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バイオスタートアップにおける提携交渉をうまく進めるためのTIPS

RINK FESTIVAL 2021「特許をお金に換える組み方 バイオスタートアップが実践すべきアライアンス戦略」レポート

特集
STARTUP×知財戦略

 2021年2月19日、かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK)と神奈川県は「RINK FESTIVAL 2021」をオンラインで開催。本イベントは、日本が強みを有する再生医療の実用化・産業化を促進するため、全国各地の事業者や研究者、学生等の交流する場として年1回開催されている。

 スタートアップの知財活動を支援する特許庁は「特許をお金に換える組み方 バイオスタートアップが実践すべきアライアンス戦略」をテーマにセッションを実施。バイオスタートアップにおける、成功するアライアンスを達成するための大手企業との交渉の方法、価値のある特許の取得の仕方、専門家との協業のコツについて、経験豊富な知財専門家による講義とディスカッションが行なわれた。

 登壇した知財専門家は、iMU株式会社 取締役COO 法律事務所ZeLo 弁護士 﨑地 康文氏とメディップコンサルティング合同会社 代表社員 弁理士/グランドグリーン株式会社 取締役CLO大門 良仁氏の2名。特許庁からは、総務部企画調査課課長補佐(ベンチャー支援班長)の鎌田 哲生氏。モデレーターとして、角川アスキー総合研究所/ASCII STARTUPの北島 幹雄が参加した。

 セミナー冒頭、特許庁鎌田氏より特許庁のスタートアップ向け支援施策として、知財ポータルサイト「IP BASE」、知財アクセラレーションプログラム「IPAS」、研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書を紹介された。

特許庁総務部企画調査課課長補佐(ベンチャー支援班長)の鎌田 哲生氏(右)、角川アスキー総合研究所/ASCII STARTUPの北島 幹雄(左)

 IP BASEは、スタートアップが「まず見るサイト」、知財専門家と「つながるサイト」として、IPASの最新情報、先輩スタートアップの知財戦略事例集、スタートアップ向け知財セミナー・勉強会の開催情報、知財専門家へのオンラインQ&A、スタートアップ支援に意欲のある知財専門家の検索などのコンテンツを提供している。

知財アクセラレーションプログラム「IPAS」は、創業期のスタートアップに対し、知財専門家とビジネス専門家からなるメンタリングチームを派遣し、ビジネス戦略に連動した知財戦略の構築を支援することを目的に2018年から開始。過去2年間で25社を支援し、IPAS支援開始以降に出願された特許件数は81件、支援後に資金調達した企業は10社、1社がM&AでEXITするなど着実に成果をあげている(2020年9月16日現在)。2021年度の公募情報についてはIP BASEで告知予定

「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書」は、大企業とスタートアップとの協業において、大企業側が一方的に有利な契約にならないように、問題事例に対する具体的な対応策を示したもの。2020年6月末に、新素材の研究開発型スタートアップと事業会社の連携を事例とした「モデル契約書」を公開。12月にはAI編を追加、現在は大学×スタートアップのライセンス契約書を策定中

特許をお金に換える組み方~バイオスタートアップが実践すべきアライアンス戦略

 続いて、﨑地弁護士より「特許をお金に換える組み方~バイオスタートアップが実践すべきアライアンス戦略」をテーマにプレゼンテーションした。

iMU株式会社 取締役COO/法律事務所ZeLo 弁護士 﨑地 康文氏
 

 バイオスタートアップは、製薬企業やメーカーとのアライアンスから利益を得るケースが多い。

 アライアンスには、知財ライセンスによりロイヤリティーやマイルストーン支払いを受ける「シーズ導出型」と、知財ノウハウはスタートアップ側で保持して成果物の単価を得る「受託型」の2パターンが考えられるが、いずれのケースでもアライアンスを成功させるには、交渉をうまく進めることが肝心となる。

アライアンス交渉のフローの落とし穴とその対策

 アライアンス交渉のフローは一般的に、1)アライアンスの計画を立てる、2)パートナー候補のロングリストの作成、3)ロングリスト先へのコンタクト、4)パートナー候補のショートリストの作成、5)タームシート(基本情報)の交渉、6)最終契約の交渉、7)契約締結、8)オペレーションという流れで、6ヵ月~1年間をかけて交渉を進めていく。

 1では、あらかじめ計画を立てるのは必須。3のロングリスト先へコンタクトする際は、NDA締結前に重要な情報が漏洩しないように注意したい。

 重要なのは、5のタームシートの交渉だと強調された。あとから変更するのは難しいのでしっかりと詰めておきたい。6の最終契約の交渉の段階からは外部弁護士による交渉になる。契約締結後は契約どおりに実行されているかを確認することも大事だ。

契約前後の情報管理と将来の事業への制限に注意

 大企業側に情報を開示する際には、NDAを必ず結ぶようにし、締結後も提供する情報は厳選することが大事。当該資料にあらかじめ“CONFIDENTIAL”と記載するといった情報管理の徹底、特許の出願も必要となる。

 契約に含まれる競業禁止条項、知財の共有・利用制限、契約期間によっては、スタートアップにとって将来の事業制限につながるため、注意して確認すべきだ。

 最後に、バイオスタートアップが交渉をうまく進めるためのTIPSも紹介された。

 ひとつは、有効な特許を出願すること。次に、代替案をもつこと。同時に複数の企業と交渉を進めることで大企業とのパワーバランスの差が軽減される。また、経産省・特許庁のスタートアップとの事業連携に関する指針等を交渉材料に使うのも効果的だ。

 外部の専門家に依頼する場合は、交渉の場に同席してくれる人を探すのがポイント。CAO(Chief Alliance  Officer:最高提携責任者)/CLO(Chief Legal Officer:最高法務責任者)の設置も検討するといいだろう。

お金になる再生医療等製品の特許の考え方

 大門弁理士のプレゼンテーションは「お金になる再生医療等製品の特許の考え方」について。

メディップコンサルティング合同会社 代表社員 弁理士/グランドグリーン株式会社 取締役CLO大門 良仁氏

価値の高い特許にするための6つのポイント

 医薬品は化学物質と情報によって付加価値の高い製品になるが、特許の観点で見ると、化学物質は「物質特許」、情報は「用途特許」で保護することができる。

 製品の延命化に寄与する特許を取るためには、添付文書上に記載される、1.有効成分、2.効能効果、3.用量、4.用法、5.併用薬/使用上の注意、6.コンパニオン診断の6つのポイントを押さえておくことが重要。これらのポイントは特許出願するまでは、決して公知にせず、製薬会社に話を持ち込む前に基礎出願を済ませておくことが望ましい。

 再生医療等製品と旧来型の低分子医薬品を比較すると、低分子医薬品は物質特許が最も重要だが、再生医療等製品では物質特許の権利化が難しいため、より多面的に様々な特許で保護していく必要がある。この点、低分子医薬品にとっても再生医療等製品にとっても、特許の価値として、物質特許は“金の斧”、用途特許は“銀の斧”としてその重要度は変わらないため、これら2つのタイプの特許にフォーカスして特許ポートフォリオを構築していくことが肝要である。

お金になる特許を考えるときは、製品をイメージすることが肝心

 創薬技術、特にiPS細胞などに由来する再生医療等製品の分野では、発明をそのまま権利化すると製法特許になりやすいが、医薬品としては物質特許と用途特許にしたほうが製品にとっての価値が高い。

 実際に製薬会社の取得している製品の特許を見ると、物質と用途の組み合わせで権利化されていることが多い。例えば、2015年にJCRファーマ株式会社より発売されたテムセルHSの用途特許は、物質と用途との組み合わせた用途クレームで権利化されており、製品の有効成分及び効能効果と一致している。

 特許を取るときは、まず製品をイメージして、上述の6つのポイントを押さえてから特許事務所に相談するといいだろう。

バイオ分野における価値のある情報(特許)とは?

 セッション後半では「バイオ分野における価値のある情報(特許)とは?」「特許の権利化の時期は早いほうがいい?」「交渉における専門家の活用方法とは?」の3つのトピックでフリーディスカッションを実施した(以下、文中敬称略)。

﨑地:製法ではなく物質で特許を取るのは私も賛成です。特許を権利行使しやすいかどうかは製薬会社が気にするところですね。

大門:製薬工場の現場に特許権者が入ることはできないので、製法の侵害があっても立証が難しい。成分や効能といった医薬品の添付文書に書かれている用途に関する部分であれば、侵害の立証もしやすいので、侵害品に対する訴訟も有利に運べるケースも多いと思います。

﨑地:大学発バイオスタートアップは、大学から出願するほうがいいのか、外に出したほうがいいのか、大門先生のお考えは?

大門:大学は味方につけたほうがいいと思います。将来的にも相談したいフェーズは発生するので基本は協業ベースで。ただし、自分たちの特許だという意識を強く持って、大学の知財担当者に、どのような戦略で権利化していきたいかを説明すれば、協力が得られるのではないでしょうか。

﨑地:大学のKPIは、特許の出願・登録件数になりがちで、強い特許を取ることにはインセンティブがないことに課題を感じています。そこは、スタートアップ側から言っていくことが大事ですね。

大門:大学の知財担当者の方は、シーズを拾い上げるのが仕事。それをビジネスにするのはスタートアップの役割なので、取得したい特許クレームの形は変わってきます。社内のリソースがなければ、社外の専門家に協力してもらうといいでしょう。

特許の権利化の時期は早いほうがいい?

﨑地:最近は早期審査など制度が充実していることもあり、早めに特許を取得するスタートアップが増えています。ただ、一度権利化してしまうと、権利範囲を拡張ないし変更ができないというデメリットもあります。

大門:スタートアップ側の資金繰りの状況にもよりますね。出願しても、お金がなければ審査請求はせず、資金を確保できるまでゆっくりと権利化を進めていくことも重要です。知財予算が潤沢にあれば、早期審査で早めに特許を取り、投資家を安心させる、あるいは共同研究で一時金をもらうこともできますし、取りこぼした発明については分割出願しながら権利化の道を残しつつ他社を牽制する手があります。ここで、インハウスの知財担当者がいれば分割出願を提案できますが、外部の特許事務所は社内の予算がわからないので、そこまで踏み込めません。

﨑地:出願前にきちんと全体の知財戦略と予算計画を立てておくことと、早期に出願・権利化する場合は、分割出願もしておくことをおすすめします。

交渉における専門家の活用方法とは?

大門:交渉の場に専門家が同席してくれるかどうかはとても大事だと思っています。大企業側には法務知財の担当者が同席するので、スタートアップ側にいないのは圧倒的に不利。向こうが発信するメッセージも正しく理解できないことがあるので、交渉がうまく進みません。

﨑地:その場で解決できることもいったん持ち帰らなくてはならないので、スピード感にも影響しますね。交渉は生ものなので、その場で進めるほうが良い結果になることが多いです。

大門:インハウスなら同席してその場で文言を修正したりしますよね。経営者が法務や知財の知識がある方ばかりではないので、サポートの意義はあるのではないでしょうか。

﨑地:どこで探せばいいのか、とよく聞かれますが、まだ数が少ないので難しいですね。

大門:弁護士、弁理士としての能力よりも、スタートアップを支援したいという熱意の部分がより重要だと思います。熱意のある方はSNS等でも情報発信していらっしゃいますし、IP BASEやこうしたイベントも活用して、ぜひ積極的に探してみてください。

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