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iOSやmacOSの進化が見えた! 「WWDC21」特集 第10回

【WWDC21】アップル新方針「オンデバイスAI強化」で攻める

2021年06月10日 09時00分更新

文● 西田 宗千佳 編集●飯島 恵里子/ASCII

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「通知」のサマリー機能は有用な新機能だが、これもまたオンデバイスAIの所産である

「通知のサマリー」にもオンデバイスAI

 細かい話をすれば、ほかの新機能の中にもオンデバイスAIの恩恵を受けているものもある。

 iOS 15/iPadOS 15では「通知」が改善され、見ていなかった間のものが「サマリー」として表示されるようになる。なんということのない機能に思えるかもしれないが、これをちゃんと実用的に運用するには、やはりAIが必須になる。なぜなら「どの通知が重要なのか」を、過去のその人の行動から判断する必要があるのだ。これもまた、オンデバイスAIで処理されている。

 通知のサマリーをなぜオンデバイスでするのか? それは「プライバシー上の問題」があるからだ。

 メッセージの内容もそうだが、どんなアプリの通知が出るかも、非常にプライベートで個人の趣味趣向が絡んでいる。アプリでサービスをしている人々から見れば喉から手が出るほど欲しい「機微情報」だが、それを「渡したい」と思う人は少ないはずだ。情報を扱う側、という意味ではアップルも例外ではない。

 こうした機能を安心して使うにはどうすべきか? 結局は、判断のために情報をネットにアップすることをせず、オンデバイスですべての処理を完結させることが、事実上必須なのである。

アピール面で「プライバシー」の旗印を持つアップルは強い

 アップルがなぜ「オンデバイス処理」を推し進めるのか?

 それは、応答性をあげるという「使い勝手」の部分もあるが、やはり究極的には「プライバシー保護」という側面が大きい。データ収集と集積には許諾が必要で、それはユーザー側にとって負担になる。それだけでなく、学習のためという名目で際限なくデータを集め続けることは、サービスを運営する企業側にとっても負担だ。

 現在は、オンデバイスでAIの推論をするだけでなく、学習などもオンデバイスで行えるようになった。そこから得られた「学習モデルを成長させるために必要なデータ」のみを吸い上げ、さらに機能改善を進められる。その種のデータはすでに「個人を特定する情報」ではなくなっているから、プライバシーの問題も起きづらい。

 冒頭でも述べたように、オンデバイスAIへの移行や学習データのみの吸い上げによる進化は、アップルだけがしているものではない。データを個人のデバイスに分散させたまま学習を進める方法を「Federated learning」というが、そもそもFederated learningを提唱したのはグーグルである。

 どこも同じ方向に向かいつつあるが、その中でストレートに「プライバシーを守ることは基本的人権に属すると考える」とまで話しつつ機能をアピールするのはアップルらしい。

(なお、今年のGoogle I/Oでのアピールも、似た側面があったという印象を筆者は感じている)

 逆にいえば、こうしたオンデバイス処理を加速するには、デバイスのプロセッサー側に機械学習の推論と学習を効率的に処理する機構が必須になる。今のアップルの半導体にはそれが備わっているが、オンデバイスで扱うことが多くなっていくと、その部分の回路の性能がより重要になっていく……という結果にもつながる。

 今回、iOS 15やiPadOS 15の動作対象機種は過去から大きな変化がなかったが、技術の方向性を考えると、機械学習系コアを強化しはじめた2017年登場の「A11 Bionic」搭載の機器(iPhone 8世代)あたりが、今後も長く使われるラインになるのではないか……と予想している。

 

筆者紹介――西田 宗千佳

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)などがある。

 

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