赤坂とか六本木とか虎ノ門とか青山とか、まあそんなバリバリの都心部だけれども、1本2本裏の道路に入り込むと昔ながらの家が残ってたり小さな神社があったりして、それらは大通り沿いにびっしり並ぶビルが目隠しになってるせいでけっこう平穏だったりするのである。
で、隠れた路地に猫はいる(こともある)のだ。2014年の4月、街歩き講座で10数人を引き連れて歩いたのち、おまけで飯倉から虎ノ門あたりを地形や歴史を楽しみながら歩き、せっかくだから愛宕神社を裏の参道から訪れようという話になり、国道一号線(桜田通り)から東へ一本はいった裏通りを抜けようとしたときのこと。
住所は港区愛宕一丁目。バリバリの大都会であるが、大通りから1本奥にはいると古い昭和な住宅街で、そこに猫が2匹ちょこんと座ってたのである。
そしてわたしときたら「みんなその辺でちょっと待ってて」といって、這いつくばって猫を撮り始めたのだから困ったものである。一緒に歩いてた街歩き仲間は笑いながら見てた。すぐ後ろにあるおうちの玄関の前に白い器が見える。きっとこの家の人が世話をしてるんだろう。
近づいても逃げようとしないのをいいことに、ぐぐっと近寄って撮らせてもらった。よいキジトラである。
で、なぜこんなに出会った場所を詳しく書いたかというと、もうこの場所はないから。その半年後に訪れたときは、猫の姿は消え、猫の後ろにあった家にはカバーがかけられていた。その後この一角すべてが更地になり、高層ビルが建設され、たぶんまもなく完成する。実はこの辺、虎ノ門ヒルズを含む「都市再生特別地区」として大規模開発中なのだ。
もうひとつ、地下鉄神谷町駅の近く、南に西久保八幡神社の高台、西に六本木一丁目の泉ガーデンスウェーデン大使館、東に愛宕山や東京タワーという台地に挟まれた谷地がある。「我然坊谷」という名で(ごく一部の地形好きに)有名な場所だ。
ここ、高層ビルが建つ高台に囲まれた凹地で、古い家々がひしめきあっており、中にはいつ建てたのかわからないような木造アパートもまぎれていて、都心にこんな場所が残っていたとは! と誰しも目を見張るところだったのだ。西久保八幡神社の裏参道の急な階段を北に降りると、国道一号線から1本入っただけにもかかわらず、昼間でもうっそうとしてじめっとした古い空間が現れたのである。古い谷地ならではなのだが、周辺のビル街とのギャップが大きいのだ。
その階段を降りてすぐの狭い路地に猫がいた。最初に出会ったのは2014年で、我々の姿を見つけるとささっとフェンスの奥に隠れてじっと見てたのが冒頭写真。2年後に訪れたときは猫が2匹いた。路地と一緒に撮るとこんな感じ。手前の緑の傘は猫の雨除け。ここに餌場があり、廃墟と覚しき木造アパートの玄関に「ここは住んでいた人の許可をもらって猫に餌をあげて世話してます」という内容の貼り紙がしてあった。
人があまり通らない場所なので、猫たちも気楽なのだ。わざわざ暗い裏参道の階段を使うなんて酔狂な人はそうはいない。もう周辺の廃墟化も進んでいたし。この2匹の後ろに見える暗いところに階段がある。それを上ると西久保八幡神社の境内に出るのだ。
遠くからじっと見てたら仲良くじゃれあいはじめて微笑ましい。
やがて、1匹はフェンスの裏に隠れ、もう1匹は道路を塞ぐようにぺちゃっと座ってこっちを見つめてた。
さてここの場所、さらに2年後くらいに訪れたら、猫の餌場所になっていたアパートはフェンスで囲われて閉鎖されており、2019年初頭には完全に更地に。そして6月にはこのあたり一体が封鎖されて立入禁止となったのである。猫がいなくなったどころか、路地自体が消えたのだ。
あと何年かしたらここも「都市再生特別地区」として高層ビルが並ぶモダンな商業地区に生まれ変わるのだろう。 猫と出会った場所は具体的には書かないのがマナーだが、今回はその場所自体が失われてることもあり、もちろんすでに猫はおらず、以前この連載で掲載した写真とかぶってるカットもあるのだが、こういう場所があったんだよという記録を兼ねて詳細に書いてみた。
変化し続けるのが東京の面白さでもあるのでそれをどうこう言うつもりはないが、ただここにいた猫たちもどこかで元気にしているといいなあとひそかに思っております。
■Amazon.co.jpで購入
古地図とめぐる東京歴史探訪 (SB新書)荻窪 圭(著)SBクリエイティブ
デジタル一眼レフカメラが上手くなる本 基本とシーン別の撮り方60上原 ゼンジ、桃井 一至、荻窪 圭(著)翔泳社
古地図でめぐる 今昔 東京さんぽガイド荻窪 圭(著)玄光社
筆者紹介─荻窪圭
老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/
この連載の記事
-
第899回
デジカメ
フラッグシップ機も入門機も! 今年登場のミラーレス一眼で撮った猫写真で2024年を振り返る -
第898回
デジカメ
スマホカメラは年々レベルアップ! ハイエンド機で撮った猫写真で2024年を振り返ってみた -
第897回
デジカメ
ミニドローン「HOVERAir X1 Smart」で猫と遊んでみた! 猫は興味津々で画質もなかなかいい -
第896回
デジカメ
速いAFのおかげで撮りやすい! チャーミングでほほえましい猫のあくびの瞬間を集めてみた -
第895回
デジカメ
ニコン「Z50II」はベーシックながら動く猫もしっかり撮れる“ちょうどいい”ミラーレス一眼だ -
第894回
デジカメ
寒くなる折、猫が気持ちよさそうに撫でられてる暖かそうな“ほっこり写真”を集めてみた -
第893回
デジカメ
さすがフラッグシップ! キヤノン「EOS R1」は猫の一番いい瞬間をピシッと撮ってくれた -
第892回
デジカメ
ライカ風の画作りが楽しめる「Xiaomi 14T Pro」 動いてる猫もブレずに撮れて独自のフィルターも効果的! -
第891回
デジカメ
軽くて小さい富士フイルム「X-M5」が登場! いろんな猫をいろんな「フィルムシミュレーション」で撮ってみた -
第890回
デジカメ
プロ向け動画カメラ、パナソニック「LUMIX DC-GH7」の4K動画から一番カワイイ瞬間を切り出した! -
第889回
デジカメ
ズーム操作も快適! 機動力が高い「iPhone 16 Pro」のカメラコントロールで秋の外猫を望遠撮影 - この連載の一覧へ