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MacインスタンスはMac mini+NitroチップでEC2化を実現

世界最大の再エネ企業を目指すAmazonのサステイナビリティ

2020年12月29日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 「AWS re:Invent 2020」で披露されたインフラストラクチャキーノートの後半は、自社製シリコンとサステイナビリティがテーマ。登壇したAWS インフラストラクチャ&サポート SVPのピーター・デサントス氏はMacインスタンスの舞台裏や自社開発のArmプロセッサーであるGravitonの設計思想、そしてAmazon全体が取り組む再エネの現状などを惜しげなく披露した。

AWS インフラストラクチャ&サポート SVPのピーター・デサントス氏

Macインスタンスの正体はMac miniとNitroチップだった

 高可用性に向けた取り組みに続いてのトピックは、AWS製シリコン(半導体)についてだ。AWSが自社でシリコン開発を手がけるのは、性能向上だけではなく、電力効率、新機能、セキュリティなどさまざまな目的がある。2014年、アナプルナラボ買収以降、AWSはEC2における仮想化やセキュリティ、ネットワーク処理をオフロードするNitroチップの開発を進め、現在ではすでに第4世代にまで進化している。

 このNitroチップの恩恵を受けているのが、発表されたばかりのMacインスタンスだ。発表時にはAWSの担当者がトラックで大量のMac miniを調達してくるというビデオがリリースされたが、Macインスタンスでは本当にMac Miniを用いているという。具体的には、Mac miniがThunderbolt経由でNitroチップに接続することでEC2化を実現しており、既存のEC2と同じくすべてのAWSサービスをネイティブで利用できるという。

MacインスタンスはMac miniとNitroチップで実現

 第4世代のNitroチップを採用したc6gnインスタンスは非常に高いネットワーク性能を実現しており、遅延やジッタも小さく、電力効率も高まっている。また、機械学習専用チップの「AWS Inferentia」は、既存のGPUに比べて約半分のコストで推論ワークロードを実現。さらに先日は2番目の機械学習用チップとして、トレーニング用の「Trarinium」も発表されている。

クラウドワークロードに最適化されたGravitonの設計思想

 そして本丸とも言えるCPU(汎用プロセッサー)に関しては、高性能・低コストを目指したArmベースのGraviton2を投入している。デサントス氏は、Gravitonの設計思想について詳細を説明した。

 ムーアの法則に則って、毎年のように高い性能を更新し続けてきたプロセッサーの性能が頭打ちになったのは今から15年前にさかのぼる。単一のプロセッサーの性能向上が難しくなった結果、CPU開発はマルチコア化に進み、アプリケーションも並列処理が求められるようになった。並列処理の手法としてはOSによるマルチプロセス処理やプログラムのマルチスレッド対応などが採用されているが、現在のモダンなクラウドワークロードは、むしろ目的特化型のサービスの集合体であるマイクロサービス化に進んでいる。

 この結果、現在の汎用プロセッサーはスケールアップ型のレガシーアプリケーションとスケールアウト型のモダンアプリケーションのいずれもカバーする宿命にあるという。しかし、並列処理に最適化されていないレガシーなワークロードにおいてはコアに待ち時間が発生するにも関わらず、全体が停止しないことを担保しなければならないため、コアがどんどん巨大化・複雑化することになる。

スケールアップ型とスケールアウト型のワークロードを両立する必要性

 この制限を回避するため、1つのコアで複数のタスクをこなす同時マルチスレッディング(SMT)が生まれた。しかし、この方法ではコアの利用効率は上がるが、各スレッドが他のリソースの利用状況の影響を受けてしまうという課題がある。ワークロードの競合が発生し、同じコアのスレッドの速度を落としてしまうため、アプリケーションの性能が安定しない。また、異なるスレッドでコアを共有するSMTではサイドチャネル攻撃の懸念もある。なによりトランジスタは使われなくても電力を消費する。「モダンなコアはプロセッサーの一部の電力をオフにしようとするが、複雑な電力管理機能によって性能はさらにばらついてしまう。パフォーマンスチューニングが非常に難しくなる」とデサントス氏は指摘する。

 これに対してGraviton2は、モダンなクラウドワークロードを前提に、スケールアウト型アプリケーションの実測性能を高めるように設計されている。SMTはもちろん、ステートトランジション、スロットリング、複雑な電力管理などの機能を排除し、コアごとの独立性を高め、各スレッドが一貫したパフォーマンスを出せるように作られている。また、x86プロセッサーよりも大きなL1、L2キャッシュをスレッドごとに占有できるため、高速で性能も均一化されており、セキュリティも確保されている。

Graviton2を用いるc6g.largeインスタンスはスレッドはコアやキャッシュを占有できる

 続いてデサントス氏はHammerDBを用いたPostgre TPCベンチマークを披露する。コアごとにメモリを共有する既存プロセッサーを用いたM5インスタンスは48スレッドから性能が頭打ちになるが、Graviton2を採用するM6gは48コア以上も線形で性能向上が見られる。しかも、スケールダウンも可能なので、小さなワークロードも扱える。コスト性能比もM5に比べると、M6gの方が60~80%も高いという。「重要なのはカスタマーワークロードにおいても成功を収めているということだ。お客さまの環境でも、想定した性能やプライスパフォーマンスを実現している」デサントス氏はアピールする。

2025年にはカーボンニュートラルを実現

 最後、デサントス氏がテーマに掲げたのは、サステイナビリティについてだ。昨年、Amazonは2040年までに二酸化炭素の排出量ゼロ(カーボンニュートラル)を達成するという「CLIMATE PLEDGE」の宣言を行なった。この宣言に賛同したのはベライゾン、シーメンス、ユニリーバなど31社で、2040年までという期限はパリ協定より10年早いという。

 「もっともクリーンな電力利用は電気を使わないことだ」(デサントス氏)ということで、AWSは以前から電力効率に注力してきた。サーバーなどのIT機器はもちろん、データセンターの冷却機器なども含めてだ。最初のトピックで述べたとおり、現在AWSはデータセンターから大型のUPSを排除したことで、直流・交流のエネルギー変換ロスを35%下げることができたという。また、電力利用効率の高いGraviton2も投入し、コンピューティングにおける電力性能比も追求している。

 デサントス氏は、「調査によると、AWSのデータセンターは既存のエンタープライズデータセンターに比べて、3.6倍もエネルギーの利用効率が高い。継続的な電力効率の改善と再生可能エネルギーへの取り組みにより、お客さまは他のデータセンターに比べて最大で88%も二酸化炭素の削減ができる」と語る。

既存のエンタープライズデータセンターに比べて88%も二酸化炭素を削減できる

 2018年、Amazonは再生可能エネルギー計画を発表。900メガワットクラスの風力・太陽光発電施設が構築され、世界中の倉庫と配送センターに太陽光パネルが設置された。昨年は1300メガワットクラスの計画を明らかにし、米国以外のアイルランド、スウェーデン、イギリス、スペイン、オーストラリアで風力発電施設をロールアウトしているという。

 今年もすでに700メガワットクラスのプロジェクトが稼働しており、今回はさらにイタリア、フランス、南アフリカ、ドイツで3400メガワットクラスの施設が追加。「2020年は4200メガワットを再エネで発電することができた。Amazonは再エネの調達において企業で最大だ」とのことで、最終的には6500メガワット以上を再エネによってまかない、2025年にはカーボンニュートラルを達成するという。

 Amazonは間接的な二酸化炭素の排出にも配慮しており、データセンターの建設で用いられるコンクリートに関しても、具体的にはサステイナブルな代替品を使うことで、セメントの原料となるクリンカーを排除している。さらにセメントの中に二酸化炭素を閉じ込める代替品の開発についても投資を進めているほか、冷却に用いる水は一部で農業用水へ再利用を進めている。カーボンニュートラルに向けた取り組みにおいて、メガクラウド事業者としての責任感を果たしていこうという意気込みを感じられるセッションだった。

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