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業務を変えるkintoneユーザー事例 第319回

仕組みは育てるもの。それが私たちの出した答え

成功したはずのkintone運用が崩壊 みんなで育てるkintoneという答えを導き出した2日間

2026年07月14日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

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大鎌電気株式会社 事業推進部 関口佳奈さん

 個人のExcelやスプレッドシート、手書きのメモ、最悪は記憶だけ。属人化していた案件情報をkintoneで業務改善したものの、形骸化した運用ルールのために元の木阿弥に。これはうまくいったはずの仕組みが崩壊し、再構築するまでの物語。

 kintone hive 2026 sapporoの4番手として登壇したのは、函館市の電気工事会社「大鎌電気」の事業推進部 関口佳奈さん。「仕組みは作るものではなく、育てるもの。みんなで育てるkintone。これが、私たちの出した答え」と語る関口さんは、バラバラの運用ルールのために崩壊したkintoneに対する共通認識を生み出し、立て直していった課程について語った。

コロナ禍で立ち上がったDX推進プロジェクトがぶつかった壁

「本日ご紹介するのは、弊社の成功事例ではありません。一度はうまくいったはずの仕組みが崩壊し、再構築するまでの物語をお届けします」(関口さん)

 大鎌電気は函館市の電気工事会社で、終戦の年である1945年に創業し、今年で81周年を迎える。創業のきっかけは、現社長の祖父が立ち上げた大鎌電気商会にさかのぼる。工業高校で電気を教えていた創業者が、戦後復員してきた教え子たちの雇用の受け皿を作りたいという思いから始めた会社だ。

「仲間を思いやり、どんなときでも困難を乗り越えていく。このDNAは、今も大鎌電気の根底に流れていると感じています」(関口さん)

 関口さん自身は2023年に同社へ転職し、バックオフィス全般を担当するかたわら、事業推進部のミッションとして会社全体の生産性向上に向けた業務改善に取り組んでいる。

kintone hive 2026 sapporoの4番手は函館市の大鎌電気株式会社

 大鎌電気は長年、公共事業をメインに事業を展開してきた。2018年には法人向け事業を立ち上げて事業を拡大し、2020年には個人向け事業へ挑戦するため新卒7名を採用する。しかしその年、新型コロナウイルスの影響で新規事業は延期を余儀なくされ、新卒7名の活躍の場が失われてしまった。会社に集まることも、現場に行くこともできない。その逆境から、非接触でも価値を生み出す働き方として、DX推進プロジェクトが立ち上がったという。

「その頃の大鎌電気の課題は、シンプルかつ深刻なものでした。1つ目は、案件情報が属人化していたことです。個人のExcelやスプレッドシート、手書きのメモ、最悪の場合は個人の頭の中の記憶に情報が属人化していました。そのため、営業担当は案件の進捗を確認できず、工事部では急な業務の引き継ぎに対応できないなど、組織としての対応力が弱い状況にありました」(関口さん)

 そして、もう1つの課題がコミュニケーションツールの分断だった。電話やLINE、メールがそれぞれ別に使われ、案件の進捗や変更が誰にどこまで伝わっているのか見えず、情報共有の抜け漏れが起きていた。今、何が起きているのかを誰も把握できない。そんな状態を打開するため、案件情報の見える化とツールの一元化を軸に、業務改善へ舵を切った。

 転機は、代表の大鎌が参加したある経営者研修だった。そこで出会ったのが、2018年のkintone AWARDでグランプリを受賞した有限会社矢内石油の矢内哲さんだ。現状を相談したところ、ノーコードでアプリを自作でき、現場主体で改善を回せるツールがあると教わった。それがkintoneだった。自分たち主導で進めて改善できるというコンセプトが会社の方向性と一致し、導入を即決した。

 導入初期は、誰もが使いやすいシンプルさを重視した。バラバラだった案件情報は案件管理アプリへ集約し、ステータスを設定して進捗を見える化する。コミュニケーションはコメント欄に集め、いつ誰が何を言ったのかをひとつにまとめた。案件に関わる履歴をすべて案件管理に紐付けることで、業務改善は一度はうまくいったのだ。

案件管理アプリに情報を集約し、ステータスで進捗を見える化することに成功した

運用と共通認識がずれて仕組みは崩れた、2日間かけて「意味を揃える」再構築

 ところが、2023年に転職してきた関口さんは、業務を覚えるためにkintoneに触れる中で違和感を覚えた。仕組みはあるのに、人によって使い方がバラバラだったのだ。3年の間に人員が入れ替わり、業務も少しずつ変わる中で、運用ルールが形骸化していた。案件を登録するタイミングも、ステータスを変更するタイミングも基準がなく、データの鮮度は損なわれ、重要な情報が欠けたまま放置される案件もあった。コメント欄に集めたはずのやり取りも、再びバラバラに戻っていた。どこまで進んでいるのかわからない。導入当初の課題へ逆戻りしつつあったのだ。

「kintoneというツールの使い勝手が悪かったわけでも、機能が足りなかったわけでもありません。運用していく中で共通認識が少しずつずれ、それが積み重なっていった。運用と共通認識がずれると、仕組みは崩れるのだと学びました」(関口さん)

 立て直しのため、大鎌電気はプロジェクトを立ち上げ、丸2日間かけてkintoneと向き合う時間を作った。こだわったのは人選だ。部長などの役職者を外し、課長職以下で日頃からkintoneに触れる機会の多い各部署のメンバーを選んだ。結成当初はみんなグレーの初期アイコンのままだったので、若い頃の写真やお気に入りの写真をアイコンに設定するところから始めた。まずはツールに愛着を持ってもらうためだ。

kintoneに愛着を持ってもらうために、若いころの写真をアイコンにしてもらった

 時間をかけたのが、付箋と模造紙を使って業務を一つずつフローに書き出す作業だった。

「机に向かって「業務を洗い出しましょう」と進めても、どうしても抜け漏れが出ます。「お客様から電話が来ました。次にあなたは何をしますか」と、ロールプレイングで実演しながら進めると、忘れがちな業務まで書き出せるんです」(関口さん)

 出来上がったフローを前に、関口さんたちが大切にしたのは、自部署だけの最適化ではなく全体最適の視点だった。

「自分の仕事が、次の工程へどんな大切なバトンとして渡っていくのか。それを、その場にいたメンバー全員が、当事者として深く認識しました」(関口さん)

 いつ、誰が、どんなアクションを起こすのかを具体的に言語化し、ステータスを変えると次にどの部署へどんなバトンが渡るのかを一つずつ確認していった。こうしてステータス定義の解釈のずれを解消し、コメント欄の活用も共通認識として揃え直すことができた。登録や更新のハードルを下げるため、不要な入力フィールドも削った。

「私たちが再構築で行ったのは、ルールを増やすことではありません。意味を揃えることでした。なぜ入力するのか、誰のための入力なのか。業務フローを書き出して見直し、意味付けをして運用に落とし込む。そうやって共通認識を生み出すことで、崩壊から立て直していったんです」(関口さん)

付箋と模造紙で業務をフローに書き出し、ステータスの「意味」を全員で揃え直した

カレンダーPlusで工事予定表を刷新、反発した社員には「義務」ではなく「意味」を渡した

 再構築が進む中で、現場から工事予定表を改善したいという声が上がり、新たなプロジェクトが始まった。従来の工事予定表はスプレッドシートで管理しており、欠点が3つあった。いつ誰が何時に空いているのかを瞬時に判断できないこと、その調整に膨大な時間がかかること、そして見にくさからダブルブッキングが起きることだ。

 そこで「カレンダーPlus」を導入し、工事予定表を大幅にリニューアルした。予定に色を付けてフラグを立て、赤は変更できない絶対優先、オレンジは相談次第で調整できるもの、空欄はいつでも空いているサインとした。これで、いつ誰が空いているのか、誰を優先的に工事へ入れていいのかが一目瞭然になり、日次・週次・月次でリソースを最適化する土台ができた。

工事予定表は「カレンダーPlus」で刷新。色とフラグで空き状況が一目でわかるようにした

 ただ、ここでも問題が起きた。見やすい工事予定表ができても、全員が入力してくれるとは限らない。従来は現場で作業する人を対象に予定を入れていたが、現場を管理する側はそれぞれ個人のGoogleカレンダーで予定を持っていた。kintoneに集約すると、管理側にとっては二重入力になり、「手間に感じる」という強い反発が一部から出た。

 いつもの大鎌電気なら、ここで入力の義務を押し付けていたという。しかし、再構築を通じて意味付けを学んでいた関口さんは、反発した社員の一人に、こう問いかけた。

「もし、書類整理で手が離せないときや、屋根裏の狭い場所で現地調査をしているときに、日程調整の電話がかかってきたら、どう感じますか」(関口さん)

 社員は「仕事の手は止まるし、一度の電話で工事予定が決まるとも限らない。そのやり取りが手間で、ストレスを感じます」と答え、関口さんはチャンスだと感じたという。

「だからこそ、工事予定表に入力してほしい。空いている予定がわかれば、こちらでスケジュールを立てます。あなたに日程調整の電話をすることは、もうありません」(関口さん)

 そう伝えると、本人にとっての入力は、会社から強制されるものではなく、自分の作業時間を守るための入力へと意味が変わっていった。仕組みが、本当の意味で習慣へと変わった瞬間だった。

 さらに、工事予定表にアクションボタンを設けて新しく作った日当申請アプリに連携させ、紙で行っていた日当申請をデジタル化した。集計側ではkrewDataを使い、月単位で日当金額を自動集計する。1つの工事予定から精算フローまで、スムーズにつながっていく業務改善も実現できた。

副産物として、日当申請のデジタル化も実現した

「仕組みは作るものではなく、育てるもの」、みんなで育てるkintoneという答え

 定着にあたって関口さんは3つのことを意識したそう。現場の困りごとを起点に改善すること、作った運用や共通認識を毎朝の朝礼や夕礼で日常に埋め込んでいくこと、そして「なぜ」を繰り返し共有し、立ち止まったときには意味付けをすること。

 導入効果も大きかった。案件に関する情報共有の時間や日程調整のスピード、ダブルブッキングの抑制といった面で、1件あたりの時間とコストを大きく削減できた。

「もともと私は、作業系の仕事が得意な人間でした。でも会社から求められたのは、業務を洗い出し、改善点を見つけ、仕組みを作る思考系の仕事。そのギャップに悩む中で、職場改善がこんなに良いものなのだと教えてくれたのが、この再構築でした。私の仕事の意味を大きく変えた転機です」(関口さん)

 今後は、システムの設計や構築が苦手な社員でも、業務改善のアイデアを出して活躍できる環境を作っていきたいという。個人に依存した業務改善ではなく、チームで進める業務改善へ。関わる当事者を増やし、次の誰かへバトンをつなぐ業務改善を、日常の当たり前にしていく構想だ。

「ツールより運用、ルールより意味、個人よりチーム。そして、仕組みは作るものではなく、育てるもの。みんなで育てるkintone。これが、私たちの出した答えでした」と関口さんは語った。

質疑応答

セッション後、サイボウズの山本裕弥さんから関口さんに質問が投げかけられた。

サイボウズ山本さん:北海道でカレンダーといえばカレンダーPlus、というくらいおなじみのプラグインですが、導入によって、現場と調整する側からも「良かった」という声はありましたか。

関口さん:スプレッドシートで管理していたときは、入力したうえで、電話やChatworkで同じ内容を相手に伝えていました。受け取る側も、電話で来たのかChatworkで来たのか、どこでやり取りされたのかわからない状態でした。工事予定表に入力すれば必ず通知が届くので、通知を見るだけで「この予定が入ったんだ」とわかる。そこは改善として良かったと感じています。

サイボウズ山本さん:これから「みんなで育てるkintone」になっていくと思いますが、当事者は増えていますか。

関口さん:再構築当初は5名で進めていましたが、今は良い意味でその体制が崩れてきています。「こういうことはできないかな」という声が社内のあちこちで上がり、「ではこの数名で考えてみよう」「これまで携わっていた人を集めて意見を聞いてみよう」という形で、良い意味でグループを壊しながら、全員でやっている実感があります。

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