モーダル小嶋のTOKYO男子めし 第53回

「マリトッツォに見立てたどらやきです」：

セブン真夏の怪談「どらやきマリトッツォ」甘そうだな〜って思いながら食べてみたんですよ……

「どらやきマリトッツォ」
セブン-イレブン
208円（税抜）

初めはマリトッツォだと思ったんです

　あれは2021年の、とても暑い真夏のことでした。

　時節柄というんですか、いろんな人が「ぶらぶら出歩くのはよくない」って言ってたんですよね。自分もその通りだなと思ってたから、なかなか外に出かけられなかったんです。だから、甘いものを食べようと思っても、人通りの多いところを歩いて喫茶店とかにふらっと行くのは、ちょっとよくないかなという気分になる。そこで、近くのスーパーとかコンビニとかで買ってくることが多かったんですね。

　その日は、セブン-イレブンさんに行って、スイーツのコーナーを見ていたんです。けっこうありますからね、コンビニといっても。クレープもあるし、プリンもあるし。暑いからゼリーにしようかな、ケーキもいいかな〜なんて、いつもみたいに選んでたんですよ。

　そうしたらね、あれっ、と思って。視界の端にサッと赤いシールが写ったんだ。なんだこれってもう一度見ると、お客さんを待ってるんでしょうね、「新発売」というシールが見えたんです。ああ、新しいのが出たんだなって。

　マリトッツォってあるじゃないですか。すごく流行ってるやつ。2020年ですか、福岡のパン屋さんが、Instagramに投稿したのがきっかけでヒットになったんですってね。今ではもう、どこでも出してるお菓子なんです。中には「ただのクリームパンじゃないか？」みたいのもありますけどね。

　セブン-イレブンさんもね、マリトッツォを売ってるんです。だから、それだと思ったんですよ。

　でもね、なにかおかしいんだ。マリトッツォは、もう発売してからそれなりに経ってる。だから新発売のはずがない。変だな、どうしたんだろうなと思ってよく見ると、「どらやきマリトッツォ」って書いてあるわけ。どらやきでマリトッツォなんだ。

　あれ、なんだこれと思って。だってマリトッツォって、あの、ブリオッシュで挟んであるやつじゃないの。でも、どらやき“マリトッツォ”って書いてあるわけ。変だな〜、おかしいな〜、って手に取ると、「マリトッツォに見立てたどらやきです」って書いてある。

　その瞬間に、ゾッとしちゃったんです。えっ、マリトッツォって言ってたよな。形もマリトッツォだ。でも、おかしいですよね、「どらやきです」ということは、どう考えても、どらやきなんです……。だから戻そうとしたんだけど、人間ってね、好奇心があるんですよね。ついつい買っちゃったんです。

きめ細かいクリーム多めのどらやきなんだ……

　家に持って帰って開けてみたんですけどね、どらやきなんだけど、どらやきの形じゃない。クリームがすごく入ってて、見たことない形なんですよ。やっぱりね、変なんだ。背中のあたりがなんだかゾクゾクするというか。頭の中でね、いや、こいつはマリトッツォなんじゃないかな、ちょっと確かめてみないとわからないなーって、もう思っちゃってるの。

　でもね、開けちゃったもんですから、片付けるのも変だよな〜ってじろじろ眺めてみる。するとね、どうしても、おかしいなって思うわけです。あれ、マリトッツォかな、いや、どらやきだもんな、って自分でも何がなんだかわからなくなっちゃって。怖いんだけどもうぐーっと引き込まれちゃって、目が離せなくなってるんですね。

　で、よ〜く見ると、クリームの下に、黒というか茶色というか、何かがいるわけ。おかしいでしょ、クリームの下ですよ？ えっ、そんなことあるのかな、と思って目を凝らすと……。

　あんこなんだ。あんこがあったんですよ。

　マリトッツォにあんこがあるなんて、聞いたことがないわけ。うわ、これはもう普通じゃないな、と怖くなっちゃって、あわてて手に取って、持ち上げちゃったんですね。そうすると、もう、どらやきにしか見えない。片方を強く握ったせいで、中身が反対側にはみ出そうになったどらやきなんだな。

　どう考えてもマリトッツォじゃない。これはやばいぞ、えらいことになっちゃったなって、汗びっしょりで喉はカラカラ。怖そうだな〜、甘そうだな〜ってガタガタ震えが止まらないんだ。これはもうダメだ、食べなきゃもっと大変なことになるって、思い切って口に運んでみたんですね。

　そうしたらクリームどらやきなんだぁ！ クリームはきめ細かくてなめらかで、マリトッツォの感じはなくもないんです。でも、生地は完全にどらやきで、あんこも入っているでしょう。だから、もうクリームどらやき。マリトッツォだって言ってたのに、半分かじったら、どらやきにしか見えないわけ。

　もう怖くて、わけがわからなくなっちゃって。どうしたらいいんだって、わーっとパニックになったんですけど、もう腹をくくりまして、一息入れてから、とにかく一気に食べちゃった。その時はもう、頭の中にマリトッツォのことなんかありませんよ。だって、クリームどらやきだったんだから。

　食べ終わってから、私はね、ハッと気づいたんです。あっ、そうか。だから「マリトッツォに見立てたどらやきです」と書いてあったんだ……。そう。セブン-イレブンさんは、知ってたんですね。これがマリトッツォじゃなくて、どらやきなんだって。あるんですね、こういうことって……。

　どらやきマリトッツォ。クリームが多めのどらやきのことだったんだなって、今ならわかります。クリームが好きな人なら手に取ってみてもいいかもしれないですよ。きめ細かいクリームとあんこの相性、なかなかよいと思いました。でも、マリトッツォが欲しい人は、ゾッとしちゃうかもしれませんね。

　今も、セブン-イレブンで売られていると思います。でも、食べられるのは、この夏だけなんだろうな。とにかく、不思議な体験でしたよ……。

モーダル小嶋

 

1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。一人めし連載「モーダル小嶋のTOKYO男子めし」もよろしくお願い申し上げます。

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