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半年のコロナ渦を乗り切ってみてメリットとデメリットが見えてきて

イベントオンライン化の功罪と、この先について語ろう

2020年10月22日 18時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 2020年3月頃から、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、多くのイベントが中止や延期に追い込まれた。代わって広まったのが、オンラインイベントだ。観客の密集を避けることが本来の目的だが、遠方のイベントにも参加できたり、移動時間が不要ですき間時間に参加できたりと、付加的なメリットも大きい。2020年9月、イベントオンライン化の波が本格化して半年といういま、オンラインイベントで得られるものと失うものについて振り返り、今後のイベントの在り方について考えてみたい。

オンラインイベントの限界は技術と絆で乗り越えられる

 この半年間、小さな勉強会から有名歌手のライブイベントまで、さまざまなイベントがオンラインで開催されてきた。オンラインで視聴者が得られる臨場感や感動、またイベント自体の規模にはある程度の制約がある。たとえば音楽ライブをストリーミング配信しても、生放送のテレビ番組のようになってしまうし、大勢の視聴者がいたとしても一箇所に集まっている訳ではないので規模感を感じるのも難しい。しかしこれらは、技術力である程度解決できることがわかってきた。

 臨場感や現場にいる雰囲気を感じるために、音楽ライブや舞台演劇ではVR配信が広まりつつある。テレビ番組のように決められた視点ではなく、自分が観たいところを観ることが出来る。VRは没入感も高いので、現場にいるのと近い臨場感を得られるだろう。

 もうひとつは、ごく最近のイベントで感じたことだ。2020年9月12日から13日にかけて、JAWS SONIC 2020 & MIDNIGHT JAWSというイベントがあった。24時間ぶっ通しで行われたオンラインイベントで、全国のメンバーがリモートで登壇した。画面の向こうに次々と多くの人が登場することで、イベントの規模を仮想的に拡大したのだ。これを支えていたのは、AWSのユーザーコミュニティであるJAWS-UGでこれまでに培われてきたメンバー同士の絆だ。

 技術と、人同士の絆。これらの組みあわせでオンラインイベントはもっと臨場感高く、もっと大規模になっていく可能性があると筆者は考えている。しかしその一方で、不安も抱いている。

いまは絆の貯金を食い潰していっているに過ぎない

 コミュニティメンバー同士の絆により、大規模イベントもオンラインで開催できると先に述べた。そこからもう一歩踏み込んで、その絆はどのように培われたのか考えてみると、コミュニティ活動が直面している危機が見えてくる。

 コミュニティのイベントでは、登壇者から話を聞くだけではない。懇親会などを通じて、参加者同士がその日の議題や自分が抱えている興味、関心事について情報交換をする。この時間にメンバーたちは、絆を広げ、深めてきた。新しいメンバーがいれば迎え入れ、気になる話題があれば輪に入り、同じ地域に済む者同士の絆を深めていく。特に上で紹介したJAWS-UGのようなエンジニアのコミュニティにおいては、「学び」と並んで「エンジニア同士の交流」が重視されてきた。

 ところがオンラインイベントは、学びに特化してしまっている。遠方の勉強会や都市部の専門部会の勉強会にも参加できるようになり、学びという点ではオフラインイベントを凌駕するものの、参加者同士の交流はほとんどない。オンライン飲み会のような形式で懇親会を開催する場合もあるが、参加率は極めて低いという。現場にいれば、周囲の人につられたり、もう少し話をしたかったりと懇親会に参加するハードルは低い。しかしオンライン懇親会では隣に参加者がいるわけでもなく、飲み物や食べ物も自分で用意しなければならず、面倒くさいなと思えば画面を閉じて終わってしまう。これでは新たな絆は生まれない。

 つまり、現在コミュニティのオンラインイベントが活況を帯びているといっても、それは過去に積み上げてきた絆の貯金を使って実施されていることなのだ。このままオンラインイベントばかりになり、新しい絆が増えなければいつか貯金が尽きて、オンラインイベントは教える人と教わる人が隔てられたウェビナーになるだろう。

オフラインでの集まりがなければ地方コミュニティは死ぬ

 学びと交流のバランスが崩れた影響は、地方のエンジニアコミュニティに打撃を与えている。東京や大阪では、各技術に特化した専門的な勉強会が開かれることも多い。母数が大きいので、専門部会のようなコミュニティを作っても参加者を十分集められるからだ。一方、地方のコミュニティではエンジニアの母数自体が少ないため、特定の技術に特化することは難しい。初学者向けの内容から最新トピックスまでを扱い、それぞれの得意分野を発信して学び合うことになる。

 地方コミュニティのこうした特性は、筆者の好きなものでもある。ある人は初学者向けの話をし、ある人はネットワーク機能の最新トピックを紹介し、またある人はセキュリティの話をしたりする。ああ、あの人はこういうことに興味があるのだなとわかり、その後の交流につなげやすい。そう、地方コミュニティの特性は、交流に向いているのだ。

 では参加者同士の交流が希薄になりつつある現在、イベントのオンライン化によって地方コミュニティに起きていることとは何か。それは、新たな人が入ってこないという、コミュニティ存続の危機だ。実際に自分が新しく何かを学びたいと思ったとして、雑多な内容が語られる地元コミュニティのオンラインイベントと、自分の関心事に特化して語られる都市部の専門支部と、どちらを聴講するだろうか。学びを深めるなら、当然後者を選ぶだろう。既に知人がいるのでもなければ、地方コミュニティを選択する理由は少ない。仮に地元だからという理由で聴講したとしても、知らない人だらけの場でオンライン懇親会に参加する気にはなかなかならないだろう。

 AWS、Azure、GCP等々、技術コミュニティは全国に支部を持つほど活気を帯びている。しかしこのまま新たなメンバーが入ってこなければ、まず地方コミュニティが死んでいくだろう。そうなれば全国組織としてのコミュニティの存続も、やがては危うくなっていく。

合同開催や現地登壇に地方コミュニティは活路を見いだせるか

 このままオンラインイベントのみが続けば、コミュニティの存続は危うい。しかし、コロナ渦はそう短期間に収まりそうもない。ではどうするか? そのヒントとして、筆者がいま興味を持っているイベントをふたつ紹介しよう。

 JAWS-UGの例ばかりで申し訳ないが、ひとつめは四国のJAWS-UGが合同で開催するクラウドお遍路2020だ。昨年までは、四国のどこかの県に集まって開催していた四国最大のJAWSイベントだ。今年は大勢で集まることを避けるため、各県に会場を設け、それぞれの会場をオンラインで結んで開催することが決定している。お互いにオンラインで登壇することにはなるが、香川、愛媛、高知、徳島の各会場ではリアルな人の交流が生まれ、絆を広げ、深めることもできるだろう。

 もうひとつは、CLS高知2020戻り鰹編だ。CLSはコミュニティリーダーズサミットの頭文字をとったもので、高知県内外からコミュニティリーダーが集まりそれぞれの知見を共有する。こちらも今年はオンライン開催となっているのだが、登壇者はリモートではなく現地に集合することになっている。登壇者同士の濃い交流が生まれ、ここでも絆は広がり、深まるに違いない。

 これらのイベントのように、何らかのリアルな交流の場を設け、イベントをリアルとオンラインのハイブリッド化していくこと。それが、絆の貯金を使い切らずにコミュニティが生き残って行く道につながるのではないかと筆者は考えている。

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