コロナ収束後のハイブリッド型勤務には「3つの課題」、クアルトリクスがアドバイスする改善策とは
「在宅勤務下ではハイパフォーマー社員に仕事が集中」調査結果
2021年07月02日 07時00分更新
リモートワーク/在宅勤務を導入した企業では「仕事が集中する社員」と「手持ち無沙汰の社員」の差が拡大している――。新型コロナウイルスの感染拡大が仕事と生活に与えた影響を分析しているクアルトリクスの最新調査からは、そのような実態が見えてきた。
この調査は、クアルトリクスがインテージと共同でインテージのモニター3405人(在宅勤務者1000人/完全出勤者2405人)を対象として、2021年4月後半に実施したもの。設問設計では、職場のメンタルヘルス対策や労働安全衛生活動支援を行う専門企業、さんぎょういの協力を得た。
まず「コロナ収束後に希望する働き方」について尋ねたところ、在宅勤務をしている回答者の75%以上が「現在と同じくらい」「やや増やしたい」「増やしたい」と回答した。さらに、現在は基本的に在宅勤務をしていない人でも「やや増やしたい」「増やしたい」が32%にのぼるなど、一定程度の在宅勤務恒久化を希望する人は少なくない。
この結果に基づき、クアルトリクス EXソリューションストラテジー ディレクターの市川幹人氏は、「コロナが収束したからといって、『全員が同じ時間に出勤して一緒に仕事をする』という以前の環境には戻らないだろう。ハイブリッド型が定着するのではないか」と予測する。
調査結果からハイブリッド型勤務における「3つの課題」を指摘
それでは、リモートワーク/在宅勤務が一般化すると、どのような課題が生じるのだろうか。
リモートワークでは、管理職が目の届かないところで各従業員がバラバラに業務を遂行するため、ちょっとした会話が生まれにくく、相談もしにくい。さらには、子供がいる人、介護が必要な高齢者がいる人など、各自の事情により業務環境も異なる。このようなリモートワークの特徴から、「『業務分担の偏り』『コミュニケーション、帰属意識の低下』『個人の事情への配慮』という3つの課題が出てくる」と市川氏は指摘する。
これらの課題は、放置すると従業員のエンゲージメントにネガティブな影響を与えかねない。
1つ目の「業務分担の偏り」は、コロナ禍の前/後における業務時間、業務量、効率性の変化を尋ねた調査から明らかになっている。自分の業績が「職場の平均を超える」としたハイパフォーマー(375人)、「職場の平均を下回る」としたローパフォーマー(91人)の回答を比較すると、「増加した」という回答はハイパフォーマーが多く、「減少した」という回答はローパフォーマーが多かった。
さらに権限や裁量の付与、担当する業務範囲や役割の明確さについても、ともにハイパフォーマーがより多く「増加した」と述べ、ローパフォーマーは「減少した」傾向が強い。
市川氏は、このデータから「組織の中で『忙しい人』『そうでもない人』が二極分化している」と結論付ける。「仕事が集まりやすい人は以前よりも業務量が増え、効率性を上げながらなんとか対応しているのに対し、手元の仕事が減っている人がいる」。さらに権限/裁量と役割の明確さについても、仕事量の増減に伴って権限や裁量が増えた/減ったと感じる傾向があるのではないかと見る。
2つ目の「コミュニケーション、帰属意識の低下」は、コロナ禍以前のように同じ場所で仕事をしていないために生じるものだ。「ささいな困りごとや迷うことを気軽に相談する機会が減った」とする回答者は35%、「ちょっとした思いつきを気軽に話す機会が減った」は53%など、特にインフォーマルなコミュニケーションには大きな影響が出ている。
これをハイパフォーマー/ローパフォーマーの切り口で見ると、ローパフォーマーのほうがより多く、そうしたコミュニケーションが「減少した」と回答している。例えば「ちょっとした思いつきを気軽に話す機会」が「減少した」と回答したハイパフォーマーは54%だが、ローパフォーマーでは68%にも及んだ。同様に「勤務先や所属組織の一員であるという実感」についても、ローパフォーマーはハイパフォーマーの2倍以上となる51%が「減少した」としている。
「リモートワークで『孤立』している人が発生しているようだ。管理職は、一部の人に業務が集中していたり、話す機会がなく仕事の共有が回っていないのであれば要注意だろう」
3つ目の「個人の事情への配慮」については、健康/仕事と家庭の両立に関する設問を取り上げた。身体的な疲労感、精神的な疲労感が「増加した」とする回答者は、ともにローパフォーマーの比率がハイパフォーマーを上回っている。
市川氏は「精神的な疲労が増えているということは、仕事がないことに対して焦っている、うまく回っていないと思っていることが背景にあるのかもしれない」と分析する。さらに「従業員の私生活に配慮した会社の対応」が「減少した」と感じるローパフォーマーが23%と、ハイパフォーマーの2倍以上いることを指摘して、「会社がサポートしてくれていない、という思いを感じている」のではないかと説明した。
市川氏は最後に、組織の生産性、革新性、離職率、顧客満足度などにポジティブなインパクトを与える「従業員エンゲージメント」の調査結果に触れた。なおクアルトリクスでは、この従業員エンゲージメントを「自社への愛着や誇り」だけでなく、「自発的な貢献意欲」など5項目で構成されるものとしている。
従業員エンゲージメントにおいても、ハイパフォーマーとローパフォーマーの間には大きな差が見られる。ハイパフォーマーでは45%が肯定的な姿勢を持つのに対して、ローパフォーマーは45%が否定的な姿勢だった。
従業員エンゲージメントに影響を与える要因を調査したところ、相関係数の上位5つは「勤務先の一員であることを実感している」「仕事を通じて活力を得ている」「仕事をしているときにありのままの自分でいられる」「仕事において自分を前向きに捉えている」「仕事上で信頼関係を築いている」となった。これらを大きく分類すると「帰属意識」と「ウェルビーイング」であり、市川氏は「企業は(帰属意識とウェルビーイングが)現在リモートワークをしている人のエンゲージメントを左右することを重視すべき」だと助言した。
クアルトリクスでは、今後のハイブリッド型勤務で従業員エンゲージメントを高めるためには、権限/裁量の付与や指示の明確化などの「業務分担/役割分担」、ワークライフバランスや多様な働き方などの「ウェルビーイング」、組織の一員であることを実感できるような機会を設けるなどの「連携/帰属意識」、そして学びや活躍の場の提供、評価、アドバイス「成長の機会」の4つを重点テーマにして取り組むことが鍵となる、とアドバイスしている。