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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第89回

高級イヤホン市場にひとつの区切りか、再編が進む海外有名ブランド

2021年08月23日 13時15分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 混沌とした現在は驚くようなことが起こりうるが、その一つは最近立て続けに起きている老舗ブランドの変化だ。今年5月にはゼンハイザーのコンシューマ向けオーディオ部門が補聴器大手のSonovaに移管されるという出来事を記事にした。その記事ではやはり老舗のWestoneのコンシューマ向けオーディオ部門も昨年Lucid audioに移管されたということも書いた。

 そのWestone製品が新製品を携えて再び日本市場に戻ってきた。取り扱いは従来のテックウインドに変わって、完実電気がLucid Audioと正規代理店契約を締結することになった。テックウインドではWestoneのカスタムイヤホンもユニバーサルイヤホンも取り扱っていたが、完実電気が取り扱うのはユニバーサルイヤホンのみとなる。カスタムイヤホンは、TMネットワーク(e☆イヤホン)が扱う予定とのことだ。

新製品も計画、規模の大きな「聴覚の会社」との統合

 Westoneブランドの新製品は、以前の「UM Pro」シリーズを継ぐ形の新ラインナップで「Pro X」シリーズとなる。「Pro X」シリーズではよりよい周波数レスポンスを実現、優れたディテールと透き通るような歪みのないサウンドを提供するという。新たに着脱式のLinum Bax T2ケーブルを採用している。

 「Pro X」シリーズのラインナップは「Pro X10」がBAドライバー1基で2万3100円、「Pro X20」が2Way・ドライバー2基で3万9600円、「Pro X30」が3Way・ドライバー3基で5万2800円、「Pro X50」が3Way・ドライバー5基で8万4700円である。すべてBAドライバーを採用している。今年9月発売予定だ。

写真はPro X50

 また、同様にLucid Audio傘下にある、Etymotic製品も完実電気に国内取り扱いが一本化された。こちらも新製品が用意されている。Etymoticは2018年、Westoneのコンシューマ向けオーディオ部門は2019年にそれぞれLucid Audioに吸収されている。Etymotic Researchの「ER-4S」は、日本にハイエンドイヤホン市場の基礎を築いた製品だ。

 Etymoticブランドの新製品は、Etymoticとしては初となる3基のBA型ドライバー(中高域1基、低域2基)を搭載した2Wayマルチドライバーイヤホン「Etymotic EVO(イーヴォ)」だ。8月27日発売で、実売価格は6万円台半ばとなる。EVOではERシリーズでこれまで培ってきた技術に加えてERシリーズとは異なるアプローチが加わったことで開放感のあるサウンドステージが体感できるということだ。

 両ブランドとも新しい製品群が開発されていることは今後の展開も期待できるということである。Lucid Audioはエレクトロニクス部門も擁しているので、例えば、Westoneブランドでの完全ワイヤレスイヤホンなど、いままでにはなかったようなシナジー効果も期待できるのかもしれない。

 Lucid Audioはアメリカのテキサス州に居を構えるヒアリングケアで知られる会社で、数多くのオーディオロジスト(聴覚技術者)を擁している。ゼンハイザーのコンシューマ部門を取り込んだスイスのヒアリングケア大手のSonovaに似た立ち位置と言えるだろう。それを考えるとゼンハイザーやWestoneの買収は老舗ブランドの退潮ではなく、新時代を迎えて欧州と米国でそれぞれ似たような地殻変化が起きている証とも言えるのではないだろうか。そして、その地殻変動は日本へも伝わるのだろうか。

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