マイクロサービスやAPI活用が前提のクラウドネイティブコアソリューション「MAINRI」
アクセンチュアが基幹系向けクラウド基盤、ふくおかFGの導入も決定
2019年12月13日 07時00分更新
アクセンチュアは2019年12月11日、パブリッククラウド環境での基幹業務システムの構築/運用を可能とする「アクセンチュア クラウドネイティブコアソリューション(通称・MAINRI)」の提供を開始した。ふくおかフィナンシャルグループ(ふくおかFG)が、2021年春に創業を予定している「みんなの銀行」の勘定系システムへの導入が決定している。
金融機関での採用を前提とした高度な負荷検証を実施済み
MAINRIでは、基幹業務システムのマイクロサービス設計からAPIによる外部サービスとの連携、データウェアハウス(DWH)に格納された顧客行動データなどを即時に分析できるプラットフォームの構築、運用などの機能を用意している。これにより、従来の基幹業務システムが持つ制約にとらわれることなく、新たなサービスや事業の迅速な立ち上げができるようになり、同時にリアルタイム分析による顧客一人ひとりへのカスタマイズサービス提供も可能にする。
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 ITソリューション マネジング・ディレクターの水上廣敏氏は、MAINRIにおいて「GoogleやAmazon、Netflixの(と同じような)仕組みで基幹系を作ることを目指した」と説明する。具体的には、ビジネスの変化とスケールを担保する「マイクロサービスおよびAPIアーキテクチャー」、ミッションクリティカル性を担保し、突然の負荷集中にも耐えうる「オートスケールアーキテクチャーとDevSecOps」、バッチのためにオンライン処理を止めない「リアルタイム分散バッチ処理アーテキクチャー」、すべての顧客データをリアルタイム分析し、即時アクションを実現する「ハイパーパーソナライズ」の4つを特徴とするという。
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ 日本統括マネジング・ディレクターの山根圭輔氏は、MAINRIではすべてをマイクロサービスとして構築し、さまざまな業界のビジネスロジックが構成可能であること、また厳密なメッセージキューイングで参照データをつなぐことで、整合性の担保とパフォーマンスのスケーラビリティを両立させられることを説明した。そのほか、クラウドならではの負荷に応じたオートスケール、新バージョンの基幹系への容易な移行、オンライン用と一括処理用のデータベース分離によるオンラインバッチ間の疎結合なども実現できるという。
「さらに、顧客が持つモバイルデバイスの位置情報や操作ログから基幹系トランザクションの変化まで、すべてのデータをほぼリアルタイムでDWHに連携できる。これにより、モーメント分析やハイパーパーソナライズを実現可能にする仕組みをベース実装できる」(山根氏)
金融機関の基幹系業務システムとしての活用を想定して、アクセンチュアでは480万口座ぶんの顧客データと明細データを用意して検証を行った。大量の明細データを保有する環境において、追加や更新も含むミックストランザクションが可能であること、分散バッチ処理が常時実行される負荷に耐えうること、一部のサービスやコンテナが落ちても止まらない耐障害性を持つこと、全体への影響を及ぼさないサービス単位の独立したリリースが可能なDevOps環境を実現できることなど、6つのポイントを確認したという。
検証では、1億件を超えるDWHデータに対して複雑なマーケティングクエリを実行。秒間2000件を超える負荷集中と利息計算バッチの並行実施があったものの、すべて200~300ミリ秒でレスポンスが可能だった。さらに、こうした負荷をかけながら一部サービスを強制遮断したが、サービスエラーは発生せずに自動復旧できた。サービスのオンラインリリースも正常に稼働したという。
「これらの検証に耐えられれば基幹系で活用できると考えていたが、実際に十分耐えうると判断するに至る評価ができた」(水上氏)
なお今回、パブリッククラウド基盤としてはGoocle Cloud Platform(GCP)を採用する。これについて山根氏は、「GoogleがKubernetesで先行する立場にあること、Cloud Spannerの柔軟性などから、まずはGCPで動かした」と述べ、今後はAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといった他のクラウドプラットフォームにも展開する予定だと明かした。
基幹系システムのクラウド活用だけでなくDXを全面支援
さらにアクセンチュアでは、デジタルによって生み出される価値を享受するための組織改革も提案。顧客企業におけるデジタルトランスフォーメーションを全面的に支援するという。ふくおかFGのみんなの銀行においても、勘定系システムへのクラウド活用に留まらず、「組織の再構築」や「デジタル人材の育成」までを支援する。
またMAINRIは、金融業界だけでなく他業界にも展開していく予定だ。社内外システムの柔軟な連携を可能にする「アクセンチュア コネクテッド テクノロジー ソリューション(ACTS)」や、AIエンジンの最適な組み合わせを可能にする「AI HUB Platform」、ブロックチェーンエンジンを複数接続する「BlockChain-Hub」など、すでに提供中のソリューション群とも連携を図る。これにより、基幹業務システムのクラウド化実現と同時に、外部パートナーとの広範なエコシステム形成を可能にするとした。
日本国内でも、基幹業務システムをパブリッククラウドで活用する動きが出始めている。山根氏は、これまでの基幹系業務システムは「既存の業務/事務プロセスの自動化」「同質の大量データ処理」をミッションクリティカルかつセキュアに実行することに主眼が置かれており、新しいこと(業務)を行う場合は、その「周辺」に新たなシステムを作る手法でカバーしてきたと説明する。しかし、デジタルトランスフォーメーションに向かうためには、まったく発想の異なる新たなITシステムが必要だという。
「前提として、ビジネスプロセスがゼロベースで見直されていること、さまざまなチャネルとAPIがつながり、アジャイルに変化できること、すべてのデータを収集して、顧客を中心にした分析できること、柔軟かつ迅速にスケールできることが求められる。既存のデカップリングアーキテクチャーだけでは実現できないといえる。今回のMAINRIは、真のデジタルトランスフォーメーションを実現するためのものであり、これまでにないものを作った。『リフト&シフト』だけでなく、『リフト&シフト&マイグレート』が大切であり、マイグレートやモダナイズする先として活用できる」(山根氏)