業務を変えるkintoneユーザー事例 第324回
回転機械診断のプロ集団が挑んだkintone活用
暗黒の在庫管理を救ったチームの力は、専門システムとkintoneの共存で顧客向けサービスという新たな一歩を踏み出した
2026年08月07日 14時00分更新
作り込んだ在庫管理システムは現場のニーズをカバーできず、カスタマイズが複雑すぎてアプリ管理者も手を出せなくなっていた。一人で解決できないことを悟った担当者は会社に直訴し、新たなメンバーという救世主を加えて暗黒期を乗り切った。
kintone hive 2026 fukuokaの2番手として登壇したのは、1940年創業の老舗産業プラントエンジニアリング企業「高田工業所」の中野明さんと矢野晃寛さん。プレゼンでは、属人化していたシステムをkintoneで立て直そうとしたが、逆に手詰まりになり、新たなメンバーの加入で改善サイクルを回せるようになった事例について語られた。
担当者頼みだった在庫管理を一人で作り込み、改修できない暗黒期に陥った
高田工業所は、福岡県北九州市八幡西区に本社を置く、1940年創業の産業プラントエンジニアリング企業だ。鉄鋼、化学、エネルギーといった日本の基幹産業を対象に、工場設備の設計から建設、メンテナンスまでを担い、ものづくりの現場を陰から支えている。プラント、プロジェクト、装置、設備診断の4事業を展開し、昨年は全社でeスポーツ大会を開くなど、新しいことに挑戦する柔軟な社風を持つ。今回のテーマは、そのうちの設備診断事業を担う診断ソリューション部の取り組みだ。
登壇したのは、社会人27年目のベテランで、部署専属のシステム担当として何でもこなす中野さんと、社会人11年目でkintone歴5年、開発や企画を担う矢野さんのお二人。
診断ソリューション部が扱う電流情報量診断システム「T-MCMA」は、現場の回転機械につながる制御盤にセンサーを取り付け、専用ユニットで計測するシステムだ。データはクラウドへアップロードされ、専用ソフトで解析し、ユーザーは事業所のパソコンから診断結果を確認できる。モーターに直接何かを取り付ける必要がないため、安全に計測できるのが特徴だ。
当初、在庫管理は担当者頼みだった。担当者がExcelに入力し、現物や記録と照合しながら在庫を管理していた。さらには発注や搬出のたびにExcelへ入力し、紙に印刷して印鑑を押し、決裁を回す。すべてを担当者に任せているため、進捗はその担当者にしかわからず、ブラックボックス化しやすい状態だった。
「在庫管理に関わるすべての運用をつなげてみたら、何とかなるのではないかと思いました。ノーコードで開発も管理もしやすいkintoneなら、私でも作れるのではないかと。ただ、私はいろいろな業務を兼ねていて時間が取れず、アプリの数も多かったので、ベンダーにも協力をお願いしました」(中野さん)
#03人物写真はダミー 高田工業所 診断ソリューション部 係長 中野明さん
中野さんは1年をかけて在庫管理システムを構築した。ところが、ここから運用は行き詰まっていく。バラバラの仕組みを無理に連携させたことでデータの不整合が起き、現場のニーズもカバーできず、作り込んだ機能は、新たな改修を難しくしていた。在庫数が合わない、出張先では決裁が止まる、そしてカスタマイズが複雑になりすぎて、中野さん自身も手を出せなくなっていた。
「作り込んだ機能のカスタマイズが複雑になりすぎて、私ではもう触れなくなっていました。ちょうどその頃、この会場でkintone hiveを見て、このままではいけない、何とかしなければと思ったんです。一人では解決できないので、メンバーを増やしてほしいと上司に訴えました」(中野さん)
開発者2名が加わったチームで、改善のサイクルを回せるようになった
訴えは実を結び、kintone開発者が2名、救世主として診断ソリューション部に加わった。二人の参加で、それまで口数が少なかった会議にアイデアが出るようになり、開発スピードも技術力も上がっていったという。
その後は、開発経験者と現場のメンバーが一緒になって、改善と意見交換を繰り返した。改善が進むほどチームは前向きになり、意見交換も活発になっていく。運用と改善のサイクルが回り始めたことで、在庫管理の基盤が完成した。
プログラムの中身も仕様もその都度把握し、在庫数が合わない問題は修正できた。出張者のニーズに応えてモバイルでも使えるように開発を進め、現在は棚卸や出荷の作業をQRコードリーダーで効率化すべく、カスタマイズを続けている。
「開発者としてだけでなく、実際に現場に入って業務を一緒に行うことで、自分事として取り組めたことが大きいと思います。その姿勢をメンバーと共有し、熱意が伝わっていったのが良かったところです」(矢野さん)
#05 高田工業所 診断ソリューション部 矢野晃寛さん
在庫管理の立て直しで得たのは、kintoneは単なる業務改善ツールにとどまらない、という手応えだった。チームはこの発想を、顧客向けサービスにも広げようと考えた。
T-MCMAには、専用ソフトで表示する画面とブラウザで表示する画面があり、多くの顧客に使われている。ただ、毎日画面を切り替えて使うのは顧客にとって億劫ではないか。加えて、最近はセキュリティの面から導入が難しいと言われることもあった。
「そこで、すでに出来上がったシステムでも、kintoneとつなげば何か違うのではないか。業務アプリに自社のサービスをAPI連携でつなげば、新しい使い方が見えて、新たな顧客価値の創出にもなるのではないかとひらめきました」(中野さん)
専門システムを置き換えず、kintoneと共存させる形を目指した
開発チームは、T-MCMAとkintoneをコラボさせた商品の開発に着手した。kintoneのAPIを通じて電流情報量の診断結果をkintoneにアップロードし、修繕記録と紐付けた。データさえkintoneにあれば、顧客が自由にカスタマイズでき、標準機能のコメントやワークフローも活用できる。
早速、試作品を作ったところ、T-MCMAの診断データをkintone上でグラフ表示できるようになった。診断結果は正常、警告、異常の色分けで示され、コメント機能を使えば会話も記録できる。たとえば「危険値なのに大丈夫なのか」というコメントに対し、「対象機器はすでに停止させており、すぐにメンテナンスする予定なので問題ない」と返し、やり取りをそのまま残せるようになった。
過去データの分析やkintoneのAI検索が使え、専用端末などのハードウェアに追加投資しなくても、現場に情報を展開できるというメリットもある。データをkintoneに取り込むことでBCP対策にもなり、報告書作成の手間を減らし、現場の効率化にもつながった。
高田工業所の専門性とkintoneの汎用性を融合し、止まらない工場をつくるパートナーとして、顧客に共感されるサービスを届けたいという。中野さんは、暗黒期を振り返りながら、チームで取り組む意義を語った。
「暗黒期は、一人ではエラーを解消できず、本当に苦しい時間でした。それをチームで打破できたんです。kintoneを導入したけれど、あまり活用できていない。そんなときは、いろいろな人を巻き込んでいけば、きっと突破できると思います。今この会場で迷われている方も、私も2025年、同じ場所にいました」(中野さん)
「私たちの次のステージは、人の巻き込みからシステムのコラボへ、です。これまでは既存業務をkintoneに置き換えるのが常識でしたが、私たちは専門のシステムをkintoneに活かし、共存させるステップへ進んでいきます」と矢野さんは語った。
質疑応答
サイボウズ西村さん:当初はお一人でkintoneを担当されていて、そこにメンバーが二人加わりました。いろいろないい変化があったと思いますが、一番良かった変化は何でしょうか。
中野さん:一人でやっていると、相談してもなかなか解決できないことがありました。救世主となる二人が入ってくれて、いろいろとアドバイスをもらえるようになったことが、一番大きかったと思います。
サイボウズ西村さん:矢野さんは新しく加わった側だと思いますが、加わったときは率直にどんな気持ちでしたか。kintoneで業務改善をやるぞという感じだったのでしょうか。
矢野さん:ほかの場所でもkintoneの改善に取り組んできましたが、一人だとやはり大変だと感じていました。もう1人の開発メンバーと2人なら、いろいろな新しいことができるのではないかと、わくわくした気持ちで入りました。
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