なぜイノラボと東大がタッグを組むのか〈前編〉
私たちは世界最先端の研究を日本社会にインストールしたい
〈後編はこちら〉
先端を走る2つの組織がタッグを組んだ!
イノラボ(INNOLAB)は、電通グループの一員である電通国際情報サービス(ISID:Information Services International-Dentsu, Ltd.)によって2011年4月に設立された、オープンイノベーションラボの通称である。イノラボのミッションは、先進テクノロジーをビジネスや暮らしに役立つサービスとして展開することであり、これまで様々な先端技術の実用化に向けて、企業や教育機関などと協働して、技術研究や開発に取り組んできた。
そして2020年4月、イノラボと東京大学がタッグを組み、「社会実験構想学」の共同研究を開始することが発表された。具体的には、千葉県柏市にある東京大学大学院新領域創成科学研究科の環境デザイン統合教育プログラム(IEDP:Integrated Environmental Design Program)で生まれた学生からの提案を社会実装するという、画期的なプロジェクトである。これまで様々な成果を出してきたイノラボが、国内最高峰の大学である東大と組むことで、どんな成果が生まれるのか、非常に楽しみだ。このプロジェクトは5年間、複数の社会実験を企画、実施する予定である。
本連載では、このプロジェクトに関わる学生や研究者を取材し、彼らが進めている先端技術を活用した取り組みを紹介していきたい。具体的な研究を紹介する前に、「そもそもどうしてイノラボと東大がタッグを組むことになったのか」、今回のプロジェクトの中心人物である、ISIDの木村平氏と東京大学大学院新領域創成科学研究科の寺田徹准教授に、お話を伺ってきた。前編と後編の2回に分けてその内容をお伝えする。
実践的な教育の場「デザインスタジオ」を擁する東大IEDP
―― まずお二人の自己紹介、お立場的なことから教えてください。
寺田 では、私から。東京大学大学院新領域創成科学研究科の寺田です。拠点は千葉県柏市にある柏キャンパスで、専門領域は都市の緑地です。皆さんに馴染みのある公園緑地、あるいは都市に残された農地とか樹林地、そういう都市の緑地をどのように保全していくか、必要なら増やしていくか、その政策や計画に関わる研究をしています。
研究と同時に柏キャンパスで実践的な活動をしていて、それが今回のイノラボさんとのコラボに関わる環境デザイン統合教育プログラム(IEDP)、通称デザインスタジオと呼んでいるものです。
今は全部で、建築環境、建築構造、都市環境、自然環境、情報環境、地域環境、緑地環境、流域環境の8つのスタジオがあり、専門性の異なる教員がそれぞれのスタジオを運営しています。私たちは普段、学術研究をきっちりやって、論文を仕上げていく活動をしていますが、スタジオはより社会に近い教育プログラムであり、学生は実践を通じて学びを深めることができます。
私であれば緑地環境と自然環境に関わるスタジオを運営しており、受講した学生は、緑地や自然に関わる地域の問題をフィールドワークにより明らかにし、その解決に向けた提案を行ないます。提案は地元の方々に発表して評価を得ることが多く、そういった意味でも実践型の教育となっております。
私は2020年度から8つのスタジオの取りまとめを担当することになりまして、何か新しいことがしたいなと考えて、イノラボさんとのコラボレーションを提案させていただき、今一緒にやらせていただいています。
社会課題を発見してソリューションを「社会実装」するイノラボ
木村 ISIDの木村です。私はイノベーションデザイン室長兼オープンイノベーションラボの部長をやっております。オープンイノベーションラボ、略称イノラボは2011年4月に設立された組織です。
シンクタンクのように、クライアントさんから依頼されて研究するのではなく、自分たちで社会課題を見つけて、ITで課題を解決するソリューションを企画し、それを実証実験的に動かしてしまおうというラボです。とにかく社会実装を目指しますし、自分たちだけで動いているので速いスピードで進められるところが特長です。
2日3日で終わる実証実験もありますし、2年くらい長期間実験するようなものもあります。その結果、『これはビジネス化につながりそうだな』とか、『生活者に受容性があるな』と思ったら、パートナーさんや企業さんに「こういうことがうまくいきそうなんですけど、一緒にやりませんか?」と声をかけていくスタイルです。
―― イノラボの代表的な事例というか、社会に知られているものを教えて下さい。
木村 最近だと、くら寿司さんで販売させていただいた「AIマグロ」があります。ベテラン仲買人の目利きを学習したAI技術により、まぐろの品質を判定できるアプリ「TUNA SCOPE」の活用です。
そのほか、ブロックチェーンを世の中にいかに適用するかということでは宮崎県の綾町と共同で、ブロックチェーンを使った有機農産品の安全性を消費者にアピールする仕組み作りを行ないました。これをきっかけにブロックチェーンを活用したコンテンツのn次流通にもトライさせていただいています。著作権は基本的には著作者にありますが、それを活用した二次活用者、三次活用者にもインセンティブを与えようという設計です。
またこれまでやってきたことは結果的にまちづくりに集約されていくかなと思っています。先ほどの農産物もまちづくりに生かしていくでしょうし、AIマグロも元々は第一次産業の技術の継承をもっと簡単にできないか、というところから誕生したものです。