業務を変えるkintoneユーザー事例 第318回
その1日の遅れで失う大切な家族の時間
紙の手続きが奪った「命の時間」 訪問看護ステーションがkintoneで実現した最短0日契約
2026年07月10日 09時00分更新
「最後は家に帰りたい」。ある末期がん患者の、最後の願いをかなえられなかった介護事業社の社長は、命を守るための厳格なルールを守りながら、紙の書類を介さずに時間を短縮するためにkintoneを用いた仕組み作りに挑戦した。
kintone hive 2026 sapporoの3番手として登壇したのは、岩手県南部を拠点に訪問看護などを提供するAKASIの代表取締役社長 菅原晃弘さん。「kintoneで得たものは「幸せの仕組み」を作れるようになったこと」と語る菅原さんは、患者、利用者、会社、職員の幸せのため、kintoneによる業務改善について語った。
アナログな行程のために帰宅できずに病院で息を引き取ったがん患者
「最後は家に帰りたい」。ある末期がん患者の、最後の願いだった。訪問看護のスタッフは、すぐにでも応えようとした。だが、紙の契約書を作り、スケジュールを確認するそのたった1日の事務作業の遅れが原因で、その人は家に帰ることなく、病院で息を引き取った。
「デジタル化の遅れは、単なる非効率ではなく、命の時間に関わる問題でした」と語り始めたのは、岩手の被災地・陸前高田から登壇した株式会社AKASIの代表取締役社長 菅原晃弘さんだ。
AKASIは岩手県南部を拠点に、リハビリと訪問看護を提供する「訪問看護ステーションさくら」、福祉用具を扱う「福祉用具さくら」、ケアマネジャーが担う「ケアプランさくら」を展開する。9つの市町村にまたがり、5つの事業所から利用者の家々を訪ねている。
冒頭の悲劇は、医療・介護業界ならではの事情を背景に起きた。命を守るための厳格なルールが定められ、紙の契約書、医師からの指示内容、その保存方法までが細かく決められている。守るべきものではある。だが当時の菅原さんは、その重さの前で立ち止まっていた。
「決められたことだから致し方ない、書類の作成に時間がかかっても仕方がない。当時はそう思い込んでいました。でも、利用者さんに対してすべき「真理」と、私たちが思っている「やり方の常識」は、本当に同じものなのか。あの後悔があったからこそ、その問いに立てたんです」(菅原さん)
菅原さんは行政に相談を持ちかけた。こういう契約ではダメか、こういう保存方法ならいけないか。最短で、しかも紙を介さずに利用者へ届く方法を探っていった。訪問看護などの事業所が国保連へ請求するフローには複雑な書類が絡むため、その部分は専門のソフトに任せる必要がある。しかし、そのほかのExcelや紙、ホワイトボードに散らばっていた情報の一括管理は、kintoneに託すことが可能だと気が付いた。
「私たちの職場は、患者さんの家にあります。だから、会社の外で使えること、導入しやすいこと、自分で作れること、広い範囲に広げられること。この4つが決め手でkintoneを選びました」(菅原さん)
2つのルールで作り込んだ利用開始フロー、3~7日かかった契約が最短0日に
アプリを作るにあたり、2つのルールを課しているという。1つは、全体のフローを守ること。困りごとに合わせてアプリを作った結果、こちらは良くなったがあちらが困った、では本末転倒だからだ。もう1つは、3年に一度の制度改定に耐えられる作りにすることだ。
「制度が変われば、仕組みも紙も変わります。誰かがいなければ回らない、では困るんです。だから、アプリは単体で動くこと、リレーションで作り込まないこと、プラグインは基本機能に加えて3つまで。使ってみたいものはいっぱいあるので、なかなか厳しいんですけどね」(菅原さん)
効果が最も表れたのが、利用開始までのフローだ。導入前は、ケアマネジャーやソーシャルワーカーから紙で依頼が届き、Excelのスケジュールで確認し、契約書を作り、利用者の家へ持っていっては持ち帰り、また持っていく。それだけで3日から7日もかかっていたそう。
kintone導入後は、その全工程を利用者の自宅で完結できるようになった。利用者の情報はフォームブリッジで直接アプリに書き込み、KOYOMIでスケジュールを管理する。スタッフ全員にタブレットを持たせ、TISの手書き/画像編集プラグインで署名をもらってアプリに格納する。プリントクリエイターで契約書の形にして、後日あらためて渡す。こうして、最短0日でフローが回るようになった。
「今この瞬間にうちの事業所へ電話をいただいて、「今日これから入ってもらえませんか」と言われても対応できる体制になりました」(菅原さん)
KOYOMIでスケジュールを組むと、空き時間が自然と見えてくる。すると職員から、「私はここなら時間があるので、これができますよ」と声が上がるようになった。さらに、家庭の事情でバックオフィスのスタッフが退職したのを機に、業務改革の成果もあって、いまや事業所には専門職しか残っていないという。
「バックオフィスがゼロで訪問看護ステーションを運営している事業所は、そう多くないと思います。プロの集団だけで動いているんです」(菅原さん)
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