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n次創作者がインセンティブを受け取れる試み「n次流通プロジェクト」とは?

ブロックチェーンで漫画アニメゲームのファンが得する社会を作る!

文●石井英男 編集●ASCII

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そして皆がWin-Winになる「n次創作の世界」がやって来る

―― もう1つのユーザーナーチャリング用アプリも簡単に使えるわけですね。

藤井 漫画のライブ配信が人気沸騰したとして、そのおかげで最新刊がいっぱい売れたならよいのですが、上手く既存の商流と紐付かないときもありますよね。ですから、二次商圏のマネタイズモデルを作る必要があるのではと。

 そこで今回用意したのが、たとえばライブ配信してる人が仮にモンストをやってたとして、モンストのアイテムがトークン化されていたら?……という仕組みです。これは仮定ですけれど、もしそうなったときに、たとえば50円投げ銭するよりも、配信者が持っていないアイテムを投げ銭したほうが喜ばれるじゃないですか。しかも文脈があるコミュニケーションになります。

 また、分散型投げ銭の仕組みも入っています。アイテムを投げ銭したら、あらかじめ原著作者が設定しているパーセント分がスマートコントラクトで自動的に徴収される、といった動きも可能です。こうした直接課金時の報酬分配を自動執行、強制執行される仕組みが1つ目の特徴です。

 もう1つの特徴が、コンテンツへのアクセス権であったり、スマートライツマネジメントの部分です。このあたりがしっかりできれば、コンテンツホルダーもコンテンツをもっとみんなに使ってもらったほうがWin-Winになり、やがてn次流通の世界が実現するのではないかと。

バッジやトークンなどでユーザーのモチベーションを高める

実証実験は大成功! その理由は?

―― 実証実験ではそうした機能をユーザーが迷いなく使いこなすことができたと考えてよいのでしょうか?

藤井 ある意味、大成功と僕らは思っています。じつは以前、「SDGsに貢献している人たちを評価しよう」という実証実験を行なったことがあるのですが、「いま何が起きてるのかわからない」「何をやったら評価されるのかわからない」という声が多かったんです。

―― 「新しいルールをユーザーが把握しにくい」という課題が残ったのですね。

藤井 そうなんです。いくら技術的に成功しても、肝心のユーザーが使えなければ話にならないんです。しかし今回、おそらくユーザーは「自分にPIDが振られている」「自分自身もウォレットを持っている」「コンテンツにもウォレットがある」「これらの投げているものはトークンである」といった、裏側で動いている面倒なやりとりを一切感じることなく、滑らかに使えたと思います。ここは大きなポイントです。

 ブロックチェーン自体は魔法ではないので、たとえば「(原著作者が)やってほしくないことをさせない」という方向にはそんなに強いわけではありません。別に弱いとも言いませんが、そこに関して強みがあるテクノロジーではない。ですから今回の実証実験でいうと、この仕組みに乗らずライブ配信をすることも不可能ではないのです。絶対落ちないシステムがないように、絶対できないようにするシステムもありません。

 一方、ブロックチェーンの強みは「このゲームルールに乗っかったほうが得だ。乗らないと損をする」というインセンティブ設計を突き詰めやすいことです。今回の仕組みに乗らずライブ配信をするよりも、仕組みに乗って配信することで公式パートナーとなり、特典をもらうほうが得をしますよね。このあたりのインセンティブ設計は割と滑らかにできたかなと思います。

―― では課題はありましたか?

藤井 今回の実証実験では悪さをする前提のユーザーはいなかったので、悪さをされたときにどんなことが起こるのかは想定しきれていません。そしてこのあたりに関してゲームは緩いのですが、他のコンテンツに横展開する際、特に4マス(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)領域のライツマネジメントはよくも悪くもガチガチなので、その人たちの要望に応えきれるのか未知数ですね。100%応えるのは無理なので、どれだけ歩み寄っていけるのか。ここは結構大きな課題だなと思います。

取材は密を避けるべく、屋外にて行なわれた

コンテンツがファンと原著作者のコミュニケーション材料に

―― 今後の見通しを教えてください。今回は電子書籍の漫画でしたが、次はどのような分野にブロックチェーンの技術なり、PIDの技術なりを生かしていこうと考えていらっしゃいますか?

藤井 社会実装にあたっての一番の問題は、いかにPID対応の導入ハードルを下げられるかです。特に初期段階がしんどいですね。まず現実的なゲーム業界から実績を出していき、同時に漫画・テレビ・新聞など「ゲーム業界ではOKだけどこの業界では無理」みたいなものをすり合わせつつ、実績を積むことを繰り返す必要があるでしょう。

鈴木 この後の展開は参加各社とこれから検討することになるとは思いますが、次はオフライン連携を視野に入れた検証が考えられます。オンチェーン・オフチェーン連携であるとか、原著作者の登場機会をユーザ動線に組み込むなど。ファンに(n次創作のための)素材を提供していただいたり、その場に参加できること自体がプレミアとなるようなクローズドな場を作る、などが考えられます。

 なお、ファンのリテラシーに関しては、「各種の権利がトークンとして配布されてくる」という認知度はIoT、IOWNなど社会がスマート化することで向上していくはずなので心配していません。あとはこういったものに興味のある事業者側の方々と一緒に新しい市場を開拓していきたいと考えています。

―― 最後にそれぞれの立場から、漫画・アニメ・ゲームを愛好する読者へのメッセージをいただけますか。

鈴木 これまで、ファンによるコンテンツへの貢献度合いは、販売部数や売上といった経済価値に換算できるものでしか出版社は評価できませんでした。単行本を買って読むだけのファンも、単行本を買ったうえで熱心に他者へ勧めているファンも、出版社からはどちらも「単行本を1冊買ってくれた人」としか認識できなかったわけです。

 対してトークンエコノミーでは、金銭以外の「エコノミーの総体」を捉えることが可能になりますので、ブランド価値向上につながる行為全般を正当に評価できるようになります。その結果、前述した公認パートナーをはじめ、貢献に応じた権利をファンに受け取っていただけるようになります。一方的に利益を享受して終わりではなく、相互コミュニケーションの材料として漫画というコンテンツを見ていただけるようになればいいなと。

藤井 漫画・アニメ・ゲームって「そんなもので時間を無駄にしている暇があったら外で遊べ」とか言われてこれまで立場がすごい弱かったですよね。しかし、フォートナイトの事例を紐解くまでもなくポストSNSはゲームになることがほぼ確実なので、これから社会の中心にゲームが来ます。

 ただ、テクノロジー部分に関しては我々も奮闘してますが、やはり最後の一手は漫画・アニメ・ゲームを愛する方々が鍵になると思っています。ブロックチェーン自体がトップダウンではなく民衆からの改革なので、ぜひ皆さんに力を貸してもらいたいですね!

―― じつは、n次流通という言葉を聞いたとき、一番最初に思い浮かんだのはパロディー同人誌でした。たとえば、誰かが文ストの同人誌を作ってメロンブックスで売ると、いくばくかが原作者の懐にも入るとか、そういうシステムを作るのかなと想像しました。

藤井 ゲームならMODですかね。僕自身、驚いたのは大手のゲームパブリッシャーのトップが個人制作のMODに対してそんなにネガティブではなく、むしろどうにかしてWin-Winの関係を構築したいと考えていることでした。でも一方で、MODに管理コストは割けないし、「それくらいだったらいいよ」と言ってあげたいけれど言えない現実があったりします。ですから今仰ったような例も含めて、Win-Winの関係になれるプロトコル、UI、UXは目指すところです。

鈴木 漫画に関しては、Twitterなどではコマ単位で切り取られたものが流れていますよね。そしてその行為がIPに貢献している場合もあります。PIDさえ振ることができれば、原著作者の意向によってはn次創作として一定の報酬を払う動きが出てきてもよいと思うのです。

 今回、私たちが作ったものは、言うなればPIDによるログイン機能だったわけです。ご自身のPIDによってログインした後に、PIDが振られたコンテンツをどのように料理するかというところが、ユーザーにとっての腕の見せ所なのです。それを漫画においては、コマ単位でPIDが振られていれば、そのコマに対して何をしようかというところでクリエイティブ力を世間に発揮することが可能になっていく。

 こういった文化は紙メディアではなかなか難しかったと思います。ですからn次創作を新しい市場と見立てて、ご自身の自己実現、キャリア形成にもつなげていけるように捉えていただけたら面白いなと思います。

―― 先鋭的かつ、コンテンツのファンにとってはエキサイティングな話だったと思います。ありがとうございました。

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