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ゲームとマジックの共通点
動画配信サイトでも人気のジャンル、ゲーム実況。筆者もそのファンの一人です。
もともとは、最新のゲームのトレンドに触れて、自分の仕事(マジック)の参考にしようと見始めたのですが、すっかりハマり、毎日のように視聴しています。ゲームの楽しさを伝えるのが上手な配信者が増えてきたのも、そんな理由かもしれません。
ゲームがマジックの参考になるところはどこでしょうか? 両者の共通点は、同じエンターテイメントであることはもちろん、楽しさと驚きなどが、映画などと違ってインタラクティブに展開していくところにあります。
ゲーム同様、マジックはすごさをエスカレートさせずに、基本から離れないことも大切……。たとえば「予言」のマジックや「心を透視する」マジックなどは、数百年演じられ続けていても飽きられません。「未来を知りたい」「相手の心を理解したい」という人々の欲求は、時代を超えて人気です。

昔から人気の「透視のマジック」。"Dunninger's Complete Encyclopedia of Magic"(1963年)より
ゲームなら、やわらかいプチプチ(気泡緩衝シート)をつぶしていくような感覚の「ぷよぷよ」、おはじきをベースにした「モンスターストライク」、鬼ごっこがルーツといえる「Dead by Daylight」など、オールドゲームと新しいゲームのつながりの具体例は、枚挙にいとまがありません。
今もビッグヒット中の「Apex Legends(エーペックスレジェンズ)」も、多くの人が夢見た(ゴージャスでリアルな未来の)戦闘シミュレーションです。
人気ゲーム中継者が「時間が溶ける」と表現した「Loop Hero」
そんな2021年のゲームシーンで、筆者が注目しているのは「Loop Hero」。まるで、1980〜90年代に戻ったかのようなノスタルジックな画面、音楽に驚かれるかもしれませんが、人気ゲーム実況者が「時間が溶ける……」と評価するほどのおもしろさ。筆者もプレイしてみましたが、2〜3時間は軽く遊べます。

シンプルなダンジョンをループしながらゲームを進める
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Loop Heroは、一本道のマップを、タイトル通りループしながら成長していくローグライクRPG。3月5日にリリースされ、発売初週で50万本を売り上げました。
「ローグライクRPG」とは、自動生成されるダンジョンを回遊しながら敵と戦い、アイテムを集めていくタイプのゲーム。長く遊べるものが多いので、昔からのファンも多く、世界中で人気のゲームジャンルです。
「Loop Hero」のポイント
そんなLoop Heroのポイントは、以下の通りです。
○ノスタルジックにしたグラフィックとゲーム音楽を採用
○人の欲求(攻略したい、いろんなアイテムを集めたい)を、シンプルに追求
○戦闘シーンでの操作はほぼ無し
○キャンプを成長させ、デッキを選択するなど、奥が深い戦略が立てられる
上で触れたように、ゲームのインターフェイスはドット絵の雰囲気。昔からのゲームファンならご存知の名作ゲーム「魔界村」、もうすこし後の時代で言えば「アクトレイザー」などを思い出させます。
Loop Heroは、日本語に完全対応ですが、わざわざビットマップフォントを採用するこだわりよう。ゲームミュージックも8bitサウンド風ですが、音楽だけで楽しむこともできるほどの完成度です。

まるで80〜90年代のゲームのような戦闘画面
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また、戦闘や移動はほぼ自動のため、プレイヤーは冒険の中で手に入る「カード」によってマップをカスタマイズしたり、武器や防具などの装備アイテムを入れ替えたりして、ゲームを進めていきます。
手に入れた資源は「キャンプ」のアップグレードに使用することで、冒険の手助けとなる設備を充実させられます。しかし、新しく施設を立てるとマップが変わるため、また一から冒険を始めることになります。
その結果、プレイヤーに以下のような効果を生んでいます。
●ゲームを続けても疲れない
●引き際が難しく、すぐにまた遊びたくなる
●数分〜数時間まで、幅広く遊べる
●他プレイヤーに遠慮しない
ノスタルジックな雰囲気による親しみやすさは、何度プレイしても飽きません。さらに、冒険を何度も繰り返す中で、攻略しやすくなるアイテムをどんどん集めたくなりますし、毎回マップが変わるために、「もう一回……」と遊びたくなるのです。
また、最近は、在宅ワークなどで、メールや企画書など非同期(時差のある)コミュニケーションよりも、Web会議など「リアルタイムで同期の必要なコミュニケーション」が増えてきました。ゲームでも、オンラインで他者と争う、または協力プレイする、同期タイプのゲームが主流になりつつあります。
そんな中、いつでもプレイを中断、再開でき、他プレイヤーに気を使うことのない、非同期なローグライクRPGが注目され、50万本を超えるヒットになった。筆者はそう分析しています。
最新ゲームトレンドは、イノベーションのヒントになる
マジックもそうですが、ゼロからスタートするスクラッチビルドは大変です。R&D(研究開発)に資金を投じられる大企業と違い、インディーズなゲームメーカーも状況は同じでしょう。
そんな中で、昔から人の心をつかんできた「遊び」や「欲求」。そこからイノベーションをスタートさせるのは、とても賢い方法だと思っています。
古いことわざに「新しい酒を古い皮袋に入れず、新しい酒は新しい皮袋に入れるべき」があります。つまり、古い革袋だと漏れたり、酒が傷んでしまったりするからダメ……というのが、その趣旨。
しかし、今は「古い酒を新しい皮袋に入れる」、つまり、昔から愛されるモノを大切にしつつ、時代に合わせて新しいプロダクトにする。そんなエコロジカルな発想が大切な時代になったのかもしれません。
前田知洋(まえだ ともひろ)

東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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