n次創作者がインセンティブを受け取れる試み「n次流通プロジェクト」とは?

ブロックチェーンで漫画アニメゲームのファンが得する社会を作る!

文●石井英男 編集●ASCII

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n次創作による人気/購買動向を可視化

中尾 鈴木さんと藤井さんが仰るように、数年前から非金融分野でのブロックチェーン活用の実証実験は行われていました。角川アスキー総研も以前から取材や企画に参加しており、その流れで「n次流通プロジェクト」に参画しました。

 じつは我々にもブロックチェーンで解決できるかもしれない課題・目的が3つありました。1つ目は、「コンテンツがどのように話題になって、どんな人たちが話題にしてくれているのか?」がメディアを横断して追いきれなくなっていることです。大ヒット作品であればインフルエンサーの動向を追えるかもしれませんが、細かいレベルでは把握するスキルや手段がありません。

 そこで実験に参加することによって、コンテンツがどういう形でヒットしていったかという経路を掴んだり、どんな人が発信することによって購買に変化が変化したかなどを可視化できればいいな……というのが、目的の1つです。

 2つ目は海賊版対策です。ブロックチェーンを応用することで海賊版の見極めができればと。

 そして3つ目が最も大きな目的でして、たとえばファンがSNS等で作品を紹介することによって、「インフルエンサーには広告収入があったり、出版社は副次的に電子書籍などが売れる」という関係性がありますが、出版社や著者とはビジネス的な関係もなければ把握もできていない状況です。ついては新しい収益源になるようなスキームを組んだり、インフルエンサーに対して特別なインセンティブをお戻しするような施策ができないか、と。

角川アスキー総合研究所 主任研究員 中尾文宏氏

n次の価値は一次コンテンツを超えられるのか?

―― このプロジェクトを始めた経緯や役割分担について教えてください。

鈴木 最初に漫画コンテンツありきという動きではなく、個人情報の扱いに関して自己裁量権が大きく拡大していくという社会背景と、クラサバ方式からブロックチェーンのような分散型へというP2P型のコミュニケーションテクノロジーの普及という流れを結びつけて立てた仮説が、「漫画コンテンツのn次創作行為、n次流通行為に対する適切なインセンティブ、報酬設定をすることで、n次コンテンツが定価を上回るだけの価値、もしくは経済規模を二次流通以降のn次商圏によって実現できるだろうか?」というものです。

 漫画のn次流通が上手く動いた際、スケール化させるために複数の会社さんにお声がけいたしまして、実験結果に関してはシェアできる場をつくっていきましょう、という形で組みました。

―― 基本的には電通、シビラ、角川アスキー総研の3社で進められる形になっていたわけですね。

鈴木 はい、小さな会議体としては3社で動けるようになっていました。ISIDやVOYAGE GROUPなどとは不定期に拡大会議を開くかたちです。

n次流通プロジェクトに参加した7社の役割

ブロックチェーンは「価値のインフラ」である

―― 今回のプロジェクトの技術的な面で核となっているのは、PID(プログラマブルID技術)だと思います。その特徴を教えてください。

藤井 まず前提として、インターネットは情報のインフラですが、ブロックチェーンは価値のインフラなのです。インターネット上ではコピーのコストが限りなくゼロになります。それは便利な反面、情報に信頼性がないとも言えてしまいます。ところがブロックチェーンはインターネット上に信頼を作れるのです。これは「価値のインフラである」という認識を我々は持っています。

 まず重要なのはトークンです。これは「現実で価値があるのに、現状では価値として流通していないもの」に価値を付与するためのものです。たとえば地球に優しい農法を実施しても、ある意味得しているのは地球なので、地球は何も対価を払ってくれません。ここにトークンを足すことによって、サステナブル(持続可能)になるというところが1つのポイントです。これが実現したものを「トークンエコノミー」と呼んでいます。

 最終的なビジョンというか我々のテーマとしては、たとえば私は水泳が得意で小学校のときにバタフライで日本一になったこともありますが、陸上はそうでもありません。もし、世の中のスポーツが陸上競技オンリーだったら、私は運動音痴ということになります。ひるがえって現在の世の中は「お金の取り合い合戦」というゲーム一択ですが、お金儲けの優劣だけで人間が測れないこともまた事実です。本来は、ゲームの種類として「働き方/生き方/稼ぎ方」といった選択肢があるべきなのです。要は、地球に優しいことを続けるだけで食べていける人が生まれればいいなと。

 物質的な豊かさを測る指標が通貨ですが、我々はその指標を増やすことを目的にしているとも言えます。精神的な豊かさを測る指標で成り立つエコノミーを作っていきたいなと。その上で重要なのが、自分のアイデンティティー構築に役立つことです。

 たとえば現実社会ではものすごいダメなレッテルを貼られているけれども、じつは特定のゲームではレジェンド級という人がやっぱりいるんですね。でも現在は人間のすべてのアイデンティティーを表現する手段がないので、ゲームが上手いという情報は抜け落ちてしまいます。ですからトークン化のメリットは流動性だけでなく、あるゲームではレジェンドであるといった「新しいかたちの信用情報」を残す手段として有用だと考えています。

鈴木 従来のIDなるものが、本来は個人のものであるはずなのに、実際は管理者が企業だったり、所属団体・組織のものだったりして、個人の裁量権には制約があったと思います。それがPIDによって、自分の裁量のもとで誰かにマネジメントを委ねたいという動きも可能となり、ある程度の事前のプログラム、契約条件の細かな設定によって都度の人的介入なしに対企業・対行政といったやりとりが実現できてしまう時代になってきたのではと。

 民主的な合意形成を求めるという社会の声と、データへの信頼を担保可能なネットワークがインターネット上に構築されてきたという技術的進化。その2つが今、PIDが必要とされている理由かと思います。

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