41種類のアレルギー原因物質を30分で特定する製品など登場「FASTAR」ピッチイベント
「アクセラレーションプログラムFASTAR 2nd DemoDay」 ピッチレポート
独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)は2021年2月24日、「アクセラレーションプログラムFASTAR 2nd DemoDay」をオンラインにて開催した。本イベントは、中小機構が実施するアクセラレーションプログラム「FASTAR」の参加企業と投資家や事業会社とのマッチング機会の提供を目的としたもの。デモデイでは、第1・2期(2019年度)に参加した企業がプログラムの成果を発表した。
ピッチは、14社の企業が「IT・サービス」「ものづくり・製造業・化学」、「ヘルスケア・バイオ」の3つのカテゴリーに分かれて実施された。コメンテーターは、フェムトパートナーズ株式会社ジェネラルパートナー磯崎 哲也氏、XTech Ventures株式会社 代表パートナー手嶋 浩己氏、三菱UFJキャピタル株式会社 執行役員 ライフサイエンス部長 長谷川 宏之氏が務めた。
IT・サービス
IT・サービスカテゴリーは、スチームパンクデジタル株式会社、株式会社フロンテス、金沢QOL支援センター株式会社、株式会社KMユナイテッド、株式会社メディオテックの5社が登壇し、FASTARプログラムで策定した事業計画を発表した。
スチームパンクデジタル株式会社は、誰でも手軽に空間をスキャンし、3Dデータを共有できるクラウドプラットフォーム「3D Cloud(モノクルクラウド)」を開発している。このプラットフォームを基盤に、自宅にいながら不動産の内覧やインテリアの配置をARで体験できるサービス「Monocle Space Scanning」、リモートワーク向けの3Dプレゼンテーションシステム「Monocle Deck」の2つのプロダクトを紹介。
代表取締役のヒルトン アーロン キース氏は、「最初は日本の投資家から資金調達して、いずれは世界に発信していきたい」とのことだったが、磯崎氏は、「日本に特化したプロダクトではないので、せっかく英語に不自由してないのだから、資金調達規模の大きい欧米企業との競争に負けないよう、早い段階から海外での法人化や調達を検討してみては」とアドバイスした。
株式会社フロンテスは、ソフトウェアのテスト自動化ツール「STAR-RPA」シリーズを開発・販売している。現在普及しているテスト自動化ツールは海外製品が主流で、1.テストスクリプト生成のために多くの画面操作が必要、2.検証用のプログラミングが必要、という問題を抱えていた。「STAR-RPA」は、ドラッグ&ドロップでシナリオを組み立てるプレハブ方式を採用。シナリオからテストスクリプトを自動生成することで、画面操作やプログラミングなしにテストを自動実行できる。
これまで「STAR-RPA」はオンプレミスのシステム向けに開発・導入していたが、クラウド化し、4月にはAWS版がリリース予定。また多言語対応を進め、来年には海外向けにもサービスを開始する予定だ。
磯崎氏からは「海外のライバルが現れたら、どう戦っていく?」と質問。代表取締役の舟崎 信義氏は「我々は日本の厳しいユーザーの声を聴きながら育てられているので使いやすさには自信がある。コストも安いので、価格競争力も強みだと思います」と答えた。「テストツールは相対的に規模の小さい市場なので、シリコンバレーでは注目を浴びづらいとすれば、日本発のニッチになるかもしれない」と評価した。
金沢QOL支援センター株式会社は、在宅医療と障がい者就労支援の2つの事業を展開している。同社の強みは、社員の7割が医療・福祉専門職で、医療や介護が必要な人でも稼げる支援モデルを実現していることだ。訪問看護・就労支援サービス「REHAS」を金沢・名古屋・東京で運営し、看護やリハビリをしながら、民間企業への復職をサポートしている。新ビジネスとして、企業と福祉施設のお仕事マッチングサービス「ハタフク」を開始。企業と福祉施設の仕事の受発注を支援し、障がい者をもった方でも十分に稼ぎつつ、企業にとっての必要不可欠なマンパワーになる仕組みの構築を目指す。
磯崎氏からの「株式での資金調達も考えているのでしょうか」との質問に対して、代表取締役の岩下 琢也氏は「訪問看護の事業は、銀行から借り入れが中心でしたが、新規事業の福祉施設と企業のマッチングサービスは、エクイティファイナンスも考えながら成長していきたい」と回答。磯崎氏は「SDGsの流れもあり、社会貢献事業に対しての投資家の意識が高まっている。プレゼン次第では大きな出資調達も可能なので、ぜひがんばってほしい」とエールを送った。
株式会社KMユナイテッドは、独自のICTシステムで現場の人材を供給する「建設アシスト」事業、建設業向けの塗装ロボットの開発・販売、独自の育成制度とトレーニングプログラムによる職人の採用・育成事業の3つの事業計画を紹介した。2021年から新規事業としてスタートし、2027年のIPOを目指している。
磯崎氏は「非常に地に足の着いたビジネスモデル。ただし、VCから資金調達をするなら、6年後上場の計画ではゆっくり過ぎるかも。着実性も大事だが、2、3年IPOを前倒しにすることも検討しては」とコメントした。
株式会社メディオテックは、太陽光発電システムの開発やHEMS機器の開発・販売を手掛ける1996年創業の企業だ。現在は仮想発電所(VPP)の構築に向けたシステム開発に取り組んでいる。5年前からVPP実証事業を進めており、21年度も2件の実証を実施。また再生可能エネルギーの普及へ向けた活動として集合住宅に無償で太陽光発電を設置する「再エネをつくろう」、再生可能エネルギーの小売事業「再エネを使おう」、再エネファンド「再エネを増やそう」の3事業を展開。
磯崎氏は「政府もCO2削減にアグレッシブになってきており、時流に乗ったビジネスになるかもしれない」と評価した。
ものづくり・製造業・化学
ものづくり・製造業・化学カテゴリーは、有限会社飯田製作所、株式会社MiKuTAY、株式会社リプル、初野建材工業株式会社の4社が登壇。
有限会社飯田製作所は、フッ素樹脂PTFEやPEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)など、軟部材樹脂の高度精密切削加工と大量生産技術を有すメーカー。輸送機器のエンジン部品やブレーキ部品、産業機械向けの各種パッキンやシール等を製作し、年間生産数は1億個を超える。同社はこれまで接合が難しかった、フッ素樹脂PTFEと金属との強度な接合を実現。金属部品に比べ、軽量化による省エネ、錆びや腐食に強く長寿命、オイルレスでメンテナンスコストン削減などのメリットがあり、海洋ドローンのロボットアームや次世代自動車の摺動部への応用が期待される。新規事業として、フッ素樹脂PTFE+金属接合技術、フッ素樹脂ベアリング、PEEKギアの3つの部品を用いた事業の提携先を求めている。
コメンテーターの手嶋氏からの「提携先としては、部品の納入先以外の代理店も探しているのでしょうか。提携先として具体的なイメージはありますか?」という質問に対して、代表取締役社長 野渡 透一氏は「既存事業である車の部品については大手車メーカーと提携していますが、今後も引き続き安定生産しなくてはいけないので、新開発の製品については、別のルートを考えたい。例えば、船舶のアセンブリーをしている会社などとお付き合いできれば」と答えた。
株式会社MiKuTAYは、独自の熱交換技術を利用した熱交換器や排熱回収装置を開発。この熱交換技術は、国内と米国をはじめとする海外の特許権を所有。MiKuTAY式熱交換器は、小型・軽量化・デザインフリー・静かな稼働音・メンテ不要という特徴をもち、給湯器やエアコン、自動車のエンジンルーム、建設機械など幅広い分野に適用可能だ。今回のプレゼンでは3億円の資金調達を目的としており、量産体制を整備したのち、2024年3月にIPO申請を目指す。
手嶋氏は「SDGsや脱炭素の流れに乗っており、創業者の新田 實氏の実績もあるので、投資家の興味は引きやすい。すでに数社と量産化のお話をされているとのことですが、資本業務提携に進みそうな会社はありますか?」と質問。取締役 中谷 幸俊氏は「現在は豊田通商さんからの資本投資をしていただいていますが、事業会社との話はまだありません」と回答した。手嶋氏「こちらから提案していくのもありかと。事業会社に限定せず、商社にも声をかけると可能性があると思います」とアドバイスした。
株式会社リプルは、浄水場から排出される炭酸カルシウムを消石灰に加工する技術を開発。沖縄の水はカルシウムを多く含み、浄水場には軟化設備が設置され、年間3000~4000トンもの炭酸カルシウムが排出されている。一方で、ごみ処理施設では排煙処理材として高反応消石灰が使われているが、沖縄県内には高反応消石灰の製造工場がないという。そこで、浄水場から出る炭酸カルシウムを高反応消石灰に加工して再利用することを提案。現在は、日本大学理工学部、富山高専と産学連携で研究開発を進めている。台湾やオーストラリアなど国外の浄水場でも石灰ペレットが排出されていることから、将来は海外展開も目指している。
手嶋氏は「金融機関からの資金調達あるいは、事業提携のどちらを考えていますか」との質問対して、代表者代表取締役 富永 健作氏は「将来的な海外展開を見据えて、商社など一緒に世界に出ていけるパートナーを探しています」と回答。手嶋氏は、「商社は幅広い販路があるので、人づてでも探してみる価値はあると思います」とコメントした。
初野建材工業株式会社は、発がん性物質六価クロムの浄化剤「改良6出なし」を開発。住宅を建てる際にセメント固化材を使用した地盤改良工事を施すと、有害物質に指定されている六価クロムが溶出してしまう場合がある。同社は、この六価クロムを三価クロムに還元する放線菌ST13を利用した浄化剤「改良6出なし」を東京工科大学と産学連携で開発。地盤工事の際に「改良6出なし」を添付することで安全な施工が可能になる。
手嶋氏は「代理店やハウスメーカーを通じて販売していくうえで、何か障害になりそうなことはありますか?」と質問。吉武氏は、「セメント固化材の問題はいままであまり表に出ていませんでした。ハウスメーカー等が採用することになると、それ以前に建てた住宅はどうするのか、となってしまう。そのため、建設業界側はあまり大きく声を上げたくない、というのが実情です」とコメント。手嶋氏は「誰かを悪者にせずに進めていくには、最初に組む代理店が重要。今までの方法を否定しないように、PRの仕方に気を付けたほうがいいと思います」とアドバイスした。
ヘルスケア・バイオ
ヘルスケア・バイオ系カテゴリーは、株式会社テックドクター、マイキャン・テクノロジーズ株式会社、アール・ナノバイオ株式会社、株式会社N Lab、株式会社RAINBOWの5社が登壇。
株式会社テックドクターは、慶応義塾大学医学部でのメンタル研究を基にデータ診療サービスの開発に取り組むヘルステックベンチャー。同社は、オンラインでメンタルを見守るセルフメンタルツール「SelfDoc.」と、精神状態を分析するデータ基盤「SelfBase」の2つのサービスを提供している。精神疾患は治療期間が長く、通院や見守りを続けることが難しい。「SelfDoc.」は、患者がウェアラブルデバイスを装着することで心拍変動やなどから精神状態を分析し、院外データとして医師による常時の見守りを実現する。2021年4月からクリニックへの実証実験を開始する予定だ。
コメンテーターの長谷川氏からの「このアプリは医療機器として申請していくものでしょうか?」という質問に対して、代表取締役の湊 和修氏は、「現時点では医療機器としての申請する計画はなく、保険適用外ではあるが、カウンセリングよりも安価に提供できる」とのこと。長谷川氏は「デジタルヘルスは投資対象として魅力的。データ診療は鬱などメンタルヘルスケアに非常にマッチしていると思う。医療は規制が多く難しい領域ですが、ぜひ風穴を開けていただければ」とコメントした。
マイキャン・テクノロジーズ株式会社は、再生医療技術を活用し、感染症や免疫疾患などの研究用血球細胞の研究開発に取り組んでいる。2020年以降大きく変わった。新型コロナウイルスのように流行る時期がわからない感染症に立ち向かうには抗体の質の検査が重要だが、これまでは測定方法がなかった。同社はiPS細胞から独自の血球誘導技術を用いて未成熟の樹状細胞「iMylc細胞」を開発。iMylc細胞を使って抗体の質を測定することで、ワクチン接種のタイミング、個人の既存抗体に合ったワクチン、家族内の蔓延の3つの判断が可能になる。研究目的に応じた血球細胞や培養液を提供するほか、各種評価試験に必要な培養液や機材などをセットにしたキットも販売。昨秋には、新型コロナウイルス研究用の血球細胞(cMylc細胞)の開発に成功、提供を開始している。
長谷川氏は、「かなりの数の抗体の質を検査することになるが、どのように進めていく計画ですか」と質問。CEOの宮崎 和雄氏は、「最初は認可のいらない研究用の検査キットから始める予定です。同時に事業会社、製薬会社と提携してIVDへと繋げていこうと考えています」と回答。長谷川氏からの「今後どのような事業会社と組んでいきたいですか」という質問には、「今はニッスイさんが株主として培養液の研究開発にご協力していただいていますが、今回は診断なので、その分野の事業会社さんと組めれば。測定機の開発には機械メーカーさんともコラボレーションできると最高だと考えています」と答えた。
アール・ナノバイオ株式会社は、国立研究開発法人理化学研究所が開発した先端技術をコアとする理研認定ベンチャー。理研が開発した多数のたんぱく質や化学物質を1枚の小さな基板の上に固定化する技術を用いて、少ない検体で短時間に多項目検査が可能な院内検査システムを開発。応用製品として、41種類のアレルギー原因物質を指先の微量血液から30分で特定できる製品「ドロップスクリーン」を日本ケミファから発売し、全国のクリニックに導入されている。現在は新型コロナウイルスの抗体検査システムも開発中だ。
長谷川氏は、「41種類の多項目が一度に測れるのがこの装置の強みだと思いますが、今後、ほかの用途としてはどのようなものを考えていらっしゃいますか」と質問。代表取締役 伊藤 嘉浩氏は「感染症や自己免疫疾患の抗体検査などを考えています」と回答。長谷川氏は「アレルギー診断に比べて、感染症や免疫疾患などはそれほど診断結果の早さを求められていないかもしれない。すぐに結果がわかるメリットをもっと訴求していく必要があるでしょう」とコメントした。
株式会社N Labは、2017年設立の長崎大学発ベンチャー。欧米ではリモートでの病理診断が急速に普及しているが、日本は病理のデジタル化に遅れを取っている。同社は、これまでデジタル病理向けスキャナーの輸入販売などを行なってきたが、日本でのデジタル病理を広めるため、遠隔診療の環境構築をサポートするデジタルパソロジー事業を新たに展開。今後は、世界中の病理専門医のネットワークを用いた独自のコンサルテーションサービスの提供を計画している。
長谷川氏からは強みを問われると、北村氏は、「弊社が医療従事者のみで構成されているので、自分たちが使いたいAIが作れるのが強み。半面それは弱みでもあり、自分たちだけでは統合システムが作れないので、提携先を探しています」と回答。また、「オンライン診療の診療報酬要件が徐々に緩和されることが期待されるが、御社では、どのようなビジネスモデルを考えていらっしゃいますか」という質問に対して、北村氏は「デジタル化しただけでは診療報酬はつかないので、基本的には、コンサルテーションサービスは病院やドクターから報酬をいただくことを想定しています。将来的には病理の進んでいない東南アジアへの展開を考えています」と答えた。
株式会社RAINBOWは、2019年設立の北海道大学脳神経外科発のバイオベンチャー。同社は、脳梗塞向けの慢性期をターゲットに、自家骨髄幹細胞(MSC)を使用した幹細胞製剤「HUNS-002」を開発。HUNS-002を脳梗塞周辺部に直接投与することで、脳梗塞患者の麻痺症状の回復が期待できる。本人の幹細胞を使用するため免疫駆除されず長期生存が可能で、脳に直接投与するにより高い効果が得られるのが特徴だ。昨秋に脳梗塞の重症患者7名の医師主導治験(第一相)が終了、7名中6人が歩行可能になるという良好な結果が得られた。今後は2023年に第2相治験を開始し、2029年の薬事承認を目指している。
長谷川氏は「北海道大学での亜急性期をターゲットにしていたのを起業後は慢性期に変えた理由は?」と質問。取締役の川堀 真人氏は「北大の研究では医師主導治験は動物実験では慢性期のデータが十分に得られないため、急性期の患者さんでの治験になったという経緯があります。治験後、慢性期の患者さんから多くの問い合わせがきて、社会的ニーズの高さから慢性期のほうが強いと理解し、慢性期に移行しました」と答えた。また長谷川氏から、独自の強みを問われると、「自家細胞の最大の弱点は高いと思われていますが、我々の技術では自家細胞でも非常に安価につくれる。また、輸送や保存についても包括的に知財を押さえているので、排他性が高いと考えています」とコメントした。