このページの本文へ

“データの保護から管理へ、そして解放へ”―ビル・ラージェント氏が基調講演に登場

「VeeamON 2020」開幕、新CEOがクラウドデータ管理戦略を語る

2020年06月23日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 2020年6月17日(米国時間)、Veeam Software(ヴィーム・ソフトウェア)の年次イベント「VeeamON 2020」がオンラインでスタートした。基調講演で同社 CEO兼会長のビル・ラージェント(Bill Largent)氏は、Veeamが展開する「クラウド・データ・マネジメント」戦略について説明した。

今年はオンライン開催となった年次イベント「VeeamON 2020」

Veeam Software CEO兼会長のビル・ラージェント(Bill Largent)氏

「事業継続性ニーズに応えるために、データ管理の新たなアプローチが必要」

 2008年に仮想化バックアップソフトウェアベンダーとしての歩みをスタートしたVeeam。ここ数年は急成長を遂げると同時に、大きな変化も続いている。昨年のVeeamON 2019では、ソフトウェア企業として史上最速で年間受注額10億ドルに到達したことを報告。そして今年初頭には、50億ドルで投資会社のInsight Partnersに売却し、それにあわせて本社をスイスから米国に移している。

IDCによるデータレプリケーション/データ保護製品の市場調査(2019年7~12月期)。市場平均成長率が年5.9%のところ、Veeamは20.5%もの急成長を示している

 ラージェント氏はその直前に、共同創業者のアンドレイ・バロノフ(Andrei Baronov)氏に代わってCEOに着任している。それまでも創業メンバーとは近い存在で、執行部門担当のEVPを務めてきたベテランだ。

 CEOとして初めてのVeeamON基調講演で、ラージェント氏は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらす“ニューノーマル”の時代には「リスク配分を再度見直す必要がある」と述べる。他方ではランサムウェアが過去最高レベルで増加するなどサイバー攻撃の脅威も高まっており、セキュリティとガバナンスも大きな課題だ。企業にとって必要なのは「事業継続性」であり、そこではバックアップをはじめとしたデータ管理は重要な役割を果たす。

 「データ管理を新しいアプローチで、インテリジェントに行う必要がある。これにより能動的な対応が可能になり、事業継続性のニーズに応えることができる」(ラージェント氏)

 事業継続性を実現するうえでデータ保護が重要なのは言うまでもない。そして、そのデータは爆発的に増加しており、それだけでなくデータに対するニーズも変化している。ラージェント氏はIDCの予測データを引用し、グローバルのデータ生成量が「2018年には33ゼタバイトだったものが、2025年には175ゼタバイトにも達することになる」と語る。さらに、世界人口の70%が毎日データを使う生活をしており、生成されるデータの30%はリアルタイムに処理されていると続ける。

 データが存在する場所もさまざまだ。「仮想マシン、モバイル、クラウド、エッジ、オンプレミスのハードウェア、ソフトウェア……すべて事業継続、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)にとって欠かせないものだ」と述べたうえで、「ビジネス成功のためには、適切なデータ管理技術が鍵を握る」と強調する。

 Veeamが対象とするデータは、当初の仮想環境からクラウドやオンプレミスの物理環境まで拡大してきた。また単純なバックアップ/リストアのデータ保護にとどまらず、現在は自動化やオーケストレーション、ガバナンスといったデータ管理、さらにはデータを柔軟に活用できるようにする「データの解放」を実現する技術までを提供していくというのが、今年のVeeamONにおけるメッセージである。

多様な場所に分散した企業データの管理を、単一のマネジメントプラットフォームを通じて統合管理可能にする

グローバル調査から読み解く企業の課題とVeeamのソリューション

 これが企業のどんな課題を解決するのか。年次調査「2020 データプロテクションレポート」で浮かび上がった課題に合わせて、2019年秋にCMOに就任したジム・クルーガー(Jim Kruger)氏が紹介した。

 このグローバル調査は約1500人のビジネスリーダー、IT意思決定者を対象として、新型コロナウイルスが感染拡大する前の時期に実施されたもので、たとえば「予期しないダウンタイム」を経験した企業が95%に及ぶことなどがわかっている。

「2020 データプロテクションレポート」は日本語版も公開された

 クルーガー氏はこの調査から導き出したトレンドとして、「ダウンタイムの脅威」「クラウドへの移行」「デジタルトランスフォーメーション」の3つを紹介し、それぞれをVeeamがどう支援できるのかを説明した。

 まず、ダウンタイムの脅威への対策については、Veeamのデータアベイラビリティソリューション導入顧客であるインドのバイク販売会社、Hero MotocorpでCIO/CHRO/CSR担当トップを務めるヴィジャイ・セツィ(Vijay Sethi)氏が登場した。同社ではオンラインと6000の拠点でバイクを販売しており、「2秒に1台売れる」販売を支えるシステムだけでなく、営業や顧客管理の業務においても24時間365日の可用性を求めていると語る。「従業員全員が同じデータを見るシステムを構築した。ここではデータの一貫性が重要であり、モニタリングツールなどさまざまなVeeamの技術を使って、デーの保護とアベイラビリティを実現している」(セツィ氏)。

Veeam Software CMOのジム・クルーガー(Jim Kruger)氏と、Hero Motocorp CIO/CHRO/CSR担当のヴィジャイ・セツィ(Vijay Sethi)氏

 クラウドへの移行については、まずSaaSにおけるバックアップの重要性を強調した。今回の調査では、多くの業務データが保存されている「Office 365/Microsoft 365」について、68%の企業が「Microsoftがデータをバックアップしている」ものと考えており、外部のバックアップツールを利用する企業は27%にとどまることがわかったという。

 「Microsoftが提供するサービスには、包括的なバックアップサービスは含まれていない。自社のデータは自社で管理、保護しなければならない」(クルーガー氏)。実際、Office 365、Microsoft 365でデータ損失を経験した企業は81%に上るという。

 同社では「Veeam Backup for Office 365」を提供しており、今回のVeeamONにおいて新バージョン(v5)が発表された。このバージョンでは新たに「Microsoft Teams」の包括的なバックアップ機能が追加されている。また、Amazon Web Service(AWS)向け製品でも新バージョン「Veeam Backup for AWS v2」を発表しており、他リージョンを保存先とするスナップショットレプリケーションなどの新機能が加わっている。なお、AWS向け製品は2019年末にv1が登場したばかりで、約半年でのバージョンアップとなる。

 パブリッククラウド(IaaS)向けでは、AWS以外にもMicrosoft AzureやIBM Cloudに対応した製品をリリースしている。今回のVeeamONには、IBM CloudのCTOであるサイモン・コフキン-ハンセン(Simon Kofkin-Hansen)氏がゲスト出演した。コフキン-ハンセン氏は、Veeam製品のメリットの中でもシンプルで“It just works”(とにかく動く)点を挙げる。「使い慣れた技術、同じポリシーとプロシージャで、オンプレ環境からクラウドに拡大できる」(コフキン-ハンセン氏)。

 クラウド移行についてのアドバイスとして、コフキン-ハンセン氏は「一気にいろんなことはできない。まずは1つのユースケースを選んで、その経験から学んで拡大していくとよいのでは」と述べた。なお、一番多いユースケースは「バックアップとディザスタリカバリ(DR)」だという。

 3つめのデジタルトランスフォーメーション(DX)では、データの保護/管理から「解放」の段階へと歩を進めることになる。これまで社内に眠っていたデータを柔軟に活用、再利用できる状態にすることで、新たなサービスの開発、さらに「ビジネスオペレーションとビジネスそのもののモダン化も図れることができる」(クルーガー氏)。

 ただし、DXを阻害する要因もある。調査ではトップの「スタッフのスキル、知識不足」(44%)に次いで「レガシーなIT」(40%)、「予算」(30%)が挙がっている。そして、この後者2つは関連しており、IT予算の7~8割がレガシーシステムの維持に費やされているため、DX推進に予算を割くことができていない。これはよく指摘されることだ。

 基調講演の最後にCEOのラージェント氏は、2019年に同社が打ち出した「Veeamの第2章」という言葉に触れ、「引き続きオペレーション、R&D、セキュリティとガバナンスに対して投資を行っている」と述べた。たとえば、セキュリティ領域ではCISO(最高情報セキュリティ責任者)職を新たに設け、「社内、そして製品とソリューションの両面でセキュリティプロトコルを強化している」と報告した。

 なおラージェント氏による基調講演を含め、VeeamON 2020の各セッションはイベントWebサイトでオンデマンド視聴が可能だ(要登録)。

Veeamではクラウドでもパートナー提携を進めている。ラージェント氏は「パートナーは成功にとって重要だ」と強調した

カテゴリートップへ