アップルはパンドラの箱を開けてしまった?
上で述べた2つのポイント、つまり「配信業界の高音質化競争」と「立体音響トレンドへの追従」からアップルは高音質配信に踏み切ったと考えられる。しかし、それに踏み切ったことは、封じたものが入っている開けてはいけない箱を開けてしまうことでもある。これが最後のポイントだ。
アップル製品が抱える課題を露わにしてしまったのだ。Spotify HiFiの記事を書いた際、私はApple Musicが高音質配信移行する際の懸念として、アップルの製品がBluetoothに大きく依存していると指摘したが、それが現実のものとなったわけだ。
発表の直後に海外メディアに指摘されて、アップルはAirPodsシリーズがロスレス対応ではないと説明した。AirPodsはBluetooth接続のデバイスであり、アップルはAACをBluetoothのコーデックとして使用しているので、自明ではあったが、もしiPhoneにイヤホン端子が継続されていて、有線イヤフォンが同梱されていれば、また話は異なっただろう。
また、アクセサリー使用でヘッドホン端子に接続できる「AirPods Max」にも同様の指摘があり、アップルはやはりロスレス対応ではないとしている。Bluetooth接続だからというだけでなく、アナログのヘッドホン端子に接続すると途中にA/D変換を挟むので、厳格にはロスレスと言えないのだ。これは外部で決まった仕様に沿う必要があるBluetoothとは異なり、アップルの判断で対応/非対応を決められるところで、製品開発とサービス強化の足並みがそろわなかった部分に見える。
アップルにしてみれば、自社製品の商品価値を高めるために、ドルビーアトモスと空間オーディオの組み合わせを訴求したかったはずだ。なのに、その過程で必須となるApple Musicのロスレス化を通じて、自社製品がロスレス対応ではないというツッコミを招いてしまった。これは皮肉な話だ。アップルにとっても、やや急な発表だったことをうかがわせる。
しかし、アップルの技術力を考えると、時間さえかければ、どれも対応するのは可能だろう。Apple Musicの仕様変更によって、ますます魅力的なアップル製品が出てくることを期待したいと思う。
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