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大変革期に振り返るMacのCPUとOSの歴史 第1回

大変革期に振り返る Macの歴史の大きな流れとCPUの変遷

2021年04月27日 12時00分更新

文● 柴田文彦 編集●飯島恵里子/ASCII

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自らの責任ですべてをコントロールできるApple Siliconへの転換

 そして技術的にも、さらには政治的にもブレークスルーとなるような大きな転換として採用したCPUが、まだ記憶に新しいApple Siliconだ。このCPUは、分類上は紛れもないRISC方式となる。今のところ、同じクラスのマシンでは大きな性能向上を果たしていることから、少なくとも技術的には一定の成功を収めたことが明らかだ。このことから、CPUの設計や製造プロセス、そのたもろもろの技術的な状況は、現在では再びCISCよりもRISCの方が優位になっていると見ることもできる。

 しかし、アップルがApple Siliconを採用したことで、最も大きく変わったのは、もっと単純なこと。それは他社製のCPUか、自社製のCPUかということだ。もちろんチップの製造も含めてアップルが実際に「作っている」わけではないが、設計から製品化までのプロセスは、すべて自らコントロールしているはずだ。この事実は、現在だけでなく、今後の発展を考えても、アップルに大きな優位をもたらすことを期待させる。政治的なコントロールの獲得は、技術的な成功を独り占めできることをも意味するからだ。

 これまでのMacのように、CISCからRISCへ、そしてRISCからCISCへ、さらに再びCISCからRISCへというCPUの変遷を見ていると、コンピューターとは関係のないある光景が目に浮かぶ。それは、高速道路の走行車線と追い越し車線の車の流れに絶えず気を配り、少しでも空いている方に目ざとくレーンチェンジしながら先を急ぐような車の運転だ。これまでのMacは、そのようにして辛くも優位を保ってきたのかもしれない。しかしこれからは、Apple Siliconという、他の車が乗り入れることのできない専用レーンを用意し、他社の状況には関係なく、常に車の最高性能を発揮できるような運転が可能になったと見ることができる。

 このところのアップルは、単なるハードウェアメーカーから、主としてサービスを提供する会社に脱皮しようとしているのではないか、という動きも見せている。その一方、Macの歴史の中で初めてCPUまでも自社製とすることで、ようやく完全なコンピューターメーカーになろうという姿勢も感じられる。やや皮肉なことのようにも思えるが、実に興味深い。

 

筆者紹介――柴田文彦
 自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。

 

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