EDIの教科書 ~EDIの始まりから流通BMS、ISDN終了問題(2024年問題)まで~
受発注の業務は、従来、電話やファックスを使うのが一般的でした。現在、主流となっているのはEDIと呼ばれる電子データを利用した受発注システムです。わずらわしい紙媒体を使用した業務からの脱却を可能にし、劇的に業務効率を改善させてきたEDI。今回は、EDIとは何か、大手量販店から中規模チェーン店まで採用が進んでいる流通BMS、またEDIが現在直面している問題と、その将来について解説します。
EDIとは
EDIとは、Electronic Data Interchange(電子データ交換)の頭文字をとった略語です。企業間で電子データを交換して商取引をすることを指すことが多いでしょう。
かつて企業間の取引では、紙で受発注書や請求書を作成し、電話、ファックス、郵送でやりとりをする商取引が大半でした。従業員が手作業でデータ入力を行うため誤入力の可能性が高く、効率的ではなかったのです。そこで、固定電話回線やインターネットを活用して企業間でデータのやりとりを可能にするため、EDIが開発されました。電子データで情報をやりとりするので、紙の書類や伝票は不要になります。紙媒体の利用は大幅に削減され、用紙代、印刷代、郵送代のコスト削減につながりました。
EDIは、経費の節減や業務改善に効果的なだけではなく、データ管理やデータ品質の改善にも寄与しました。電子データの利用により書類を保管するスペースが不要になり、情報の検索性は格段に向上しました。伝票情報の入力を人の手作業に頼らないため、データの誤入力、不備、重複などのミスが大幅に削減、データの品質も向上したのです。
会社に蓄積されるデータの品質が良くなると、売上げや在庫に関するデータを正確に把握できます。欠品や無駄な在庫を抑えるために、臨機応変、迅速に対応することができるので、顧客へのサービス向上につながるといえるでしょう。
EDIに関連して、EOSという言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。EOSはElectronic Ordering System(企業間の電子受発注システム)の頭文字をとった略語です。EOSは言葉のとおり、受注や発注に関するデータを送受信するシステムです。そもそも受発注に関するデータのほか、納品や在庫に関するデータの送受信も行えるようにEOSが進化し、EDIと呼ばれるようになりました。EOSでは、各店舗が発注や検品に関わる確定データをVANやデータセンターに送信し、受注業者がそのデータを受信します。
WebEDIの増加
1970年代から利用され始めた固定電話回線を利用するJCA手順や全銀手順は今ではレガシー手順と呼ばれ、利用している企業が多く存在しますが、電話回線は通信速度が遅く、画像データを送受信できないデメリットもあり、通信インフラとしては時代遅れといえます。
固定電話回線を利用したレガシーEDIのデメリットを解消するために登場したのが、インターネット回線を利用したWebEDIです。WebEDIは、電話回線に比べ通信速度が圧倒的に速く、通信費だけで利用できるため、低コストで運用できる大きなメリットがあります。専用ソフトをパソコンにインストールする必要もありません。一般にインターネットが広く普及していることもあり、企業間取引においてもインターネットを利用したWebEDIに移行する企業が増加しています。
WebEDIはブラウザベースで運用されますので、パソコンとインターネットの通信環境があれば、すぐに導入できます。それでもなお、ブラウザの操作は人間が介入して行わなければなりません。この問題を解決するためにRPA(Robotic Process Automation)を導入する企業も増えています。ブラウザ操作をソフトウェアロボットに代替することで業務の自動化が推進され、より効率よく業務改善を行うことができるのです。
流通BMSとは
便利かつ高速なWebEDIですが、問題もあります。WebEDIは標準化という概念がなく、各社各様にブラウザ内の操作があることです。そのため、WebEDIの取引先の数が増えれば、その分、手間とコストがかかります。基幹システムへのデータ入力作業も多大な労力がかかります。前述のとおりRPAもその解決方法の一つですが、根本的な解決にはなりません。
また、レガシーEDIにおいても小売業ごとに仕様が異なり、取引先が増えるごとに対応するシステムを構築する必要がありました。
このような問題を解決するために、業界ごとにEDIを標準化する動きが進んでいます。流通業界においては、EDIの標準化として、2007年から流通BMS標準が推進されています。流通BMSは「流通ビジネスメッセージ標準(Business Message Standards)」の略称です。経済産業省が中心となって流通の業界団体や大手GMS(総合スーパー)が協力して仕様を検討しました。通信手順となるプロトコルは、「JX手順」「EDIINT AS2」「ebXML MS」から選択でき、メッセージ形式はXMLを採用しています。業務プロセスも標準化されており、消費税の軽減税率にも対応しています。2007年にスーパーマーケット業界で導入が始まり、現在では流通BMS協議会が管理運営しています。2019年12月の時点で流通BMSの導入企業数は約13,900社にのぼります。
流通BMSには大きな特徴がふたつあります。「インターネットの利用」と「メッセージの標準化」です。
インターネットの利用
流通BMSは通信手段にインターネット回線を利用しています。固定電話回線を使用する従来のJCA手順とは異なり、インターネット回線は圧倒的な通信速度を誇ります。通信時間は大幅に削減され、通信コストを抑えることが可能です。
メッセージの標準化
流通BMSではメッセージのデータ形式にXMLを採用しています。これにより、流通業界全体のメッセージを統一化し、取引先ごとに行っていたシステム開発の無駄を削減することができます。将来的に利用用途が拡大した際、簡単に項目を追加できる柔軟性の高さもあります。
ISDN終了問題(2024年問題)
WebEDIの増加をさらに加速させているのが、いわゆる「2024年問題」です。NTT東日本およびNTT西日本は加入者数の減少や通信インフラの老朽化を理由に、2024年1月でISDN回線のサービスを終了することを発表しました。2024年1月以降、順次IP網への移行を進め、2025年1月にはIP化完了の予定です。以上のような動きによって、レガシーEDIへの影響が懸念されているのです(2024年問題)。
IP化への移行に伴って、電話回線を利用したレガシーEDIは通信遅延が発生するといわれています。データを伝送する途中で、アナログデータをIPパケットに変換するプロセスが入るのが原因です。NTTがホームページで発表している検証結果によれば、通信時間は最大で4倍程度かかるとしています。通信遅延によって出荷や納期の遅れにつながる可能性もあるでしょう。スピードが求められる受発注業務において、通信遅延は致命的な問題です。
業務に支障をきたさないためには、速やかな他のEDI方式への移行が必要です。しかし、取引先との移行タイミングのすり合わせや、通信方法の調整がありますので、自社の予定だけで移行はできません。多くの企業が同時期にレガシーEDIからの移行を検討するため、ベンダーとの調整も必要です。さらに通信遅延が発生するタイミングは流動的なので、早めに対策をすることが肝心です。
2024年問題にすみやかな対策を
インターネット回線を利用したEDIが普及し、業界での規格の標準化が加速すれば、業界全体の業務改善を後押しすることになります。ガラパゴス化している日本のレガシーEDIから離脱する契機です。特にグローバルな規模でのビジネス展開をねらう企業にとって、早急な移行は必須といえるでしょう。2027年には固定回線網からIP網への補完策が終了し、完全移行となります。ISDNの終了問題を見すえ、早めの対策としてEDIシステムの再構築を検討しましょう。
※本ページの内容はユーザックシステムの「業務改善とIT活用のトビラ」の転載です。転載元はこちらです。
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