業務を変えるkintoneユーザー事例 第83回
デジタル化は業務改善とのセットが必須と説くエンカレッジ玉野さん
「kintoneからのExcel戻り」を経験したデータベースジプシーが語る業務改善の大切さ
2020年07月13日 09時00分更新
2020年6月9日は松山で2回目の開催となったkintone hive matsuyama Vol.2。昨年の記念すべき第1回は全国を制するkintone AWARD受賞者を輩出しており、今年も期待が高まっていた。そんなプレッシャーをはねのけて堂々と事例を発表してくれたのはエンカレッジ 代表取締役 玉野 聖子氏だ業務のデジタル化に失敗して紙ベースに戻ったのち、デジタル化に再チャレンジ。業務改善とセットで進めることで成功に導いた。
kintoneを含むクラウド導入に失敗し、Excelに回帰したデータベースジプシー時代
リモートで登壇してくれたエンカレッジの玉野さんが初めてPCを使ったのは、32歳のとき。当時、専業主婦だった玉野氏は、新しいことにチャレンジしたくてパソコンスクールに通い始めたのだという。Office系アプリケーションの使い方を学ぶうちに楽しくなり、資格を取得してインストラクターに。その後にエンカレッジを興し、IT技術に加えてコミュニケーション能力開発やキャリア形成支援へと分野を広げた。
エンカレッジという社名は、「勇気づける」、「励ます」、「自信や希望を与える」という意味の英単語“encourage”に由来しており、「組織の発展と働く人の幸せをエンカレッジしたい」という玉野さんの思いが込められている。面白いことに、人材育成・IT支援と並ぶ同社のもうひとつの柱は、司会・ブライダル事業だ。そんなエンカレッジを舞台にして、玉野さんと役員、事務スタッフによる業務改善の物語が語られた。
「創業した2008年から2012年までは、Accessを使っていました。しかし時代はクラウドなのではないかということで、有名クラウドサービスを1年間利用し、挫折しました。海外製サービスだったので合わなかったということもあったのだと思います。そこで今度は国産のkintoneを導入してみましたが、こちらもやっぱり使いにくくて半年でやめてしまいました」(玉野氏)
この当時のことを玉野氏は、「データベースジプシーの時代」と呼んだ。この経験を経て最終的に落ち着いたのは、WordとExcelだった。なんと、kintone導入事例の黄金パターンである「Excelからkintone」ではなく、「kintoneからExcel」への移行を経験しているのだ。Office系インストラクターという経歴を持ち社内にも同様の資格を持つ社員が多かったことから、「やはり最も使い慣れたツールにしよう」という結論に落ち着いたのだという。しかしその先に待っていたのは、ファイルサーバーに溜まっていく大量のファイルと、事務スタッフのデスクに積み上がっていく紙資料の山だった。
「2008年から2018年までの10年間に20万近いファイルと、2万6千個のフォルダが作られました。目的のファイルを開くまで10クリックは必要という状況です。紙資料の方はさらに大変です。ちょっと資料を確認したいだけでも、事務スタッフが自分のデスクの引き出し、書類棚を探し回り、家宅捜索のような状態です」(玉野氏)
さすがにこれではまずいと思っていた頃、玉野氏はkintoneと再会した。セミナーで教えられたkintoneは、玉野氏が知っているものとはちょっと違った。音声入力にルックアップ、関連レコードなど玉野さんが知らない機能がたくさんあったのだ。1ヵ月の試用期間をもらい、玉野氏はkintone再導入に向けて始動した。
2度目のkintone導入を成功させるため、綿密な事前準備を実施
前回と同じ失敗を繰り返さないために、kintone再投入に当たり玉野氏は「みんなを巻き込む」という大きな方針を立てた。kintoneを使う人たちが自分ごととして考えて取り組んでくれるように工夫を凝らしたのだ。具体的には、3つの方策を打った。1つは、事前準備として事務の流れとそれぞれで使うツールの把握。もう1つは自主学習。3つめは、2つの事前準備を経ての業務改善ミーティングだ。
「kintone導入に失敗した理由が、このときにはもうわかっていました。当時の業務をそのままkintoneで実現しようとしたために違和感だらけのシステムになっていたのです。業務改善とセットでなければ、IT導入は効果をもたらさないのです」(玉野氏)
事前準備の1つめ、事務の流れとツールの把握では、かなり煩雑な事務の現状が浮き彫りになった。Word、Excel、紙の書類にFAXと、1つの案件で多くのファイル、書類が作成されていた。これらを整理するために、「なくせるものはなくす、なくせないなら減らす、減らすこともできなければやり方を変える」という大きな指針をみんなで共有した。
事前準備の2つめに挙げられた自主学習では、サイボウズがYouTube上に公開している動画を活用した。業務改善ミーティングまでに、参加者全員が16本の動画を2回ずつ視聴しておくこと。累計で32回の動画を観ることになるが、これは案外スムーズに進んだそうだ。
「仕事として、業務時間内に観てもらうようにしました。1本ずつの動画は短いので、仕事の空き時間で視聴できます。オフィスで動画を観ていると『私はもう10本目まで観たよ』などとお互いに声を掛け合うような雰囲気も生まれ、大きな負担にはならなかったようです」(玉野氏)
みんながkintoneの基礎知識を身につけた状態で臨んだ業務改善ミーティングでは、事務の各ステップを分類、各段階で誰にどの情報が必要なのか、その情報はどの業務と連携していればいいのか、「なくす、へらす、変える」という指針を基準に整理していった。何度もミーティングを重ね、業務はスマートになった。仕事のスタートだった稟議書をなくし、情報を連携して手入力をなくすことで確認事項を減らし、外部スタッフとのやりとりなど減らすこともできない部分ではやり方を工夫することにした。
こうした取り組みの末に、業務を分類し、それぞれで必要な資料の連携が可視化された。ここまで整理されれば、アプリに落とし込むのに時間はかからない。試作アプリの作成に要した時間は、実質約3時間。わからない部分はサイボウズの松山オフィスに駆け込み、相談にのってもらったそうだ。
事務の手間自体が減り、ファイルや書類は激減、印鑑も稟議書もない世界へ
2019年1月から2月半ばまでを、業務の洗い出しや業務改善ミーティングに費やした。2月後半にアプリを作成し、3月1日には本稼働というスピード感で、kintone導入は進んだ。ミーティングを重ねて業務の見直しを共有してきたので、kintoneへの移行で混乱はなかったという。
「平均年齢が56歳の会社なので、必要なリンクをトップ画面に大きな文字で配置するなど、使い勝手の工夫はしています。トップ画面に13アプリが表示されていて、マスターを含めても22のアプリで業務の80%をカバーしています」(玉野氏)
中心となるのは、案件管理アプリだ。これまで稟議書からスタートしていたが、今では案件管理アプリにレコードを作成することで案件がスタートし、案件の完結までを1つの画面で俯瞰できるようになっている。案件全体に関係する大事なアプリだけに、運用ルールをしっかり決めて共有している。
たとえば、情報の変更や追加は必ずコメント欄に履歴を残すこと、コメント欄でメンションされたら必ず読んで「いいね!」を押すこと、レコードの作成は誰でもできるが、削除は玉野さんの許可なく行なってはいけないことなどだ。また、このアプリ画面の上のエリアには、面白い工夫が見られる。玉野氏が「なんちゃって印鑑」と呼ぶもので、承認者の名前とチェックボックスが並んでいる。これは稟議書にあった押印欄の代わりになるもので、誰が内容を確認したかわかるようになっている。
「これらのアプリを導入したことで、WordやExcelの利用は40分の1になりました。作成されるファイルやフォルダも激減しました。事務作業が減ったことで、パートでお願いしていたサポートメンバーが不要になり、コスト削減も実現しています。さらにブライダル部門の外部スタッフとのやりとりも、8ステップ20日間から3ステップ3日間に短縮されました」(玉野氏)
残業時間も月間30時間ほどから1時間半ほどへ減るなどかなり明確な効果を実感しており、2度目のチャレンジとなったkintone導入は大成功を収めたようだ。今回の経験から玉野さんは、現状業務をそのままkintoneに落とし込んでもうまくいかないので、必ず業務改善とセットで進めるべきだと強調する。
「いまはライトコースなので、今後はスタンダードコースに変更して、他のシステムとの連携にもチャレンジしていきたいですね。『念ずれば花開く』という座右の銘の通り、大きな花を開かせるためにこれからもがんばっていきたいと思います」(玉野氏)
玉野氏の最後のこの言葉に、視聴者が投稿するTwitterのタイムラインは大きく反応した。ここまでスマートな取り組みで大きな成果を上げていながら、ライトコースだとは誰も思っていなかったからだ。しかし、この事例はライトコースでもここまでのことができるという好例でもあり、kintone導入でコスト問題に頭を悩ませている人には福音となるに違いない。
この連載の記事
-
第254回
デジタル
日本エアコミューターは“ホームラン事例”で保守派を動かし、成田デンタルは“共感×人を動かす”で社内文化を変えた -
第253回
デジタル
洗脳アプリで基幹システム移行の下地を作ったワイドループ、ワイガヤで職人気質の匠を巻き込んだ北斗型枠製作所 -
第252回
デジタル
kintone AWARD 2024開催! 入り口はひとつ作戦の桜和設備と現場と二人三脚で伴走したLILE THE STYLE -
第251回
デジタル
これからは“攻めの情シス”で行こう! 上司の一言でkintone伴走支援班は突っ走れた -
第250回
デジタル
誰にも求められてなかった「サイボウズ Officeからの引っ越し」 でも設定変更ひとつで評価は一変した -
第249回
デジタル
3000人規模の東電EPのkintone導入 現場主導を貫くためには「危機感」「勇気」「目的」 -
第248回
デジタル
入社1年目の壁を乗り越えろ!新卒社員が踏み出したkintoneマスターへの道 -
第247回
デジタル
Zoomを使わず「全国行脚」 振り返ればこれがkintone浸透の鍵だった -
第246回
デジタル
kintoneで営業報告を5.5倍に 秘訣は「共感を得る仕組み」と「人を動かす仕掛け」 -
第245回
デジタル
限界、自分たちで決めてない? 老舗海苔屋が挑んだkintoneの基幹システム -
第244回
デジタル
予算はないけど効率化はできる 山豊工建がkintoneアプリ作成で心掛けたこと - この連載の一覧へ