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百麺人・山本剛志の「語りたいラーメン店」 第14回

1+1が3にも4にも感じられる、半チャンラーメンの魅力 中華そば 伊峡(東京・神保町)

2020年05月21日 12時00分更新

文● 山本剛志 編集● ラーメンWalker

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 「レトロニム」という言葉がある。それまでにあった言葉が新しい概念に取って代わられた為に、新たな名前をつけられる現象の事を指す。有名なのは「固定電話」。もともと「電話」は固定式だったが、携帯電話の普及で「固定」をつけるようになった。更に「携帯電話」という言葉も、スマートフォンの普及で「ガラケー」と呼ばれるようになった。

 ラーメンの世界にもレトロニムが存在する。かつて「ラーメン屋」といえば、中華料理や定食などもこなしながらラーメンを提供している店の事を指した。しかし、2000年頃からラーメン専門店の割合が増えて、それまで「ラーメン屋」と呼んでいた店に、新しい呼び名が定着するようになった。それが「町中華」である。

 「町中華」の定義は様々で、マストアイテムがあるわけではない。個人的な見解だが、「町中華」の店には「半チャンラーメン」がある事が多い。半チャンラーメンが一般的になったのは、1966(昭和41)年に創業した神保町の「さぶちゃん」とされている。

「さぶちゃん」の「半ちゃんらーめん」(2017年に惜しまれつつ閉店)

 「さぶちゃん」は惜しまれつつ閉店したが、神保町では半チャンラーメンが人気の老舗がまだまだ健在。その1軒が「中華そば 伊峡」だ。

「中華そば 伊峡」

 同じ神保町にあった「中華料理 伊峡(1989年閉店)」で修業し、1966(昭和41)年に店を構えた「中華そば 伊峡」。「さぶちゃん」とは兄弟弟子の関係にあり、半チャンラーメンもメニューにある。

移転で少し値上げしたが、「半チャンラーメン」でも650円!

 2019年に建物老朽化の為に、靖国通りを挟んで南側に移転した。赤い暖簾のフチに何やら書いてあるので、カメラを寄せてみました。

左側には「Since 1966」

右側には「Anniversary 2019.6.18」

 創業半世紀を越えた老舗が、移転で新たなスタートを切った事がこの暖簾からも伝わってくる。店内は、L字形の赤いカウンター席に白い壁が真新しい。

 厨房を仕切る男性も、代替わりしたらしくやや若い。私が訪問した時は、長年店を切り盛りしてきたご主人が、客席に座って餃子を包んでいた。

まずはラーメンから

 「半チャンラーメン」を頼むと、最初にラーメンが配膳される。動物系の旨みをじんわりと漂わせるスープに、軽く縮れた中細麺が入る。シンプルな見た目を裏切らないラーメンを、変わらずに提供してくれる。

そして半チャーハン

 中華鍋で炒められた半チャーハンは、玉子と塩分が米に絡んでくる。それぞれ単体でも魅力ある一品だが、是非試してほしいのは、「半チャーハンを口にしたままスープを飲む」食べ方。半チャーハンの塩分がスープに輪郭を与えて新しい味を楽しめる。「1+1」が3にも4にも感じられるのが、半チャンラーメンの魅力ではないだろうか。

 ラーメンとチャーハンという普遍的なセットでありながら、ボリュームだけでなく舌も満足させるテッパンの組み合わせ。様々な店で提供されているが、歴史を重ねつつも古びれない「伊峡」でも食べてみてほしい。

山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)

2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人Twitter @rawota

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