子どもふたりと暮らしております盛田諒ですこんにちは。保育園までの道すがら、山にけぶる桜をながめるうちに3月が過ぎていきました。長男は4歳になり、長女は百日祝いを終え、私は38歳になりました。気持ちは28歳のまま止まってるので今年も28歳です。10回目の28歳おめでとう。
誕生日の朝には4歳児も「お誕生日おめでとう」と言ってくれました。誕生して4年しか経っていない子に誕生を祝われるのは不思議な気分ですね。バースデーケーキの火まで吹き消し、てっぺんの一番でかいイチゴも速攻で食ってくれました。「君が好きなイチゴだぞ食え食え」と思っていると、子どもが唐突に「おっきくてかっこよくて、毎日いっぱい遊んでくれてありがとう」などと言うのでびっくりでしたね。おいおいなんだこれは、ケーキがにじんで見えてきたぞ……。
いやーちょっと前まで会話もおぼつかなかった子がこんなことを言うようになるとは思いませんでしたよね(鼻をかみながら)。3歳は幼年期の終わり、4歳は子どもの始まりって感じです。
4歳児は、10まで数えられるようになったかと思えば、じゃんけんやしりとり、ジグソーパズルやジェンガのようなゲームまでできるようになりました。少し前までヨタヨタ歩いていたのに、ペダルつき自転車もこげるようになって。いやそんなに早く大きくならなくていいんだよきみ。
成長と言うと単純ですが、子どもにしたら私たち大人と一緒に成長という春の嵐のような現象に巻き込まれている感覚じゃないでしょうか。成長はつねに激しく花吹雪のようなめまぐるしい幸せを与えてくれるもんだなあと、子どもと暮らしていると思います。しかし幸せだけでは満足できないのが愚かな人間。仕事は、子育てはこれでいいのかという自問で私のアタマはグチャグチャです。
●仕事と子育てが両天秤
具体的には仕事に使える気力と時間がバキバキに減ってヘナヘナです。子が生まれて2〜3年経ったころからは「俺にできることはもうない……あとは君たちの世代にまかせるぜ……」という気分に。育児しながらバリバリやってる人は本当すごいですよ。体力以前に野心がもちませんわ。
先日、同じ二児の親である同僚と話して、「18時を過ぎたら営業終了」「本読む時間なさすぎ」という話で完全に同意しました。子はあんまり寝ないタチで、部屋を暗くしようが優しい音楽をかけようが23時近くまでは目がギンギン。家事や残業をしようとすると確実に日付をまたぎます。
仕事は基本ルーチンをこなすだけで終了。時間があったらしたいこと、未来に向けて本来やるべきことはToDoリストの最下段に追いやられて月日が過ぎていきました。とはいえ「仕事減らして」とは言いたくないので、もっか、与えられた仕事を9時-17時で終わらせることに力を注いでいます。
仕事を終えれば風呂に遊びにハミガキにとあわただしく、今日も気づけばふとんの中。ツイッターを見れば同世代の同業者が絶賛活躍中。私にも野心があったはずなのにまた今日も終わってしまう、だけど子どもと過ごせる今こそ貴重だし……そんな黒いモヤを抱えたまま眠るのがイヤで、いつしか寝酒代わりに氷砂糖を頬張り、寝落ちするまで「24」を見るというひどい生活になっていきました。めっきり酒に弱くなった今、ショ糖の結晶とジャック・バウアーが私のストゼロです。
働く親、とくにワーママのインタビューでよく「子育てもキャリアもあきらめない」という言葉が出てきます。「家事育児を外注するとかサービスを徹底活用する」って話も。でも実際、そんなにきれいに割り切るって難しくないですか。私が甘ったれてるだけかもしれませんが、「どっちかなんて選べない」って気持ちが焦りを生むばかり。女性たちに比べりゃぬるい悩みなんだろうとも思うものの、 働く親なら同じ悩みを抱えている人も少なからずいるんじゃないでしょうか。
仕事と子どもは結局トレードオフ なんだろうか。いやでも子どもがいても睡眠時間を削ってバリバリ やっている人もいるわけだし。そんなことを言ってるうちに齢をとって何もできなくなってしまうんじゃないかと、考えれば考えるほどアタマがどんより黒いモヤにおおわれていきます。
●自分の軸を取り戻すトレーニング
しかし最近、黒いモヤにわずかな光がさしこみました。それはお絵描き。
眠りに落ちる前の30分、絵の練習をすることにしたのですね。仕事でイラストレーターさんに渡したラフが我ながらひどすぎたため、「絵の練習」でググって、pixivのオンライン講座「sensei」を 始めました。この原稿を書いている日で13日目。今は体のベースになる「素体」というお人形を描く練習をしています。ひとまず三日坊主は避けられたので、100日くらい続ければちっとは上達するんじゃないかと期待して、しがみつくように続けています。
完全に気持ちが晴れるわけではなくても、「絵の練習をする自分」がいることが励みになるんですよね。大切なことにしがみつける自分がそこにはいるんだと思えることが。そう思うと、「仕事の自分」「家庭の自分」の二択に追いつめられていたのが問題だったんじゃないかって気もします。
テレワークで通勤がなくなったいま、いわゆる隙間時間はニアリーゼロ。趣味や勉強にあてる時間は取りにくく、自分自身は家のなかで「仕事の自分」「家庭の自分」の重ねあわせ状態に。2つの役割のあいだでゆれたとき、軸となる自分自身がいないから不安だったんじゃないかなと。
どんなささいなことでも自分を好きになれることを続ければ、「好きなことを大切にする自分」が本来の自分となって不安を払えるのかもしれない。自分自身が追いつめられた本当の原因はいったいどこにあるのか考えなおせるかもしれない。本当にそうなのかはわからんのですが、そう思うことにしてみます。これは自分の軸を取り戻す体幹トレーニングみたいなもんであると。
●うちに帰るとぼくのおとうさん
ちょっと話は変わるんですが、子どもが好きなEテレの番組「ピタゴラスイッチ」に「ぼくのおとうさん」という歌があります。お父さんをテーマにした歌なんですが、会社に行けば会社員、食堂に入ればお客さん、歩いていれば通行人、うちに帰ればぼくのおとうさんという面白い歌詞。淡々とした内容ながら、自分自身が子どもにとってただ一人の「おとうさん」であることを嬉しく思えると同時に、自分という人間が社会のなかで希釈されていくようで気が軽くなる歌なんです。
当たり前なんですが、私は、親である前に人なんですよね。そして社会人である前に人なんです。どんな状況でも、人である自分を手放してはいけない。「うちに帰るとお父さん」である自分を誇らしく思うためにも、そのことをけっして忘れてはいけないんじゃないか。10回目の28歳になってそんなことを考えているこの私も、保育園の時間が終わればお父さんです。今夜も練習がんばるぞい。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。4歳児と0歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。
人気の記事:
「谷川俊太郎さん オタクな素顔」「爆売れ高級トースターで“アップルの呪縛”解けた」「常識破りの成功 映画館に革命を」「小さな胸、折れない心 feastハヤカワ五味」
アスキーキッズメルマガ 毎週土曜に配信中
アスキーキッズは毎週土曜、一週間ぶんの記事をまとめて読めるメールマガジンを配信中。人気連載「ほぼほぼ育児」をはじめ、ニュース、イベント、プログラミング教育入門、みんなの子育て体験談など、子育ての参考になる情報満載です。ご登録はこちらから。
この連載の記事
-
第68回
アスキーキッズ
ラン活ラン活ランランラン -
第67回
アスキーキッズ
男性育休は素晴らしいですが、問題はその後です -
第66回
アスキーキッズ
こんなときだからこそ平凡な育児日記を書いておきたい -
第65回
アスキーキッズ
「いい夫」って言葉、圧がすごくないですか -
第64回
アスキーキッズ
元気に生きていけたら、まぁいいか。emiさんの子育て -
第63回
アスキーキッズ
0歳児の魂百まで -
第61回
アスキーキッズ
「大丈夫だよ」と伝えたい -
第60回
アスキーキッズ
チキンソテーだよ子育ては -
第59回
アスキーキッズ
2人目育児、1人目が救いになった -
第58回
アスキーキッズ
実録! コロナ出産 緊迫の1ヵ月 そのとき夫は - この連載の一覧へ