広がるシェア傘 1日70円の傘レンタル「アイカサ」拡大要因を聞く
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苦労したのは傘箱を置く場所の確保
シェアリングサービスが市民権を得て、ビニール傘が環境に悪影響を及ぼすという認識が広がるなど、丸川氏が語るようにアイカサにはタイミング良く追い風が吹いた。しかし難題はほかにあった。傘を収める傘箱設置の場所確保だ。そのためサービス提供にあたっては、事前に地権者や店主と交渉し、提携を結んで街のあちこちに傘を置かせてもらう。利用者を増やすには駅など目立ちやすい一等地にアイカサの傘箱を設置する必要がある。
丸川氏は「アイデアを思い付いた段階では、もっと楽に置く場所を確保できるかなと思っていたが甘かった」と苦笑する。「何回も頼み込まないと傘箱を置かせてはもらえない。500カ所くらい回って、ようやく30~40ヵ所に設置できるくらいの勝率」と言うほど傘箱の設置場所確保には苦労したそうだ。
アイカサでは、傘箱を設置をすればその場所の地権者などに高い収益が入るというわけではないではない。交渉の過程で、シェアリングサービスに興味を示し、環境への配慮といった点に賛同してくれたとしても、すぐに設置させてくれるところばかりではなかった。
そこで丸川氏は2つの策を打った。まず、サービスが開始前に各種メディアを使って、「これからこんなサービスを始めます」と告知した。仕組みが分かりやすいサービスであることから注目が集まり、「設置してもいい」という声が上がり始めた。
さらに設置場所として鉄道会社、コンビニエンスストアなど大手企業との提携を模索した。意外にも思えるが、アイカサは大手企業にとっては提携するメリットがあるサービスなのだ。
「提供してもらうのは傘箱を置く場所だけ。電源など特別な設備は不要。傘箱を置く場所を提供する業者にかかる負担はごく少ないもの。さらに、シェアリングサービスを始めている、ビニール傘によるプラスチック汚染に配慮しているなど、社会的な意義ある事業に賛同しているとアピールできる。オープンイノベーションに賛同するという流れができたタイミングだったからこそ、大手企業が話を聞いてくれたと思います」
実際にローソンとの実証実験を実施し、メガネスーパーの店舗にアイカサの傘箱を設置させてもらった。また、三井住友海上キャピタル株式会社や、JR東日本のグループ会社であるJR東日本スタートアップ株式会社からの出資を受けるなど、大手との提携に成功している。そして、大手との提携によってアイカサというサービスに対する社会的信用が大きくなり、設置場所を増やしやすくなるなど、良い連鎖ができている。
「雨が降ってきたのに傘がないという理由で、街を歩かずすぐ帰ってしまう人が増え、その地域の商店の売り上げが10~15%下がるというデータもある。街全体を盛り上げたいと考える大手企業にとって、アイカサは取り組む意義があるサービスだと考えてもらえるようになった」と丸川氏は手応えを感じているようだ。
「次のサービス」へのアイデアも
引き合いが増えたことで、「『設置しても利用回数をあまり見込めない』という理由で、設置申し込みをいただいてもこちらからお断りするケースもある」という。「4階にある店舗の前に設置しても、その店を利用するお客さんくらいしか利用してくれない。そのような場合は設置をお断りさせてもらっています」と丸川氏。
傘箱設置の苦労を越えて、最近では「設置したい」という申し込みを断ることもある。とはいえ、「現在でも、まだ設置場所は少ないと思っている。ビニール傘は都内だけで1日当たり15万本売れているデータがある。単純に計算すれば、都内だけで現時点の50倍の設置場所があり、20万本のアイカサが都内にあっても不思議はない」(丸川氏)
JR東日本グループから出資を受けたことから、「駅に傘箱を」と期待する声も多くあったが、消防法や細かい規定の関係上、駅に設置することは容易ではなかった。だが半年以上の粘り強い営業の結果、JR東京駅主要出口を代表とする東京駅周辺エリア40ヵ所への設置を実現。これを皮切りにJR東のほかの駅にも設置できるスキームを整えた。
さらに私鉄でも、西武鉄道で2019年9月から新宿線全駅に設置を始め、利用増加や沿線ユーザーの要望により、池袋線にも拡大を検討をしているという。小田急電鉄やその他私鉄でも全駅設置に向けた動きが進み、今後の展開へさらに期待が高まる。
また、2020年夏の東京五輪を前に、外国人観光客が利用しやすいインフラ作りを急ぐ必要もある。LINEはアジア地域には多くのユーザーがいるが、全世界に普及しているものではない。スマホアプリ、予約方法、決済方法など、利用環境をよく考えて整える必要がある。
また、利用者がどんな場所を歩いているのかといったことが分かれば、「マーケティングデータとして活用できるのではないか」という意見もあるという。しかし丸川氏は「LINEを使っていると、取得できるデータに限りがある。アイカサがもっと普及すれば、独自アプリの開発に注力する可能性もあるかもしれません」という。
現在でも、ユーザーが駅で借りた傘を何分後に駅の傘箱に返しているのか、何分後に商店街の店舗に設置した傘箱に返すのかといったデータから、ユーザーが街を歩いている時間がを把握できる。「これをマーケティングデータに活用できるのではないか?」という声は上がっているそうだ。
また、特定企業専用のアイカサ、オフィス向けアイカサのサービスも開始した。利用者を限定するため、これまでのアイカサとはビジネスモデルが異なるが、複数のビルにオフィスがあり、その間を歩いて移動する必要がある企業などから、社員サポートとして利用したいという声があるそうだ。
ちなみに、「『やはり利用者が多い時期は梅雨の時期ですか?』とよく聞かれるのですが、梅雨の時期は、家から傘を持って外出する人が多いので、実は利用者が減る時期なんです」と丸川氏。
今後のさらなるビジネス拡大に意欲を見せる。「これから時間を重ねていくと、前年との対比などのデータも出てきます。さらに利用状況のデータをマーケティングデータとして活用できるようになっていくはずです」
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