エッジコンピューティング、サーバレス、Quarkus― 最新版Kubernetesプラットフォームの方向性
開発者シフトを加速させた「Red Hat OpenShift 4.6」
2020年12月15日 07時00分更新
◇開発者体験の向上
Red HatはOpenShift上でサーバレスコンピューティングを実現するサービスとして「Red Hat OpenShift Serveless」を提供している。これはKubernetesでサーバレスを実現するコンポーネント「Knative」をベースにしており、以下の3つの機能が提供される。
・Knative Build … ソースコードからコンテナをビルドする
・Knative Serving … コンテナイメージを起動/実行するほか、オートスケーリングや通信も行う
・Knative Eventing … Knative Servingで起動したサービスと連携し、イベントタイプ/アトリビュートに応じてルーティングし、処理を行う
OpenShift Serverlessも同様に「Build」「Serving」「Eventing」の3つのコンポーネントで構成されるが、今回のOpenShift 4.6およびOpenShift Serverless 1.11のリリースにより、Build、Servingに加え、Eventingも一般提供が開始された。これにより開発者はOpenShift上でイベントドリブンなアプリケーションを容易に実装することが可能になる。
イベントソースはKnativeで利用可能なリストから選択できるため、AWS KinesisやAWS SQL、Salesforce、Slack、JIRAなど多くのイベントソースに対応する。またイベント配信アーキテクチャには分散メッセージング/イベントストリーミングプラットフォームとして広く使われているパブサブ(pub/sub)型の「Apache Kafka」をKuberentesに特化させた「Red Hat AMQ Streams」を提供しており、信頼性の高いイベント配信を実現している。
開発者向けの機能強化に関連するもうひとつの大きなニュースが、OpenshiftサブスクリプションでのQuarkusのサポートだ。QuarkusはKuberentesネイティブの軽量なJavaフレームワークで、Javaによるクラウドネイティブアプリケーション開発を推進するオープンソースプロダクトとして注目度が高まっている。
25年前に開発されたJavaは、エンタープライズのあらゆる現場で使われてきたプログラミング言語だが、マイクロサービスやサーバレスといったモダンなアプリケーション開発には向かないとされてきた。QuarkusはJavaをクラウドネイティブアプリケーションに対応させるためのプロダクトで、GraalVMやOpenJDK HotSpot向けに調整されている。Red Hatはこれまで積極的にQuarkusを支援してきており、Red Hat RuntimesサブスクリプションでQuarkusをサポートしてきたが、今回のアップデートによりOpenShiftサブスクリプションに統合されることになり、開発者は使い慣れたツールからクラスタ上でリモート開発を行うことが可能になる。
フルマネージドOpenShiftサービスは平均75%値下げ、競争力を高める
Red Hat Openshift 4.6の発表とともに、Red Hatはマネジメントプラットフォームである「Red Hat Advanced Cluster Management(ACM) for Kubernetes 2.1」もリリースしている。ACM for Kubernetes 2.1では、下記4つのカテゴリでアップデートが行われている。
・マルチクラスタ管理 … vSphere上へのOpenShiftクラスタの展開、ベアメタルサーバ上へのOpenShiftクラスタの展開
・ポリシー管理 … オープンソースポリシーリポジトリ、OPA(Open Policy Agent)統合
・アプリケーションライフサイクル管理 … シンプルなアプリケーション展開、Ansible Automation Platformとの統合(テックプレビュー)
・クラスタおよびアプリの監視 … Thanosによるクラスモニタリング、Grafanaを用いたマルチクラスタ状況の可視化
とくに注目されるのが、テックプレビューとして実装されたAnsible Automation Platformとの統合である。組織全体のITインフラを自動化するプラットフォームとして評価が高いプロダクトをOpenshiftに統合することで、既存のレガシーなIT環境とクラウドネイティブなコンテナベースの環境を連携し、同社がめざす“オープンハイブリッドクラウド”における自動化が加速することが期待されている。
運用面に関するもうひとつの重要なアップデートとして、レッドハットはOpenShiftのフルマネージドサービス「Red Hat OpenShift Dedicated」および各パートナー企業によるマネージドOpenShiftサービスの平均75%値下げを実施している。こうした価格改定の一方で、SLA(サービス稼働保証)は99.95%に改善しており、マネージドKubernetesサービスとしての競争力が大きく向上している。運用が煩雑なKubernetesプラットフォームの管理はサービスプロバイダに任せ、ユーザ企業がビジネスのコアとなるモダンアプリケーション開発に専念できる環境を整える――今回のOpenShift 4.6でその傾向がますます強まった印象だ。
レッドハット 製品統括 事業戦略 担当本部長の岡下浩明氏は、「Openshiftの国内展開にはすごく手応えを実感している。Kubernetesによるオープハイブリッドクラウドを国内で浸透させていくには、技術も重要だが『組織文化の変革』も必要だと思っている。技術と文化の両方の側面からKubernetes導入を支援していきたい」と語る。
開発者向けにフォーカスした最新の機能が数多く実装されたOpenShift 4.6だが、一方で国内企業にまだ多く残るレガシーとの融合も課題として残る。クラウドネイティブとレガシーを一貫性をもって連携させるブリッジとして、幅広い業種業界で機能していくことがOpenShiftには期待される。