ノンフィクション9割 だからリアリティがある
オオタニ:苦労した部分を教えてください。
沢渡:まず小説を書くのにあたって、現場のリアルに忠実になるというのがポイントだと思いました。でも、私はkintoneを導入することで変わった現場を見る体験がなかった。そこはぎっさんにフルに相談しつつ、ソニックガーデンのとあるお客さまをベースに書いています。だから、ノンフィクション9割くらい(笑)。
高木:取材してもらった感じですよね。小説を書いてもらうときにも、基本となるお客さまの事例はありつつ、悩みや課題に関してはいろいろなお客様の事例を混ぜて提供させていただいた感じです。
オオタニ:だからリアリティのある事例なのですね。なるほど。
高木:正直、解説をどこまでくわしく書くかは最初に迷いました。手順書やマニュアルみたいな書き方もあったと思うのですが、結局そうしませんでした。これからkintoneさわる人、使っているんだけどつまづいちゃった人がもう一歩踏み出してもらうには、マニュアル書くのではなく、できるイメージを持ってもらうことが大事だと思いわりと事例は多く入れました。手順書っぽく書いているところも「簡単だよ」ということを伝えるために意図的に入れた感じになっています。
オオタニ:紙の本でありながら、すでにあるコンテンツに関しては、Webサイトへのガイドを入れてあったりしますよね。一方で、スペースとか、レコードとか、プラグインとか、kintoneならではの用語や概念については丁寧に説明されているなという印象を持ちました。
高木:確かに検索できるようにあえてキーワードを入れるという工夫をしました。。本からWebページに飛んで調べたり、kintoneのイベントで聞いたキーワードを本で調べたり、いったり来たりできますから。
沢渡:カタカナ用語ばかりでセミナー聞いている人がフラストレーションを抱えてしまう問題ってあるじゃないですか。でも、私は必ずカタカナ用語で説明しています。なぜなら、その場でかみ砕いて説明しても、結局カタカナ用語を知らないと、検索できないから。これを前置きで説明すると、フラストレーションは回避されますよね。
経営者やマネージャーが最近口をそろえて言う台詞とは?
オオタニ:どのように進めたんでしょうか?
沢渡:一言で言えば、ウォーターフォールとアジャイルのハイブリッド型ですね(笑)。まず私がそれぞれの小説パートと解説パートでなにを伝えるのかの設計図を書きました。ある意味、最初に要件定義するスタイルですよね。
実際の執筆に関しては、私が小説パートを先行して書き、それをぎっさんに読んでもらいながら、解説パートを埋めてもらった感じです。まさにアジャイルなアプローチで進めていきました。
高木:沢渡さんが小説パート書くのめちゃくちゃ速かったので、プレッシャーでした(笑)。
沢渡:ストーリーものってノッているときに一気に書かないとうまくいかなんですよ。以前書いたストーリーを思い出したりしながらだと、登場人物のテンションを継続できないんですよね。だから、時間ができたときに一気に書きました。
高木:でも、途中から沢渡さんの小説が楽しくなってきて、主人公の気持ちでほしい情報を書いたり、主人公に教える業務ハッカーだったらこんな話するかなという目線で書けました。そこは主人公たちからうまく誘導してもらった感覚でした。
オオタニ:本を読んで面白かったのは、主人公と業務ハッカーのやりとりですかね。通常の情シスとベンダーの関係だと、あそこまでの悩みの共有はやらないと思うんですよね。
高木:お客さまの案件でも、私たちが二人三脚でやらせてもらっている感覚があります。お客さまに教えてもらっていることも多いし、もちろんわれわれがプロとして提供しているものもありますし、とにかくいっしょにやっている感があります。
沢渡:業務ハッカーって向き合い方の本気度がちょっと違うんですよね。この2ヶ月、数えてみたら中小企業の経営者や大企業の部門長、コンサルティングファームやクラウド事業者の責任者など11人くらいに会ってきたのですが、みなさん口をそろえて言うのが「業務とITの橋渡しをできる人がいない」と。けっこう、いろいろな立場の人がこの話をするので、日本企業の普遍的な課題なのかなと思っています。
業務ハッカーのホームポジションはITでも、業務でもどっちでもいい
オオタニ:業務ハッカーという存在は昨今よく出てくるDXという活動にも重要な役割を果たしそうですね。
沢渡:クライアント企業はDXの重要性についてはわかっているのですが、実際に現場に入って見てみると、ITを使ってくれないとか、デジタルで仕事してくれないので、情報や行動がデータ化されず分析もできない。こんな話が山のように出てきます。
当然、業務とITをつなぎ込む人が絶対的に必要という話になるのですが、情シスでも、現場でも、コンサルでもこの役割がなかなかできないんです。だから、現場に地に足がついていて、なおかつITもちょっと分かる業務ハッカーのような人が社内外のいずれかに必要になるんです。
オオタニ:逆に言うと、うまくいっているところって、誰かしらそういう存在になっているんですよね。
沢渡:「業務ハッカー」って今まで存在自体が言語化されてこなかったんですよね。たとえばマーケティング部門のIT担当って、あくまでマーケティング部門のキャリアパスしか用意されていないので、マーケティング×ITという存在になれない。ちょっとITやコンピューター詳しいからボランティアで手伝ってもらうような存在なので、企業が育成するキャリアプランの対象にならない。だから、業務でも、ITでもない、なんだか中途半端な存在になってしまうんですよね。
オオタニ:ソニックガーデンにお仕事をオーダーするときも、業務ハッカーくださいというわけではないですよね(笑)
高木:うちは開発会社なので、社内システムがほしいですという依頼がほとんど。実際に案件に入ってみると、社内に業務改善をしている人がすでにいるというパターンは多いですね。でも話を聞くと、やはりITのプロではないので、情報も集まってこないし、仲間もいないという感じ。うちは逆にITのプロが多いので、そういった人に業務について教えてもらっています。
沢渡:その意味で、業務ハッカーって、業務に詳しい人でも、ITに詳しい人でも、「ホームポジション」がどっちでもなれるんです。だから業務ハックの役割をきちんと言語化し、育成すべきキャリアとして定着させていきたいという想いは強いですね。