中小企業情シス担当者のための“IPv6対応入門”2021年版第1回

「インターネットアクセス回線」「SaaS」の変化に対応し、快適で業務効率の高いネットワークを作る

なぜいま中小企業のネットワークに“IPv6対応”が必要なのか

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 監修● 久保田 聡/日本ネットワークイネイブラー

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中小企業のIPv4アクセス回線における課題と解決のポイント

 さて、こうした業務アプリケーションやインターネットの変化に伴って、既存のオフィスネットワーク、特に中小企業などでよく利用されているフレッツ光などのIPv4インターネットアクセス回線にはどのような課題が生じるのだろうか。

 まずは「SaaSの業務アプリケーションが重い、Web会議が途切れる」といった課題だ。これはIPv4インターネット回線の“混雑”が原因として考えられる。近年、NTT東西の提供するフレッツ網では、インターネットとの“出入口”となるISPとの接続部分(PPPoEネットワーク終端装置)が通信のボトルネックになっていることが指摘されている。ここを経由するアクセス回線を利用する以上は、ユーザー側での課題解決は難しい。

 同様に、NAPT(NAT)処理を行うネットワーク機器(ルーターやWebプロキシ)の負荷増大とパフォーマンス低下も課題だ。前述したとおり現在のSaaSは使用中に大量のセッションを維持するようになっており、たとえばOffice 365だけでもPC 1台あたり数十から100程度のセッションを消費することがある。同時に接続する社内のPC台数が増えれば、NAPT処理を行う機器の負荷が重くなり、パフォーマンスの低下やセッションの切断といった事態が起こる。

Office 365など複数のSaaSを使いながら、netstatコマンドでセッション数を計測した例。このときはPC 1台だけで124セッションを消費していた

 他方では、リモートワーク/在宅勤務の急増に伴って「VPN帯域の不足」という課題も多く指摘されるようになった。これまで外勤営業職など一部社員のみが利用する前提だったVPNが、いきなり全社員が利用するものとなり、設計時に想定していたキャパシティを大きく超えたためだ。しかも、在宅勤務環境下ではSaaSやWeb会議の利用頻度も高まり、1人あたりの消費トラフィック量も自然と増加する。これが「社内システムにアクセスできない」「インターネットアクセスも非常に重い」といったエンドユーザーの不満につながる。

オフィスネットワークのインターネットアクセス回線では、状況の変化によってさまざまな課題も生じつつある

 では、こうした「インターネットアクセス環境の劣化」をどうすれば解消できるだろうか。

 ひとつは、本連載のテーマである「インターネットアクセス回線のIPv6対応」だ。具体的には、旧来のIPv4アクセスからIPv6アクセスへと切り替え、なおかつWeb上のIPv4コンテンツにも従来どおりアクセスできる環境を整える。詳しくは次回以降で説明するが、これによりインターネットアクセスが効率化され、接続が重い、途切れるという課題やルーター負荷の課題を解消していくことができる。

 もうひとつは「インターネットブレイクアウト(ローカルブレイクアウト)」の活用である。ブランチオフィス環境やリモートワーク/在宅勤務環境において、SaaSやインターネットへのアクセストラフィックはVPN(拠点間VPN、リモートアクセスVPN)を介さず、直接インターネットに流すというものだ。こちらは本稿のメインテーマであるIPv6対応と直接は関係ないが、SaaS活用やリモートワーク化が進みトラフィックが変化している現状に合わせて取り組むべきものである。

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