日本マイクロソフトは2019年7月30日、6月25日に文部科学省が発表した「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」に対応した教育機関向けソリューションとして、「マイクロソフト~新時代の学びの革新プログラム」の提供を開始した。
このプログラムは、マイクロソフトのソフトウェアとクラウドサービスによる「学びの革新ソリューション」と、文科省最終まとめで提示されているパソコンスペックに対応した教育機関向けWindows 10デバイスによって構成されている。すでに提供されているソリューションによって構成されていることや、海外での導入事例、成果を紹介できるなどをメリットとしてアピールしていく。
日本マイクロソフトの業務執行役員 パブリックセクター事業本部文教営業統括本部長中井陽子氏は、「日本の教育を取り巻く市場の変化を見ると、従来型の先生対子供達での教育から、大きく形が変わっている。ICTが進化し、さらにAIによってなくなる仕事もあれば、多くの新しい職業が生まれる時代が訪れようとしている。AIを使いこなす人材を育てる教育が必要と識者も指摘する時代に文科省からアナウンスされたのが新しい方策。マイクロソフトとしてもそこに協力していくということで、今回の革新プログラムを提供する」と説明。OEMパートナーが提供するデバイスをはじめ、Microsoft 365、Microsoft Azure、HoloLensなどすでに存在するソリューションを活用し、新たな学びを実現する。
プログラムの具体的な内容としては、「学びの革新ソリューション」として教育クラウドとビッグデータ活用ソリューションを提供する。教育ビッグデータ活用によって、色々な個性を持った子供たちを、取り残すことなく、公正に、個別最適化された学びを実現する、「Microsoft School Dashboard」作成を推奨する。Office 365アカウントと統合されたID管理、Dynamics 365による協働的なデータ基盤を構築。この基盤を活かして、Office 365搭載のPower BIを使えばSchool Dashboard作成が容易に行える。
海外での導入事例として、スペイン バルセロナ市では、「City Dashboard」を構築。教育をはじめ、市民に関係するデータをオープンにして、市民と市が共同で自治体を管理していくために活用している。「日本の自治体に紹介すると、『こういうことがやりたかった』と声があがる」(中井氏)という。
オーストラリアでは、School Dashboardに学校とそこで学ぶ子供達に関するデータを集約。子供の健康状態、図書館の利用回数、学校での成績などのデータをPower BIで分析すると、現地で実施されているテストの成績が9割を超える精度で予想されるという。
オーストラリアではこれ以外にも、私立学校で行われている紙を完全になくしたデジタル教科書、デジタルノートで学習し、生徒間の協働学習を効果的に行っている事例も紹介された。Microsoft Azureを活用し、教員が課題の回答などのビデオ動画を作成するなど、統合管理された教材・コンテンツライブラリを構築し、子供たちがいつでも、どこでも学ぶことができる環境を構築している事例も紹介された。
管理と運用に関しては、Microsoft Intune for Educationを活用し、Azureによる運用管理系システム、校務系システム、教育用システム、Microsoft 365によるOffice 365、EMS、Minecraftをはじめ、教員の自宅端末、学校内で利用する教員の端末、パソコン教室のパソコンや周辺機器、普通教室で利用している端末、生徒が利用するパソコンやタブレット、スマートフォンなどをマルチOS環境で管理していく。
文科省では、世界最先端の学びを支えるソリューションとして、遠隔・オンライン教育、AIを活用したドリル、AR・VR、統合型校務支援システム、センシング、協働学習ツールなどの必要性も訴えているが、「新たに登場するHoloLens2をはじめ、マイクロソフトが提供する製品でこれらにも対応できる」(中井氏)と説明。その1つがMicrosoft Teamsの教育現場での活用だ。
中井氏は、「Teamsは、サティア・ナデラが『次のOSはTeamsになる』と言っているくらい、マイクロソフトが全社的に推しているソリューション。教育現場では、授業・学習活動において課題の作成から、配布、集計など全行程で利用できる。Skypeが埋め込まれているので、ビデオ会議を使った学習も可能になる。教職員の業務においても、どこからでも、セキュアな環境を保ちながら仕事をすることができる上、BIとの連携といった使い方も可能」とTeamsの教育現場活用をアピールした。
文科省の最終まとめで提示されたパソコンスペックに対応した、教育機関向けWindows 10デバイスについては、「学びの最適PCモデル」としてOEMパートナーと連携し、低価格帯の教育機関向けモデルを提供する。
文科省の最終まとめでは、「学習用コンピュータは最先端技術を取り入れた高価・高性能な機種である必要はなく」とされ、「店頭には4万円台~5万円台の端末も並んでいる」とある。むしろ、高いスペックよりも、「時代に合わせて更新していくことが望ましく」としており、安価なパソコンを技術の更新に応じて更新していくことを想定している。
7月30日時点で、ASUS JAPAN、エプソンダイレクト、サードウェーブ、Dynabook、デル、日本エイサー、日本HP、日本電気、VAIO、パナソニック、富士通、マウスコンピューター、レノボ・ジャパンの計13社から、24機種が学びの最適PCモデルとしてラインナップされている。これらのパソコンは、文科省が認める初等中等教育機関(K-12)であれば、割引価格が適用されてWindowsライセンスを搭載するデバイスを提供できる「Shape the Futureプログラム」として提供される。量販店から購入するデバイスは対象外で、今回の対象の中には専門学校、大学、高専など高等教育機関は対象外となる。
対象デバイスの中にはSurfaceシリーズは含まれていないが、マイクロソフトでは教育機関向けにSurface Goの特別型番を用意。本体のみだが4万7800円から販売していく計画だ。
なお、革新プログラムを学校に導入していくためには、教育機関向けに製品の販売、システムインテグレーションを行うパートナーとの連携が不可欠になるが、「Intuneに関しては、利用のためのセミナーを20回以上行っているが、School Dashboardは新しいもので、学校に導入してもらうためにパートナー企業との協業が不可欠になる。パートナーに実装してもらえるよう働きかけていく必要がある」(中井氏)と今後製品を導入できるパートナー企業を増やしていきたい意向だ。