭に置いて始まったイベントなのではないかと思うこともありました。
3. 知識の自由な伝達とサポート
FIFTEEN SECONDSには、多分野で活躍する100人以上の国際的なスピーカーたちの優れた頭脳が集まり、知識を共有し、ポジティブな変化を促進し、新しい未来を形作るという使命感で結ばれています。参加当初、スピーカーや参加者が自由にアイデアを交換し、サポートし合うその積極性に相当衝撃を受けました。そこには根拠のない抽象的なアイデアではありません。深い分析に基づく、ドイツ的機能性を備えた実際的な生きた知識と、事業存続だけに留まらない、経営者の様々な課題に果敢に立ち向かう熱意が、ここには息づいているのです。
4. 豊かなネットワーク
仕事やプライベートの将来のための貴重な人脈に出会い、育てるチャンスについては、このイベントはトップレベルです。2014年のスタート当初は数百人規模でしたが、今や4~5000人もの観客を集める規模にこのフェスティバルは飛躍的な成長を遂げました。元宇宙飛行士から著名なアンソロポロジストなどそれぞれの分野の頂点に立つトップレベルのスピーカーを惹きつけるのに十分な規模になりましたが、それでもエグゼクティブたちがよそよそしく振る舞い、充実した交流ができなくなるほど大きすぎることはありません。オーガナイザーがネットワーキングに伴う「気まずさ」を払拭するために、前夜祭からオーディエンスをも交えたアフターパーティーやセッションを数多く企画開催するなど、これほど力を注いでいるイベントは他にありません。外向的な文化を持たない日本のような場所から来る人々にとって、こうした組織的交流の場を活用するのがいかに難しいかを、まるで彼らオーストリア人は第六感で察知しているかのようです。グラーツのチームはすべての人種にも役に立つネットワーキングのサポートに成功しているのです。
5. オーストリアのグラーツという場所
最後の魅力は、オーストリアの秋です。その街並み、ルネッサンス様式とバロック様式が融合した細い通りに立ち並ぶレストランなどが、今も深く心に残っています。ここはオーストリアでウィーンに次いで2番目に大きな都市で、多くの大学があるため、街に足を踏み入れた瞬間から、活気に満ちた若々しい空気と知識への渇望が感じられます。この街は、産業、イノベーション、学び、創造性が絵のように美しいパッケージとなって交わっている場所です。日本から訪れると、まるでハプスブルク王朝の貴族になったように、世界は自分のものであるかのように感じるでしょう。グラーツに来れば必ず、すべてを手に入れたいというポジティブな気持ちになるはずです。それこそ私をさらに高いレベルへと引き上げ、まず電通、次にIBM、そして世界有数のクリエイティブな企業R/GAと続くキャリアを築くのを助けてくれたものなのです。
総括するとFIFTEEN SECONDSは、多岐にわたる分野のさまざまなプロフェッショナルや起業家に対し、重要な知識が詰まった、将来を見据えた前向きな視点、インスピレーション、そしてネットワークを提供してくれます。私にとっては、考え方を変えるような人々やアイデアに出会う機会となり、その後のキャリアに大きな影響を与えてくれています。これは日本国内ではなかなか学ぶことや得ることができないものですが、間違いなくパンデミック後の経済において競争優位をもたらす重要な、今後ますます需要が高まる宝物だと思います。本イベントでの講演ですが、いくつかYouTubeで視聴可能なので、お時間があればぜひ覗いてみてください。読者の皆様もパンデミックが落ち着いたら、是非秋のグラーツへ足をお運びいただけたらと思います。
筆者:嶋田敬一郎
米R/GAの日本におけるマネージング・ディレクター。電通イージスグループのグローバル・イノベーション・ディレクター、電通のdXLABのチーフラボオフィサー、日本アイ・ビー・エム Digital Makers Labのリーダーを経て現職。キーノート・スピーカーとしても多くの仕事を手掛け、これまで40ヵ国以上で基調講演やモデレーションを行ってきた。Plug and Play Japanの公式ピッチメンター。内閣府が任命した、GPS衛星「みちびき」の公式エバンジェリスト。