「IBM Blockchain Platform」はコンテナ化+OpenShift対応でオンプレミス/マルチクラウド展開可能に
IBM、新世代ブロックチェーン基盤製品やSaaS、導入事例を紹介
2020年05月20日 07時00分更新
日本IBMは2020年5月18日、ブロックチェーンソリューションの最新動向に関するオンライン記者説明会を開催した。マネージドサービスとして提供されてきた「IBM Blockchain Platform」のコンテナ化と「Red Hat OpenShift」への対応による“IBM Blockchain Anywhere”、業種別ブロックチェーンソリューションのSaaS化、“ポストコロナ”時代に求められるサプライチェーン構築のためのブロックチェーンとパートナー/顧客企業との取り組みといったトピックが紹介された。国内導入事例も多数紹介している。
第2世代「IBM Blockchain Platform」はオンプレミス/マルチクラウド配備可能に
先日開催された年次イベント「IBM Think 2020」でも強調されたように、IBMにとっての重要戦略のひとつが、顧客企業におけるハイブリッドクラウド化のさらなる促進である。その中核となる製品がコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」と、OpenShiftに対応したミドルウェアコンテナ群の「IBM Cloud Paks」だ。
日本IBM 取締役専務執行役員 事業開発&テクニカル・エキスパート本部担当の三澤智光氏は、IBM Blockchain Platformも同様にコンテナ化され、OpenShiftに対応したことで、オンプレミスからマルチクラウドまであらゆる環境にデプロイすることができ、特定環境にロックインされることもないと強調する。「まさに“IBM Blockchain Anywhere”といえる環境が実現する」(三澤氏)。
日本IBM ブロックチェーン事業部長の髙田充康氏によると、IBM Blockchain Platformは2017年8月からフルマネージドサービスとして提供してきたが、昨年(2019年)全面的に書き換えてコンテナ化/OpenShift対応し「マルチクラウドに対応した“第2世代のIBM Blockchain Platform”」に進化している。旧世代のサービスはメインフレームのIBM Zシリーズで稼働していたが、第2世代はKubernetesサービスのx86インスタンスを使用しているという。
こうしたプラットフォームを提供する一方で、「すぐに利用できる」業種向けブロックチェーンソリューションをSaaSとして提供しスモールスタートできる環境を整え、ブロックチェーンの普及を加速させる取り組みも進めている。三澤氏は、さらにこれからの“ポストCOVID”時代に不可欠となる、高信頼かつリアルタイムなサプライチェーン構築においては、ブロックチェーンがスタンダードなテクノロジーとして採用されることは明らかだとして、日本IBMのブロックチェーンに対する姿勢を次のようにまとめた。
「ブロックチェーン(市場)において、日本IBMはプラットフォームやSaaSを提供するだけでなく、各業界に特化した豊富なサービス能力も付け加えることで、ニューノーマル時代の構築に貢献していきたい」(三澤氏)
“ポストコロナ”時代に求められるインテリジェントなサプライチェーン構築に向けて
IBMでは、ブロックチェーン事業における主な取り組みとして4つを挙げている。オープンソフトウェアコミュニティの中で開発を進めるブロックチェーン基盤「Hyperledger Fabric」、コンソーシアム型ブロックチェーンネットワークに必要な要件を兼ね備える「IBM Blockchain Platform」、初期プロジェクト立ち上げ支援からコンサルティング、研究所サービス、本格開発支援といった「ブロックチェーンサービス」、そして、顧客企業との共創によって業界ブロックチェーンプラットフォームをグローバル展開する「ブロックチェーンソリューション」の4つだ。
今回の会見では特に、ブロックチェーンソリューションの具体的な国内外事例が多数紹介された。
髙田氏はまず、ポストコロナ時代には「人が動けない(移動が制限される)」ことを前提とした業務体制が求められるようになると説明する。
「短期的にはテレワークやBCPへの取り組みとなるが、中期的には省人化や自動化、コスト削減をサプライチェーンの中で徹底して導入すること、さらにリスク管理を強化することなどが必要になる。そのためには“インテリジェントなサプライチェーン”の構築が重要になるだろう。透明性を担保して全体を見える化すること、信頼できるデータを活用してそれを共有し、有事にも対応できることが求められる。そこに、IBMが提供するブロックチェーンの技術が生きてくる」(髙田氏)
そのうえで、国際貿易、食の信頼、サプライヤー調達という3領域のブロックチェーン事例を紹介した。
まず国際貿易では、国際海運企業のMaersk(マースク)とIBMが共同開発した、国際貿易のデジタル化を目指すプラットフォーム「TradeLens」を紹介した。TradeLensは2018年12月からSaaSとして商用化されており、累計イベント処理数は11億件以上、累計貿易書類処理数は900万枚以上という実績がある。2019年には、ONEや井本商運といった日本の主要貿易事業者もTradeLensへの参加を表明している。
「新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大するなかで、国際貿易業界では輸送コンテナがどこにあるのか、税関の処理状況はどうなっているのか、内陸輸送はどうなっているのか、ターミナルに在庫がどの程度あるのかといったことを早急に確認する必要が生まれた。だが、もともと業界全体で紙書類に基づくプロセスが多く、そうした確認に時間がかかるという課題に直面した。これにより、デジタルプラットフォームを活用する流れが加速している」(髙田氏)
食の信頼に関する事例としては「IBM Food Trust」を紹介した。これはウォルマートの取り組みから発展した、食の信頼構築を目指す業界プラットフォームだ。2018年10月に商用化され、現在は200以上の事業者が参加し、登録商品数は1万7000件、取引記録数は2000万以上、トレース数は75万以上に到達しているという。
「当初はリコール対策からスタートしたものだが、その後、ブロックチェーン上に蓄積した情報を活用することで、サプライチェーン全体において、さまざまなメリットを生んでいる事例になっている」(髙田氏)
たとえば参加事業者のカルフールでは、IBM Food Trustを利用して、自社ブランド製品がいかに安心安全な環境で生産/加工/物流されていることを消費者に訴求している。また外食産業向けサプライヤーであるゴールデンステートフーズでは、センサーとRFIDを同サービスと組み合わせて牛肉パティの鮮度を追跡、全米のハンバーガーチェーンに対し、効率的かつ安全な配送の仕組みを構築している。
「日本でも食品サプライチェーンの構築が始まっているが、IBM Food Trustはグローバルで標準化された仕組み。国内のSIerは、これを利用することで付加価値部分だけを開発すれば済むようになる」(髙田氏)
さらにIBM Food Trustの実績を基に、あらゆる業界のサプライチェーンに適用できる汎用的なサービスとして開発された「IBM Blockchain Transparent Supply」も紹介した。こちらはすでにコーヒー業界やタイヤ業界などでネットワークを構築しており、「今後は医薬品やワイン、アパレル業界にも広がりを見せようとしている」という。髙田氏は、国内でもこうしたニーズが期待できると述べた。
最後のサプライヤー調達の事例では「Trust Your Supplier」を紹介した。これはIBMが米国のスタートアップ企業とともに立ち上げたプラットフォームで、安全かつ低コストで、迅速なサプライヤー調達を実現することができるネットワークだという。2019年9月から生産を開始し、2020年夏から事業化する予定だという。
「従来は、購買者が新たなサプライヤーとの取引を開始するまでに信用審査などで4~6週間かかっており、サプライヤー側でも取引先ごとに同じような書類を提出しなければならないという課題があった。Trust Your Supplierによって、こうした課題をブロックチェーン活用で解決できており、新規取引が数日で開始できるようになっている。大手企業も参加し、1000社以上のサプライヤーが情報を提供している」(髙田氏)
ちなみに、新型コロナウイルスの急激な感染拡大により、各国でマスクや人工呼吸器、防護服といった医療物資が不足する事態となっており、これを解消するために異業種から参入した新たなサプライヤーとのつながりを求める動きも加速している。IBMではこれを支援するため、北米市場向けに8月末までの期間、Trust Your Supplierを活用した「IBM RAPID Supplier Connect」を無償提供している。