盛田 諒の「ほぼほぼ育児」 第30回

昔から子育てはつらくて楽しいものだったんじゃないか

初走り

　2歳児くんの保護者をしてます盛田諒ですこんにちは。同志のみなさん年末年始おつかれさまでした。正月が明けて保育園が開いた月曜日は保育士のみなさんに後光がさして見え、拝んで感謝を伝えたくなったものです。子と遊べるのは楽しいんですけどね、仕事始めの前に力尽きますからね。

　年末には初めて子を連れて、山梨にある母親の実家へ行ってきました。実家は主屋・長屋門・文庫蔵・土蔵をおさめる昔ながらの広い古民家。土間をあがったところには使われなくなった囲炉裏が残っています。私は子どものころに足をすべらせて灰まみれになりました。中庭には正月に氷の張る池があります。こっちは氷に乗ろうとした途端に割れて落ちました。失敗に学ばない人生です。

　子は土間を上がってしばらくすると迷路のような間取りに興奮したのか、寒いだろうに靴下を脱ぎ捨て、「もう走り出しちゃった！」などと大声で叫びながらどたどた足を鳴らして走りはじめました。西荻窪のマンションに住んでいたときと違って下に誰かがいるわけでもなく、隣家に声が届く心配もないので安心してほったらかしておけます。それでもご先祖様にはお騒がせしていますということで、戻ってきた子とともに仏壇の鈴をチンと鳴らしておきました。

　母親の実家では私が子どものころから、親戚一同が集まって年末年始を過ごすのが恒例です。親戚たちは、つねに何事かをしゃべり、走りまわり、次から次へいたずらをする子に驚きつつも優しく相手をしてくれました。中でも保育士の資格をもつ伯母は、子の不機嫌スイッチが入りそうになったときにプラレールを猫じゃらしのごとく使い「はい、新幹線こっち来てくださーい」などと誘導してくれて、またもや後光がさして見えたものです。権現とはこのことか。

　こうして生き仏様に子どもを見てもらっているあいだコタツでぼんやりできたのはまことに極楽なのですが、これも年末年始の数日だからいいんですよね。もしもこれが毎日続いたら、私のいやらしい性格が親戚の目にとまり、空気がねばっこいものとなっていたことでしょう。

　子育てにとって家族や隣近所の目があることは、当たり前ですが人間関係ってのは良いことばかりではないですよね。以前、「昔は大家族だったし地域のつながりもあったからみんなで子どもを見ていた、いまは経済成長とともに家族が小さくなり社会から孤立してしまった」と専門家の先生がテレビの子育て番組で話していたことがありました。確かに地域の目が虐待や事故を防いだ部分はあるかもしれませんが、家族の中にも嫌なことを言う人や、ことによっては手を出してくるような人はいただろうし、ご近所付き合いが苦手な人も昔からいたはずで、むしろ家族や地域の目に追いつめられて孤立した人はいたんじゃないかなあと思います。

　陰キャな私としては「今日もあの人いるかなあ……」とおどおどしながら苦手な相手と顔を合わせていた、自分のような人間が浮かんできてしまうわけです。そう考えると、昔も今も子育てが大変なことに変わりはなく、ウェットな苦労からドライな苦労に変わったくらいなんじゃないかと思いますよね。まあ親戚に子どもを見てもらってぬくぬくしているやつが言えることではないのですが……。

　きっと昔から、子育てはつらくて楽しいものだったんじゃないかと思います。その中でも育児の苦労が「女の苦労」ではなく、男の私も多少担える「親の苦労」になったのはまだマシな変化といえるんですかね。形は違えど、ご先祖様方が同じように「しんどいけど楽しいこともあるしね」と言いながら日々を乗り切ってきたかと思うと、遠い時間を超えて気持ちが分かち合えたようでちょっと気がラクになるところもありました。だらしない私にお慈悲をくださるすべての仏様に手を合わせつつ、だましだまし日々をやっていければいいかな。

書いた人──盛田 諒（Ryo Morita）

1983年生まれ。2歳児くんの保護者です。Facebookでおたより募集中。

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