FHFLのGPUも搭載可、MECやローカル5G基盤としてAI/大量データのリアルタイム処理に対応
HPE、“5Gエッジ”向け高性能サーバー「Edgeline EL8000」発売
2019年11月27日 07時00分更新
日本ヒューレット・パッカード(HPE)は2019年11月26日、通信事業者(テレコム)や製造業などのエッジ環境における大容量データのリアルタイム処理向けに開発したエッジサーバー「HPE Edgeline EL8000 Converged Edge System」の販売を開始した。高さ5U/ハーフ幅のシャーシに最大4台のXeon SPサーバーブレード、また「NVIDIA Tesla V100」などフルハイト/フルレングス(FHFL)のGPUボードやFPGAも搭載できる、HPE Edgelineシリーズの最上位モデルとなる。
発表会ではHPEの製品担当幹部らが出席し、“5G時代”におけるエッジサーバーの重要性とHPEの戦略、EL8000の位置付けなどを説明した。またゲスト登壇した住友重機械工業は、同社の製造業向けソリューションにおけるEdgelineシリーズ採用の理由などを紹介した。
Edgeline最上位モデル、エッジに配置できるデータセンタークラスのサーバー
HPE Edgeline EL8000は、HPEのエッジサーバーシリーズであるEdgelineの最上位モデル。DC -48V電源にも対応する1500Wの冗長電源とハードウェア管理モジュール「HPE iLO5」を内蔵したシャーシに、サーバーブレードを組み合わせて構成する。
サーバーブレードの「HPE ProLiant e910」は1Uタイプと2Uタイプの2種類が用意されている。いずれもインテルのXeon SPプロセッサ(8~24コア)×1を搭載し、1ブレードあたりのメモリ容量は最大768GB、SSDストレージは最大19TB。シャーシ1台あたりの最大容量に換算すると、4プロセッサ、メモリ4TB、ストレージ77.8TBとなる。
通信事業者の基地局や製造業の現場オフィスといったエッジ環境に対応するため、動作温度は0~55℃、また耐衝撃性や耐振動性を備え、通信機器の仕様であるNEBSレベル3に準拠する。
サーバーブレードはいずれもPCIeスロットを備えるが、2Uタイプの場合はフルハイト/フルレングスのカードにも対応する(1Uタイプはハーフハイト/ハーフレングスのみ)。そのためNVIDIAの「Tesla V100」や「Quadro RTX4000/6000」といった大型のGPUも搭載できる。
なおProLiant e910サーバーブレードのフロント部にあるネットワークインタフェースは、40GbE QSFP+、10GbE SFP+×2、1GbE×2などを選択可能。さらにPCIeスロットを利用して100GbE、InfiniBandへの対応も可能だ。加えて、電源などを備える共通モジュール部に10GbE SFP+スイッチを追加し、各サーバーのトラフィックをここに集約することもできる。
HPE Edgeline EL8000の希望小売価格は、214万7000円(税抜、ProLiant e910 1Uブレードを1台搭載時)からとなっている。
HPEが考える“5Gクラウド”戦略、vRANやMEC、NFV、さらにAIやAR/VRアプリ対応
発表会に出席したHPE 執行役員 ハイブリッドIT事業統括の五十嵐毅氏、同社 Edgeline カテゴリマネージャーの北本貴宏氏は、HPEのテレコムエッジ領域における戦略を説明した。
大容量/低レイテンシ/多数同時接続の通信を可能にする5Gネットワーク技術が今後普及していく中では、これまで実現できなかったような“5Gネットワークアプリケーション”も登場してくると考えられる。ただし、それを実現するためには、エッジ環境にも大容量データをリアルタイム処理できるようなコンピューティング能力が求められる。HPEではこのエッジに配置されるコンピューティング環境を“5Gクラウド”と呼んでいる。
「“5Gクラウド”のポイントとしてはまず、大容量データ(の保存場所)を動かしすぎると時間もコストもかかるため、なるべく“データの地産地消”を進めたいというニーズへの対応。もうひとつ、通信キャリアが5G網を拡大しエリアをカバーする前に企業や地方自治体が個別に始める5Gサービス、そこでのデータセンター的な活用ニーズへの対応だ」(五十嵐氏)
この5Gクラウドは、5Gネットワークの提供主体によって2種類のあり方が考えられるという。通信事業者の展開する5Gネットワークに付随して配置される5Gクラウドと、企業や地方自治体が個別ニーズに応じて局地的に展開するプライベートな5Gネットワーク(いわゆる「ローカル5G」)に配置される5Gクラウドだ。今回のEdgeline EL8000では、この2種類の5Gクラウドのどちらにも対応することを想定している。
この5Gクラウドに求められる機能について北本氏は、5G通信の基地局機能を仮想化しソフトウェアで提供するvRAN(Virtual Radio Access Network)、モバイル基地局へのエッジコンピューティング環境配置を可能にする標準仕様のMEC(Multi-access Edge Computing)、そしてVR/ARやAI、IoTなどさまざまな業務用途に対応したアプリケーション基盤、という大きく3つだと説明する。
なお5GのアンテナやvRAN=基地局機能について、HPEではすでにサムスンやノキアといった通信機器メーカーとのグローバル協業および共同開発のソリューションを発表している。「EL8000においては、たとえば1ブレードをvRANに、残りの3ブレードをアプリケーションに割り当てるといった使い方が考えられる」(北本氏)。また通信事業者との取り組みとしては、米AT&Tとの協力によるMEC/エッジコンピューティングサービスの提供を例に挙げた。
製造業向けソリューション「i-Connect」がHPE Edgelineを採用した理由
ゲスト登壇した住友重機械工業の羽野勝之氏は、同社が子会社のライトウェルと共同開発し、国内および海外市場で提供するプラスチック射出成形機向け生産品質管理システム「i-Connect」における、HPE Edgelineシリーズの採用理由などを説明した。
i-Connectは、工場内の射出成形機やその周辺機器(センサー)からEthernet経由で大量の稼働データを収集することで、生産品質管理、異常発生検知や原因追究、工場全体の稼働状況把握といった機能を提供する製造業向けソリューションだ。現場でのデータ集約とデータ処理の実行基盤として、EdgelineのEL300/EL1000(接続台数に応じて選択)をエッジサーバーとして採用している。
同社ではi-Connectの販売を、Edgelineサーバーにソフトウェアをセットアップ済みで提供するかたちで行っている。同社顧客の6~7割は海外の企業であり、ハードウェアのトラブルに関してはHPEと連携をとりつつ、HPEの現地法人からサポートを行うかたちとしている。羽野氏は、この点も含めてサーバーハードウェアにHPE Edgelineを選定したと説明した。
i-Connectの今後の展開について羽野氏は、クラウドとAI(機械学習/ディープラーニング)技術の適用により、生産の最適化や自動調整、自律判断、最終的には“自動化工場(スマートファクトリー)”実現のソリューションへと進化させていきたいと語った。そのために、クラウドへのデータ転送を容易にするEdgelineの「OT Link Platform Software」や、工場内のLAN敷設を不要にするローカル5Gに注目していると述べた。