最初のCPU、MC68000
ここから、1984年に発売された初代のMacintoshにまでさかのぼって、これまでのCPUの変更をおさらいしてみよう。1984年に最初のMacintoshが発売された際に搭載していたのは、モトローラ社のMC68000という、当時としてはかなり先進的な32ビットCPUだった。他社の主力パソコンのCPUが8ビットから16ビットに移行しようという時代にあって、いきなり32ビットを採用したインパクトは大きかった。もちろん、それ以前の8ビットCPUとは比べものにならない高性能を発揮した。
なおモトローラ社では、当時CPU(Central Processing Unit)のことを特にMPU(Micro Processing Unit)と呼んでいたが、この記事ではCPUという呼び方に統一する。呼び方の違いに特に大きな意味があるとは思えないが、Mはモトローラ(Motorola)の頭文字でもあるため、同社製であることを強調するために、そう呼びたかったのかもしれない。ただし、その呼び方は、Macが登場する以前の8ビットCPUの時代からあったので、さらにMacのMを掛けたということはないはずだ。
いずれにせよ、この68000というCPUは、32ビットのアドレスレジスターとデータレジスターを、それぞれ8本ずつ備え、豊富なアドレッシングモードと、強力な命令セットを備えた典型的なCISC(Complex Instruction Set Computer)チップだった。このCISCと、少し後で出てくるRISC(Reduced Instruction Set Computer)は、CPUとして用意している命令の種類が「複雑(Complex)」か「絞られている(Reduced)」か、という違いが名前の由来となっている。簡単に言えば、個々の命令の実行は遅くても1つの命令で多くのことができるのがCISC、逆に個々の命令は単純だが実行が速いのがRISCということになる。実際には、命令の種類以外にも、アーキテクチャを含めていろいろな違いがある。
このような性格の違いは、プログラミングの手法にも影響する。概して言えば、CPUの機械語命令を直接操作するアセンブリ言語を使ったプログラミングに向いているのがCISC、Cなどの高級言語によってプログラミングするのに向いているのがRISCだ。8ビットCPUの時代には、アセンブリ言語が中心に使われたが、ちょうど初代のMacが登場したころから、アプリケーションのプログラミングにはPascalやC、さらには様々なオブジェクト指向言語といった高級言語が主に使われるようになっていった。ということは、大きな傾向としては、時代の要求はCISCからRISCへと移りつつあったことになる。