中小企業情シス担当者のための“IPv6対応入門”2021年版第1回
「インターネットアクセス回線」「SaaS」の変化に対応し、快適で業務効率の高いネットワークを作る
なぜいま中小企業のネットワークに“IPv6対応”が必要なのか
はじめに
今回から始まる本連載では、中小企業の利用するオフィスネットワーク、特にインターネットアクセス回線における「IPv6対応」を進めるためのポイントやノウハウを紹介していく。主にインターネットアクセス回線のIPv6対応を通じて、現在のオフィス業務とビジネスで必須となっている快適なネットワーク環境を実現し、業務の効率化を進めることが目的だ。
ただしその前に、それが「なぜ」、しかも「いま」必要なのかを説明しておかなければならないだろう。連載第1回目は、その理由について「業務アプリケーション」と「インターネットアクセス回線」という2つの観点から説明していきたい。
現状:業務アプリケーションのクラウド化とトラフィックの変化
企業ITの過去10年間ほどを振り返った際、やはり最も大きな変化は「クラウド化」と言えるだろう。現在ではどんな業種でも、企業規模を問わずメール、ファイル共有、グループウェア、ビジネスチャットといったクラウド業務アプリケーション(SaaS)を利用するようになった。「Office 365(Microsoft 365)」や「Google Workspace(旧称 G Suite)」といった業務スイートのほか、最近では「Zoom」や「Microsoft Teams」といったWeb会議アプリケーションの利用機会も増えたはずだ。
業務アプリケーションのクラウド化は、現場のエンドユーザーにとって利便性と業務効率を高めるだけでなく、初期導入コストが抑えられる、運用管理の労力も軽減されるなど、企業とIT管理者にとっても大きなメリットをもたらす。クラウド化の動きは今後も続くのは間違いない。
さて、こうしたクラウド化が進むにつれて、オフィスネットワークのトラフィックにも変化が起きている。かつての業務システムサーバーは自社内にあり、エンドユーザーの手元にあるPCクライアントからLAN経由でアクセスするのが主流だった。だがクラウドアプリケーション、SaaSを利用するうえでは、社外のクラウドデータセンターとインターネット経由で通信することになる。さらに現在のクラウドアプリケーションでは、使い勝手を向上させるため、PCブラウザとの間で多数の通信セッションを利用して常時やり取りを続けるようなものが多い。
他方では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてリモートワーク/在宅勤務の機会が増加している。これまで社内にあった業務PCが社外でも接続するようになり、インターネットVPNを経由して社内サーバーにアクセスするケースも増えた。これもまた、オフィスネットワークのトラフィックに生じている変化の1つだ。
こうした変化の結果、オフィスネットワークのインターネットアクセス環境はこれまで以上に重要な価値を持つものとなっている。言い換えれば、快適にインターネットアクセスができないオフィスネットワークは「業務効率を悪化させる原因」になるわけだ。
現状:進むインターネット回線やSaaS/Webコンテンツの「IPv6対応」
続いてもうひとつの観点、インターネットアクセス回線の変化について見てみたい。
日本国内では近年、家庭や企業からのインターネットアクセス回線のIPv6対応が急速に進んでいる。詳しくは過去記事を参照いただきたいが、グローバルIPv4アドレスの枯渇、NTT東西が提供するフレッツ網のIPv6化(NGN)などを背景として、ISP(インターネットサービスプロバイダー)やモバイルキャリアなどのアクセス回線事業者では、IPv6を基本としたインフラ投資やサービス提供を行う方向に舵を切っている。
ISPやキャリアと同様に、SaaSプロバイダーでもグローバル大手を中心として、今後のビジネスメリットを考えたIPv6設備への投資とサービスのIPv6対応が進んでいる。たとえばOffice 365やGoogle Workspaceなどでは早期から積極的にIPv6対応を行っており、今後さらにIPv6アクセスが増えるにつれて、国内SaaSプロバイダーも含め、IPv6対応は広がっていくだろう。
そして(ここが重要なポイントなのだが)、こうしたアクセス回線やWebサービス(コンテンツ)のIPv6対応は今後も「不可逆的に」進むことになる。これまでゆっくりと進んできたIPv6対応が、加速していく段階に入っていくと言えるだろう。