AIスタートアップからの独立!起業家こそ入社してほしい少数精鋭の組織とは!?
AIスタートアップとして有名なABEJAから独立して、株式会社KICONIA WORKSを起業した書上拓郎(しょがみ たくろう)氏。AIスタートアップにおいては、アプリやSaaSなどの自社プロダクトを開発したり、大手企業や大学との共同研究を手掛けるイメージがある。対して同社はAI・データ分析プロジェクトの受託を中心に活動しており、顧客からの評価はその高いリピート率に表れている。受託以外にも、2021年7月には新規事業としてデジタルアートの流通プラットフォームである「HAZERU ART」をリリースしている。「起業したい人こそ入社してほしい」と語る書上氏に、起業に至った経緯や少数精鋭のエンジニア組織を運営するノウハウを聞いた。(以下、文中敬称略)
未来志向の成長スタートアップから独立した背景
マスクド:KICONIA WORKSを起業される前は、AIスタートアップのABEJAに在籍されていました。どのような経緯で入社されたのでしょうか?
書上:元々は東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや、コンサルティングファーム、介護医療の上場企業など、さまざまなことを経験してきました。しかし、個人的には能力も付いてきて起業なども考えていた中でABEJA創業者である岡田(代表取締役CEOの岡田 陽介氏)と話す機会があり、「これからは機械学習やディープラーニングだ」と直感しました。「彼と一緒に働きたい」「ABEJAを大きくして業界を盛り上げたい」という気持ちで、2015年2月に入社しました。
ABEJAでは営業や採用や組織づくりなど、研究開発以外はほとんど担当しました。当時は毎日のようにエンジニアと一緒に技術や課題解決についてキャッチアップしつつ、お客様との間にも入ってコミュニケーションを取ってきました。この経験は起業後にも活かされていますね。
マスクド:ABEJAの退職して起業されたのは、どのような経緯からですか?
書上:2点あります。1点目は当時のABJEAはディープラーニングを重要視していましたが、ディープラーニングで解決できるのはさまざまな課題の一部であり、100のうち1~2個ほどです。もちろん特定の課題において劇的な成果を出せますが、従来の統計手法やシステム開発などを組み合わせて解決できる課題もありました。しかし会社としてはディープラーニングを活用する前提があり、(課題と技術がマッチしない)目の前のお客様を助けられないもどかしさがあったのです。
2点目は組織の維持と拡大を両立させるため、一定の予算や規模のお客様を選ばざるを得なかった点です。地方の優良企業から相談をいただいても、ABEJAが求める予算や規模と合わず、お断りをする場面もありました。ABEJAは現在の技術で課題を解決するのではなく、5年後の未来で使われる技術に投資する未来志向です。対して私は、目の前のお客様を助けたい気持ちがあり、ギャップも出てきました。そんな時に知り合いから「AI開発のプロジェクトを依頼したい」と相談があり、知り合いや友人からも起業を勧められて、2018年5月にKICONIA WORKSを設立しました。
マスクド:現在はどのような組織体制でしょう?
書上:設立直後は取締役の私以外に、ABEJAを辞めたメンバーや知り合いの業務委託エンジニアなど4~5人おりました。現在は正社員が8名で、業務委託含めると15名ほどです。以前は学生インターンも在籍していていましたね。
組織体制として、経理や労務管理など専門知識が必要な業務は外部の方に依頼していますが、営業や採用、組織づくりは私が行っており、エンジニア中心に据えて余計なコストを掛けない経営をしています。私自身が営業や管理業務をこなすことで、浮いたコストを社員への給与や社内の備品に還元できますから。
また、私自身がリーダーシップを発揮してメンバーを引っ張るタイプではないので、「どうすれば自分のためにメンバーが働いてくれるか」を考えています。優秀なメンバーばかりなので、「KICONIA WORKSのエンジニアとして働くことが面白い」と思える環境がなければ、みんな辞めてしまうかもしれませんので。
働きアリで例えられる組織論に疑問を持った
マスクド: KICONIA WORKSで活躍するエンジニアの特徴は?
書上: 他の会社は縦割り組織で「データ分析だけ」「システム開発だけ」「コンサルティングだけ」など役割分担があります。対して弊社は1人2役3役が当たり前で、システム開発をしながらAIのアルゴリズムを考えて、コンサルティングやエンジニアリングも担当します。他社が5人で進めるプロジェクトでも、弊社なら2人で解決できるというフルスタック的なエンジニアという強みがあります。
また、会社のビジョンとして「価値と信頼の最大化」を掲げており、エンジニアには技術だけを突き詰めるのではなく、お客様への価値を発揮することで信頼が得られると口酸っぱく言い続けています。そしてお客様だけでなく周りのメンバーにも価値を発揮するため、自分の担当分野でなくとも学んで、他社を助けるマインドを持ったメンバーが活躍しています。
こうした組織づくりを目指したのは、働きアリで例えられる「上位2割が意欲的に働き、6割は普通に働き、下位2割が怠けている」という組織論に疑問を持ったからです。
私は上位2割の高いパフォーマンスを出す人材だけで構成された組織を作れば、高待遇を維持しながら、お客様には低価格でサービスを提供できるのではと考えました。そこで上位2割の人だけを作り出す施策として、社内の情報を透明化しています。財務諸表や私を含めたメンバーの給料などを全て公開していますし、担当プロジェクトの成果も数値化しています。高い給与で成果を出していないメンバーはプレッシャーになりますし、少ない給与で高い成果を出したメンバーは、自薦他薦問わず給料を上げるべきと考えます。こうして期待に応えるべく、自発的かつ意欲的に働ける環境を実現しています。
マスクド: KICONIA WORKSの業務はAI開発やデータ分析における受託業務が中心ですが、エンジニアとしてモチベーションの維持が難しい側面があります。この点について、どうお考えでしょうか?
書上: まずお客様に対しては、「面白い仕事をやりたい」を伝えています。弊社はリピートで発注をいただくお客様も多いですが、「前回と同じ作業ではなく、もっと難しい案件やより大きな成果が得られる案件なら請けます」とお願いしています。こうして受託開発であっても、エンジニアにとってバラエティに富んだ課題に取り組みつつ、新たな挑戦できる環境を意識しています。
その上でプロジェクトを円滑に進めるべく、お客様とメンバーの相性も考慮しながらマッチングさせるのも私の仕事です。相性の良い人同士で仕事ができる環境なら、多くの問題を未然に防ぐこともできるのではないでしょう。もっとも私にとっては、お客様より社員に対して「なぜこの仕事に取り組むべきか」を説得するのが大変という一面もありますが。
また、Googleの20%ルール(業務時間の20%を興味関心のある分野に取り組む施策)のように、メンバーが自発的に論文を読んで勉強したり、自分でサービスを作れるようにしています。毎週水曜日には外部の方も招いて論文の輪読会を行って、最新の技術情報をキャッチアップしたり、金曜日にはメンバー自身が持つ経験やノウハウを共有する学び合いの場を作っています。私はこれまでの経歴からビジネス的な内容を語りますが、エンジニアは趣味で作ったサービスなどを紹介していますね。こうした常に学びながら成長できる環境が、メンバーにとってモチベーションを維持できる環境だと思います。
おかげで弊社に入社するきっかけとして、学生時代の先輩後輩や同じ会社で働いていたなど、リファラル採用が多いです。コロナ禍以前の取り組みですが、色々な人に会ったり飲みに行くことを推奨して、会社で費用も負担しました。そこでメンバーが「ウチの会社は面白いぞ」と魅力に語ってくれることで、良い人材を採用できている面もあります。
コアとなる受託とは別の新規事業向けに子会社を設立
マスクド: 今後の展望はどうお考えでしょう?
書上: 組織拡大については必然的に人材が限られるため、数十名程度の組織が限界でしょう。KICONIA WORKSが求める人材像としては、自分の得意分野でお客様に価値を提供したいプロ意識のある方です。「お客様に喜んでほしい」という気持ちを持っている人はもちろん、起業を目指す人も歓迎しています。今後は新規事業向けに子会社を設立するので、一人で起業してリスクを抱えるより、弊社で経験を積んで仲間を増やして、KICONIA WORKSのお金を使って事業や会社経営に挑戦するのも面白いと思います。この施策においては、サイバーエージェント様を参考にしている部分もあります。同社では新規事業ごとに子会社を設立して、若手社員が社長や役人に抜擢されていますね。なので弊社を踏み台にするぐらいの気概を持っている方は、新規事業の社長を目指していると声を掛けてください。
新規事業はデジタルアート流通プラットフォームの「HAZERU ART」以外にも、いろいろなジャンルで面白いサービスを立ち上げたいですね。できれば毎年新たなサービスを立ち上げて、「KICONIA WORKSは面白いサービスを出す会社」と評価されたいです。受託開発を継続しながら、そこで得られた利益やノウハウを元にメンバーがやりたいことを新規事業として立ち上げて、お客様に新たな価値を提供するというサイクルを作っていきたいです。
まとめ
「目の前にいるお客様のために課題解決したい」という想いから起業したKICONIA WORKSは、顧客からの信頼も厚くリピート率の高さを自社のWebサイトでも公開するほどです。
これは新規事業として、需要予測AIを150万円という低価格で提供する姿勢からも伺えます。一方で書上氏が社員のモチベーション維持や仕事の選び方に苦心しながら、「自分にとってメンバーが一番のお客様かもしれない」と語ったのが印象的でした。
著者プロフィール:
空前のAIブームに熱狂するIT業界に、突如現れた謎のマスクマン。
現場目線による辛辣かつ鋭い語り口は「イキリデータサイエンティスト」と呼ばれ、独特すぎる地位を確立する。
"自称"AIベンチャーを退職(クビ)後、ネットとリアルにおいてAI・データサイエンスの啓蒙活動を行う。
将来の夢はIT業界の東京スポーツ。
著書「AI・データ分析プロジェクトのすべて」が好評発売中(3刷決定!)。
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