10月16、17日の2日間にわたって、株式会社NTTドコモ(以下ドコモ)主催による法人向けイベント「MOBILE EVOLUTION 2019」が名古屋で開催された。このイベントはセミナー講演と展示により、ドコモとパートナー企業が近い将来での実現に向けて取り組んでいる各種ソリューションを紹介するものだが、特に今回は来年春に5Gの商業サービス開始が控えており、ドコモの5Gネットワークを基盤とした事例が多数展示されていた。
本記事では、株式会社NTTドコモ 5G・IoTソリューション推進室 営業統括担当部長 藤森 浩一氏による講演と、その後に行ったインタビューから、5Gに対するドコモの取り組みについてレポートする。
なお、藤森氏以外のセミナー講演と展示内容については別記事で紹介するので、そちらもご覧頂きたい。
5Gを通してドコモが目指す世界
藤森氏の所属する5G・IoTソリューション推進室は、主に5Gの法人向け営業を推進するために今年の4月に立ち上げられた。ドコモにいる全国の法人営業部隊を支援し、5Gを中心にIoT、AI、xRなどの先進技術を活かしたソリューションを全国のパートナー企業と共同(ドコモは協創と呼んでいる)で開発することに取り組んでいる。
藤森氏からは、5Gへの取り組み事例を紹介する前に、講演最初のパートでドコモの目指す世界、ビジョンについて説明があった。
ドコモは2017年の中期経営計画「beyond宣言」において、5Gで豊かな未来の実現を目指すと宣言した。そこで重要なのがビジネスパートナーとの新しい価値の協創であり、ドコモ単独ではなしえない社会課題の解決を、ビジネスパートナーと連携しながら実現することを目指している。
特に重要な点は5Gの特徴である「高速・大容量」「低遅延」「多数接続」を用いた新産業の創出や社会課題の解決であり、そのソリューション開発にパートナーとともに取り組むとしたところにある。ドコモが2018年に提供を開始した「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」には、すでに全国から3000社を超える企業・団体が参加しており、情報共有やマッチングイベント、5G検証環境の提供などを通じて、ソリューションの開発やトライアルに取り組んでいる。
現在の日本社会には、働き方改革、高齢化社会、地方創生、一次産業などにおいて様々な社会的課題を抱えている。これらを解決するのはドコモだけでは不足であり、5Gをキーテクノロジーに多様なビジネスパートナーとの協創により解決を目指す。これが5Gを使ってドコモが目指す将来像であると言える。
特にドコモは地方創生に力を入れており、自治体22件を含む30件の全国各地の自治体・大学・企業との協定を締結している。その取り組みとして、藤森氏は2つの事例を挙げた。その1つは東京無線タクシー(東京)やつばめタクシー(名古屋)で商用サービスが始まった「AIタクシー」である。
タクシー業界ではドライバー不足などの事業上の課題や、2020年に向けた観光需要の増加に対して、ドライバーの確保や運行の効率化が求められている。ドコモのAIタクシーは、モバイルネットワークを利用して作成された人口統計情報と、タクシー運行データ、天気などの環境情報を組み合わせてAIによるタクシー乗車需要予測を行う。
これにより、タクシー事業者は無駄のない最適な配車で全体の実車率を底上げできるだけでなく、利用者にとっても無駄な待ち時間を短縮できるというメリットがある。
もう1つの事例は、鹿児島県肝付町で提供しているオンデマンドの乗合型公共交通サービス「AI運行バス」である。これは9月30日より「肝付町おでかけタクシー」という名称で本格運行を開始した。
従来の定時定路線型バス等と異なり、利用者が専用のスマートフォンアプリまたは電話によってオンデマンドで予約を行い、事前登録した自宅を含む指定の乗降場所間の移動が可能になる。路線や運行ダイヤなどは存在せず、また乗降ポイントも柔軟に設定することができ、観光渋滞や来訪者の偏りの緩和・解消が期待できる。
5Gをキーワードに、ドコモは「体感革新」「ライフスタイル革新」「ワークスタイル革新」の3つのスタイル革新の実現を目指している。例えば「体感革新」はAR/VRによるゲームなどエンターテインメント体験、「ライフスタイル革新」は上の2つの事例のようなAIを用いた日常生活支援、「ワークスタイル革新」は先進的ドローンによる業務効率化などが挙げられる。
それらの革新に向けたドコモのビジョンを実現する5Gサービスは来年春の開始に向けて開発が進められている。次のパートでは、ドコモの5Gサービスの概要や進捗状況を聞くことができた。