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AWSが量子コンピューティングへの取り組みを披露

量子コンピューティングのハードルを下げる「Amazon Braket」の可能性

2021年05月26日 17時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2021年5月18日、AWSジャパンは量子コンピューティングのマネージメントサービスである「Amazon Braket」についての発表会を開催した。登壇したAWSジャパンの宇都宮聖子氏は、量子コンピューティングの最新動向やAmazon Braketのサービス概要について解説した。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 技術統括本部 デジタルトランスフォーメーション本部 シニア機械学習ソリューションアーキテクト 宇都宮聖子氏

量子と古典コンピューターが得意分野を役割分担するNISQ

 登壇したAWSジャパンの宇都宮氏は、量子コンピューティングについて「微少な量子力学の物理法則を用いた新しい計算手法を模索する分野」と説明。数倍・数十倍のパフォーマンス改善ではなく、指数関数的な加速を狙うという点ではパラダイムシフトだが、スケーラブルなハードウェアを作り、ビジネス応用につながるアルゴリズムを発見するという点はハードルが高く、科学的・光学的に大きな挑戦になるという現状を解説した。

 そんな量子コンピューティングの分野で最近注目を集めているのが「ノイズあり中規模量子デバイス」と訳されるNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)と呼ばれる分野。量子ビットをなかなか増やせない現状において、最終目的にはまだ遠いが、現実的に利用可能な量子デバイスを実現するのがNISQの位置づけだ。

 量子ビット数と誤り率をプロットするグラフで見ると、50量子ビット以下は既存のCPU・GPUなど古典計算機でシミュレーションできる領域で、あえて量子コンピューティングを導入してもあまりメリットを得られないという。一方、10万量子ビットを超えると、誤り訂正を前提として既存のコンピューテイングを凌駕する性能を得られるが、大規模開発にはまだまだ時間がかかる。その点、両社の間に位置する規模のNISQで、有用なアプリケーションが見つけようとしているのが現状だという。

古典と量子コンピューターの中間にあたるNISQ

 Amazon Braketで提供しているNISQは、量子と古典のコンピューターがそれぞれ得意な計算を割り当てるというハイブリッド形式のサービスだ。パラメータの更新はCPUやGPU、期待値の計算などは量子コンピューターといった役割分担により、変分量子計算(VQE)や量子機械学習(QML)などが実現できるという。

 なお、このNISQを提唱したカリフォルニア工科大学のジョン・プレスキル氏は、昨年AWSの量子研究センターにジョイン。ハードウェア、ソフトウェアの開発を進めており、論文も発表しているという。

 続いて、宇都宮氏は、量子コンピュータの応用分野について説明した。

 期待されている分野としては、たとえば金融分野でのポートフォリオ最適化やリスク計算、オプション価格決定、またHPCが得意とする量子物性探索や量子化学計算、材料工学などのヘビーコンピューティングなど。その他、配送計画や交通経路といった交通系、レコメンデーションや人材配置などの最適化もある。ただ、現時点では研究段階のため、試行錯誤できる環境が必要になるという。

 また、試行錯誤のための量子コンピューターのデバイスとしては、「超伝導量子ビット」「イオントラップ」「リドベルグ原子」「シリコンフォトニクス」などが大規模化の課題に向けて、しのぎを削っている状態だ。

しのぎを削る量子コンピューターのデバイス

 まだまだ量子コンピューティングは開発のハードルが高い。これには「開発ツールがコンピューターごとに断片化している」「計算資源が貴重」「ハードウェアごとに個別契約が必要」「シミュレーションに専門知識が必要」といった理由があるという。こうした課題に対して、「すべての開発者・科学者の手に量子コンピューティングを」と謳うAWSのサービスがAmazon Braketになる。

マネージドな量子コンピューティング開発環境を提供するAmazon Braket

 Amazon Braketではマネージドな開発環境、ハイパフォーマンスなシミュレーター、セキュアな量子ハードウェア環境を提供する。現在は、超伝導量子ビットをベースとした「D-Wave」と「Rigetti」、イオントラップをベースとする「IonQ」という3社のデバイスと接続されている。

 このうち既存のゲートベース量子コンピューターとして利用できるRigettiは31量子ビットを扱えるが、結合が部分的。これに対してIonQは11量子ビットしか扱えないが、全結合が可能で、より柔軟な問題設定が可能だという。また、D-Waveは扱える量子ビット数が2048ビット、5760ビットと桁違いに多いが、量子アニーリング方式を採用するため、実装できるアルゴリズムがゲートベース量子コンピューターとは異なる。こうしたさまざまなデバイスをいち早く利用できるのがAmazon Braketのメリット。「最新のデバイスが出てきたときにも、Amazon Braketで追従できるという特徴がある」と宇都宮氏はアピールする。

 Amazon BraketはAWSのマネジメントコンソールからアクセスでき、ハードウェアであるQPUと2種類のシミュレーターを利用する。また、開発者にはJupter Lab環境とPythonベースのSDKが用意されており、設計、テスト、本番環境での実行までをフルマネージドで提供する。デバイス名を書き換えることで、異なるQPUでの計算も実行可能だ。

フルマネージドなAmazon Braket

 冒頭、説明したNISQのためのハイブリッド計算も可能。最近では、「PennyLane」というライブラリのサポートが追加され、機械学習でなじみのあるPyTorchやTensorFlowを用いて、量子微分プログラミングが可能になるという。

blueqat cloudとAmazon Braketがつながることで敷居はもっと低く

 Amazon Braketはユーザー事例も増えている。あいおいニッセイ同和損害保険の米国子会社であるAioi Nissay Dowa USAは、保険業界向けの量子コンピューティングの開発を進めるべく、Amazon Braketを活用。自動運転によって指数関数的に増えるテレマティックデータから、リスク評価のための革新的なサービスを開発するためのPoCを進めている。

 また、フィデイリティ応用技術センターは、AWS Quantum Solutiuons Labと協力して、金融業界向けの量子コンピュータークラウドの概念実証を進めている。最新の量子デバイスをいち早くマネージドで利用できる点が高い評価を受けているという。

 こうした量子コンピューティングの支援のため、AWSでは有償のコンサルティングを提供するほか、11社のテクノロジーコンサルティングパートナーを認定している。このうちの1社が量子コンピューターやAIを手がけるBlueqat(ブルーキャット)になる。

 「人類の解けない問題を解く」というミッションを掲げたBlueqatは2008年設立。登壇したBlueqat 代表取締役の湊雄一郎氏は、2019年からのNISQ時代を経て、2024年には量子コンピューターの性能がスパコンを凌駕、そして2050年には量子コンピューターが汎用マシンとして利用されるようになるというボストンコンサルティンググループのマーケット予測を披露し、量子コンピューティングへの市場拡大に期待を示す。

 Blueqatのblueqat cloudは量子コンピューターのソフトウェア開発を簡単に行なえるライブラリを含むクラウドサービスで、量子ゲートと量子アニーリングの両方をサポートしている。無料版や月額課金のエンタープライズ版のほか、コンサルティングのオプションも用意されている。今回、このblueqat cloudとAmazon Braketを接続。既存のソフトウェア資産をそのまま利用しつつ、これまで以上に量子コンピューティングを容易に使えるようになったという。

blueqat cloudとAmazon Braket

 湊氏は、量子コンピューティングのビジネス応用プロジェクトとして、「検討初期段階」「事業計画段階」「検討最終段階」のフェーズの3カ年計画を提案。ユーザー事例を踏まえ、具体的なハードウェアの選び方や事業化の進め方などを解説した。

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