手なり文化がDX化を遅らせる3つの要因
このようにDXに先進的な企業がある一方で、伊藤委員長は、日本の企業のDXへの取り組みが遅れていることに危機感を募らせている。
「日本の経営者が、生産現場でのIT化やRPA化ばかりを見て、満足している例が多い。また、経営者自らが、DXについて説明し、ビジョンを示すケースが少ない。米国では、DXやサイバーセキュリティについて、経営者取締役会や投資家と対話しているのとは対極的だ。日本の経営者は、経営システムやビジネスモデル変革に、DXを活用する姿勢が弱い。これがデジタルガバナンスの遅れに直結している」とする。
そして、日本の企業が、DXに遅れている理由を、伊藤特任教授は、「手なり文化があるため」と指摘する。
「日本の企業の多くは、システムの部分最適、複雑化の課題を抱えている。各事業の個別最適化を優先した結果、システムが複雑化し、企業全体でのシステム管理、データ管理が困難に陥り、全体最適化が難しくなっている。業務にあわせたスクラッチ開発が多用され、カスタマイズが好まれ、その結果、個々のシステムが独自化、特殊化している状況にある」とする。
また、手なり文化の2つめの事象として、「経営者の先送り意識がある」とも指摘する。「現状、問題なく稼働しており、誰も困っていないため、経営者も、システムがレガシーであるという自覚がない。また、仮にレガシーであると認識していても、根本的な解決のためには、長い時間と大きな費用を要する上、手戻りなどの失敗リスクがあるため、刷新に着手しにくく、問題を先送りにしている」とする。
そして、手なり文化の3つめの要素として、「DXに対する経営層のコミットが薄い」とする。「経営者のなかには、改修して使い続けたほうが安全だと判断するケースが多く、デジタル部門を設置していても、そこに対して経営者は明確な指示が出せないという課題がある」とする。この結果、レガシーが残り、DXが進まないという事態に陥っているというわけだ。
ここに、経済産業省が発表したDXレポートで示した「2025年の崖」の背景がある。
DXレポートでは、現行の技術やビジネスに固執することで、保守費の高騰だけでなく、業務プロセスの改革ができず、その結果、2025年には。21年以上も稼働している老朽化したシステムが6割以上を占め、老朽システムを起因としたトラブルが3倍となり、毎年12兆円もの経済的損失を生むことになると予測されている。日本の企業が置かれた大きな課題がここにある。
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