業務を変えるkintoneユーザー事例 第112回
研究者ならではのユニークな切り口と表現でkintoneを語る
超絶WETな業務をDRYに変えたOIST 内製の強みとkintoneを選ぶ理由とは?
2021年07月19日 09時00分更新
kintoneとRPAの組み合わせで進んだ「DRYな世界」
では、そもそも調達の本質的な目的とはなにかを考えると、「公正・公平な手続きの元、ベストバリューなお買い物を実現する」こと以外にはない。こう考えると、書類の作成はそれに付随する単なるルーチンワークに過ぎない。そのため、こうしたルーチンワークは極力システム化・自動化し、本来の業務目的に時間を割くのが今回の目的だった。
次に考えたのは、具体的にどうしたらよいか。そもそも基幹システム側でそういった需要はまかなえないのかという疑問もあるが、一部署のためにシステム改修するのは非現実的。じゃあ、部署内できちんとしたデータベースを持てばよいのではという話になるが、いったん作り込んだあとに触れなくなると、Accessの二の舞になってしまう。
この結果、使うツールとしてサイボウズのkintoneに白羽の矢が立った。「なぜAccessが使われなかったかというと、スタンドアロンという点もあったが、業務の変化に対応できなかったから。だったら、ノンコーディングであとからいじれるkintonがいいのでは?と思った」とのことで、kintoneへのリプレースを開始した。
結果として、ExcelやAccessは一通りkintoneにリプレースされ、メンバーでデータベースが共有されることになった。検索も容易になり、月一の作業はなくなり、kintoneから契約一覧が直接出力することが可能になった。一方、人間は仕様書や見積もりの精査、公正・公平さの確認、ルール遵守の確認など、まさに人の判断が必要な業務に集中できるようになった。まさに「超絶WETな世界」から「DRYな世界」になったわけだ。
システムではRPAがデータの入出力を担当しており、基幹システムやWebサイト、Excel、kintoneへの転記処理を行なっているため、人手のコピペ作業は一掃された。契約案件管理アプリでは、ログインユーザーの担当分のみ表示され、ステータスもソートされているため、新規案件に取りかかる場合も、kintoneを開けばすぐに作業を開始できるようになっている。
導入効果を高めるだけでなく、導入障壁をいかに下げるか
プログラムにも明るい浜手氏は、cybozu developer networkに載ったJavaScriptプラグインやプラグインを駆使して、kintoneをカスタマイズしている。しかし、浜手氏はこうしたカスタマイズではなく、自らの研究領域である化学の話にかこつけて、導入障壁をいかに越えるかについて説明する。
酸素と水素を混ぜて、水を生成するといった化学反応の話は、中学校の理科でも習う話だが、単に混ぜるだけでは水にはならない。実際はスパークのような「活性化エネルギー」の山を越えて、初めて化学反応が成立するのだが、浜手氏は「導入障壁ってこれに似てるなと思った」という。「ユーザーから見れば、いくらWETな状態からDRYな状態になると導入効果を説明しても、勝手には移行してくれない。自分が長らくやってきた業務のプロセスを変えなければならないので、(新しい業務プロセスは)努力が必要な山に見える」と浜手氏は語る。
ITを導入する側は、効率化の効果を大きく謳いがちだが、ユーザーから見たこうした導入障壁(=活性化エネルギー)をなるべく小さくする努力が必要。RPAやJavaScript、プラグインなども、導入効果を高めるというより、むしろ導入障壁を下げる施策だったのだろうというのが浜手氏の見立て。浜手氏は、ERPシステムからファイルをダウンロードし、CSVファイルを整形し、kintoneにアップロードするまでのRPAのフローを披露。kintoneでは処理対象のリストを簡単に追加できるため、業務の変化に対応しやすいと評価した。
「この業務そもそもなんのためにやっているの?」と見直す意識
導入の効果としては、当初想定したルーチンワークのシステム化・自動化、そして本来の業務目的へのフォーカスという目的を実現。当初見込んだ通り、年間500時間の削減も可能になり、繁忙期の3月を残業なしで乗り切ったという。
なによりよかったのは業務の棚卸しができたこと。「新しい機能を実装する前に、この業務そもそもなんのためにやっているの?を見直すと、この処理要らなくない?ということがけっこう出てくる。業務フローを見直して、改めて実装できる。これができるのが内製の強みだし、kintoneを使う理由」と浜手氏は振り返る。
では、なぜメンバーに業務の存在意義から見直す意識が目覚めたのか? 浜手氏は、「仕事が楽になることを体感し、考える時間の余裕ができたから」と述べ、業務改善の取り組みがキャリアアップのインセンティブとして機能していると考察した。実際、浜手氏は20程度のアプリを作ってから異動になったが、1年後の現在はアプリも30に増えているという。
浜手氏は、まとめとして「20人程度の部署でも小回りのよい内製開発は可能」と体験を語るとともに、システム化前の業務改善によってDRY化を進めることが重要だとアピールした。「言葉は悪いが、ゴミみたいな業務サイクルをシステム化しても、ゴミみたいなシステムができるだけ」と浜手氏は語る。さらにOISTのような非営利組織においては、コスト削減より、働きがいの向上を目的に据えた方がよいとアドバイス。研究者ならではのユニークな切り口と表現が満載のセッションだった。
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