ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第634回
ネットワークに特化したIPUのMount Evansでシェア拡大を狙うインテル インテル CPUロードマップ
2021年09月27日 12時00分更新
Intel Architecture DayとHotChipsでの情報アップデートの最後はIPUの話だ。そもそもIPU(Infrastructure Processing Unit)とは何? というところから始めよう。IPUそのものは今年の6月に開催されたSix Five Summitというイベントで初めて発表されたものだが、名前の通りインフラストラクチャー(つまりネットワーク周り)の処理を行なうためのプロセッサーである。
こう言ってもわかりづらいと思うのだが、実はASCII×TECHの記事にIPUの必要性が余すことなくまとめられている。この記事はマイクロソフトのAzureの内部構成を説明したものであるが、マイクロソフトは以前からAzureの足回りにまずFPGA、ついでASICを自社開発してFPGAを置き換える形で利用している。
その理由は記事にもあるように「インフラ処理でCPUを使ったら負け」だからだ。ネットワーク周りの処理は、なるべくNICのそばで、しかもCPUを介さずに行なった方が効果的というわけだ。
ただ、いくら「インフラ処理でCPUを使ったら負け」と言われても、それをFPGAベースに置き換えたり、さらにそれをASICに置き換えたりできるのは、膨大な数のサーバーを運用しているうえ、FPGAやASICの開発エンジニアをかき集めることも含めて、ものすごい金額の開発費を投じられるマイクロソフトクラスの企業だから言える話で、それこそ自社でクラウドサービスを運営しているGAFA(Google/Amazon/Facebook/Apple)やBATH(Baidu/Alibaba/Tencent/Huawei)規模でないと、手が出せない。
こうした企業の場合、データセンターの運営費(≒電気代+空調費)をどうやって下げるかが最大の関心事であり、インフラ処理をFPGAやASICで置き換えることで電気代が下げられれば、そう長い期間をかけずに開発費などが回収できてしまう。しかし、これは普通の企業には到底真似できない芸当である。
そこで、ネットワーク処理に特化したプロセッサーを開発し、これにインフラ処理を行なわせることで、ASICには負けるにしてもFPGAと同程度の効率を実現させようというのがIPUの狙いである。
もちろんFPGAでも良い(後述するがIPUの第1世代はFPGAベースである)のだが、これだと扱えるエンジニアが限られてしまう。ウェブサービスのエンジニアレベルとまでは言わないものの、普通にCPU向けのコードを書けて、必要ならアセンブラリストを眺められる、つまりインフラエンジニアやデバイスドライバーなどを扱えるエンジニアなら利用できる程度にするためには、汎用プロセッサー+アクセラレーターの体裁をとることが望ましい。
このあたりの関係をまとめたのが下の画像である。要するにインフラ回りの処理(主にネットワーク系)は、CPUまで持ち上げる手前でIPUで処理してしまえ、ということだ。

IPUを置くメリット。CSPはCloud Solution Providerの略で、クラウドサービスで必要とされる処理はIPUで行ない、CPUは実際に(クラウドの顧客が)動かしたいコードに専念させる仕組みだ
IPUのメリットはいくつかある。下の画像はこれをまとめたものだ。
・CSPをユーザーが使うCPUと物理的に分離することで、管理しやすくできるし、セキュリティー面でも強化できる。
・CPUの能力をユーザーに100%割り振れる=ユーザーからそれだけ収入を得やすくなる。
・ストレージ管理処理をIPU側に任せることで、ローカルストレージとネットワークストレージを(CPUから見ると)同じように扱えるようになる。これにより、ローカルストレージを置く必要がなくなる。
・CSPをユーザーが使うCPUと物理的に分離することで、管理しやすくできるし、セキュリティー面でも強化できる。
これはクラウド事業者向けのメリットではあるが、自社サーバーであってもプロセッサーを効率的に使えるほか、ネットワーク関連処理をより高速化できるというメリットもあるので、IPUが実装されることは悪い話ではない。

この連載の記事
-
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ