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未来のオンライン教育が楽しみでしようがない

お父さんは見た!新型コロナウイルスが生んだオンライン教育の下克上

2020年05月18日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 新型コロナウイルスの影響で、子供たちは長らく自宅にいることを余儀なくされており、学習機会は失われつつある。そんな中、いままで遅々として進まなかったオンライン教育への流れがグングン進んでいると感じられる。二人の子供を持つ親の目から、オンライン教育に向けた動きを見ていきたい。

「ベネッセの屈辱」に屈してよかった

 まずこのコラムを書く私のスペックだが、小学生5年生・高校生1年生の2人の子供を持つ父親で、学校や教育に関しての知識は通常の親と同じくらい。正直、教育関係に精通しているわけではないが、ITに関しては商用メディアで記事を書くくらいの物書きだ。あくまで専門家というわけではない都内在住の一人の親が、インターネット経由で受けられるいわゆるオンライン教育の課題や期待を書くコラムだと思って読んでほしい。

 さて、新型コロナウイルスの影響で、うちの2人の子供はほぼ2ヶ月半に渡って在宅である。3月の初旬はまだ春休みの宿題や定期テスト後の課題のようなものがあったが、4月に入って緊急事態宣言が出ると、学校も長期休業になり、始業式どころか授業は一切なくなった。最初は「毎日ゲームとテレビだわっしょい」と喜んでいた子供たちも、さすがにまったく勉強しないことに一抹の不安を感じるようになってきた(ん、本当か?)。

 親としてもさすがに数ヶ月にわたって学校がないのはかなりの不安だ。しかし、小5の長男が通っている豊島区の公立小学校は、あくまで学校は再開するのが前提であり、3月の時点でオンライン教育の話はまったく出てこなかった。その代わり、4月唯一とも言える登校日、長男は紙のプリントを大量に持ち帰ってきた。先生たちがプリントを大量にコピーし、ホチキス留めしてくれた力作なのだが、先生にお願いしたいのはそういうことではないような気がした。

モノクロコピーの問題がけっこうつらい

 そんな中、長男にとって本当にありがたかったのは、しまじろうの頃からやっているベネッセのチャレンジタブレットだ。長男が幼稚園だった頃、あの手この手の圧倒的なDM攻撃と学習教材(玩具?)に屈して、結局申し込んでしまったという経緯を持つため、大人的には「ベネッセの屈辱」と呼んでいる事案だったが、結果として屈してよかった。

 なにしろチャレンジタブレットはWiFi搭載の学習専用タブレットとオンライン教材が込みなので、通信環境さえ整ってしまえば、学習塾が休校になっても、家で継続的に学習できる。デジタルの特性を活かした教材も少しずつ増えているし、ゲームや動画など子供を惹きつける力もすごい。うちの子にとってはやや教材数が少ないらしいが、チャレンジタブレットに関してここで感謝したいと思う。まあ、先に言っておくと、あとでベネッセが関わっているClassiをけなすことになるのだが。

アクセス障害が続くClassiで「オンライン教育=悪」の印象に

 一方、入学式もなくなってしまった高1の長女が通う私立高校は、去年の段階でiPadの導入が計画され、デジタル化は既定路線だった。しかし、これはどの学校も同じだと思うが、あくまで「校内の授業でタブレットを用いる」という計画であり、生徒が在宅で授業を受けることは想定していなかった。しかも、学校から配布される予定だった端末も新型コロナウイルスの影響で納品が遅れ、全生徒で一律に同じ環境は用意できなかった。

 とはいえ、さすが私立校なので対応は早い。緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルス対応が長期化しそうになった段階で、家庭の通信環境に関するアンケートが実施され、オンライン対応の準備がスタート。もともとメールでの学校のお知らせが定着していることもあり、教員からのメッセージも動画配信された。また、教育プラットフォームの「Classi(クラッシイ)」の導入も決まり、ゴールデンウィーク後から試験的にオンライン授業が始まることになった。とりあえず私も長女からの依頼で自宅にある自前のiPadをセットアップし、ホームルームや授業に備えた。

 Classiはオンライン教育のプラットフォームを提供する会社としてベネッセとソフトバンクによって2014年に立ち上げられた会社で、「全国の高校の"2校に1校"で利用されている」という高い実績を持っている。ただ、4月5日に不正アクセスが確認され、IDや(暗号化された)パスワードなどが漏えいするという問題を起こしている。その時点でかなり心配だったのが、やはりこのClassiはかなりくせ者で、とにかくつながらない。稼働状況を見ていただければ明らかだが、5月中旬の現在もホームルームの機能を担う「校内グループ」や課題などを提出する「コンテンツボックス」などはほぼアクセスできない状態だ。長女は校内グループの通知が見られないので、もともと利用しているメールと友人とのLINE交換で情報共有しているとのこと。これって本末転倒じゃない?

稼働状況を見ると、大幅遅延がほとんどでサービスの体をなしていない

 課題を締切に間に合わせた長女も、Classiから提出できない自体にはかなりイライラきており、切れ気味に「わざわざClassiなんか使わず、みんな使っているLINEでやればいいじゃん!」と、どこぞのプラットフォームプレイヤーみたいなことを言い出している。最近は教材もダウンロードできず、しかも「電波の良い場所で再度お試しください。」というエラーメッセージが出るため、イライラが増幅されているらしい。

 確かにClassiはアクセスしにくいという障害に加えて、ユーザーインターフェイスも不可解なところが多く、「だったらLINEでよくない?」という気持ちはとても理解できる。見ている限り、掲示板とコンテンツ共有を教育機関向けにカスタマイズしたようなサービスなので、G SuiteやMicrosoft 365のようなオフィススイートを使ったり、Boxのようなコンテンツ共有サービスをカスタマイズすれば、十分利用に耐えそうな気がする。

 新型コロナウイルスの影響で休校になった学校が増えたことは事情として理解するし、サービス事業者を攻撃するのは本意ではないが、かれこれ1ヶ月近くアクセス障害が解消されないというのは、やや理解に苦しむ。シェアが大きい分、いよいよニュースにも載りだしている。「オンライン教育=悪」という印象を持ちつつある長女の学校に向けては、そろそろ意見しなければならないタイミングにさしかかっている。

グーグルやマイクロソフトの肩を借りて公立校の巻き返しが始まる?

 オンライン教育は急速に加速しつつあるが、既存の教育系事業者はその流れに対応できていないようだ。ニーズや環境が刻一刻と変わる中、自前での開発・運用は難しさを感じたのは「全国統一小学生テスト」でおなじみ四谷大塚の取り組みだ。

 四谷大塚が先日発表したのは小1~中3を対象に「全国統一オンライン講座受講」を無料招待するという太っ腹な内容だ。長男の学習塾が休校になってしまった親としては本当にありがたい取り組みなので、さっそく申し込んでみたのだが、利用までのハードルはけっこう高かった。

 全国統一オンライン講座受講は東進グループのプラットフォームを用いているのだが、まずPCで利用する場合、Internet Explorer上でしか動作しない。これはマイクロソフトのかつてのRIA基盤であったSilverlightを採用しているからにほかならない。当然、Windows機のみで、Macでは動かない。もちろん、本質は配信される授業だとは思うのだが、Internet Explorerなき後はどうなるか心配だ。スマホ・タブレット版のアプリも用意されているのだが、ログインはWebブラウザ経由でしか行なえない。問題もPDFなので、結局印刷して、子供に渡さなければならない。PC前提のテクノロジーにあとからスマホ・タブレット対応を強引に付け足した感じで、十年前じゃないんだけど、五年くらい前といった技術的負債感を感じてしまった。授業動画はすばらしかっただけに、なんだか惜しい。

Silverlightベースのサービス。もはやPCは端末として対象にしないのだろうか

 一方で後塵を拝しまくっている公立小学校・中学校だが、いよいよオンライン教育への動きが出てきた。5月11日には文科省のお役人がYouTube LiveでITの利活用を強く呼びかけたそうだが、冒頭の写真のとおり、わが豊島区からは教科書といっしょにG Suite for Educationのアカウントが配布された。

 同封のプリントを見ると、一人一台の学習用PCやクラウド環境を実現する「GIGAスクール構想」に先んじて、自宅にあるタブレットやスマホを使った学習環境を試験導入すると書いてあり、四の五の言わず、まずはやってみるという姿勢には共感できる。確か東京都教育委員会とマイクロソフトも先日提携を発表していたが、遅れまくっていた公立校も、プラットフォームプレイヤーの肩を借りて、一気に巻き返したら面白いと思う。

来たれ!時代を切り拓くEdTechプレイヤーよ

 日本は長らく教育のデジタル化やオンライン教育が進まないと言われてきた。その背景としては、国の事情、自治体の事情、学校の事情、家の事情などさまざまな事情があると思うが、親としては自分たちの子供によい教育を受けてもらいたいと願うだけだ。もちろん、よい教育の定義はさまざまだが、少なくとも私には紙のプリントと現場の残業だらけで成り立っている今の学校が正しいとは思えない。クラウドとデジタル化されつつある社会に放り込まれてサバイブしていける基本的なスキルとリテラシは、ぜひ学校生活でみんなが等しく身につけてほしいと思う。

 小学校でのプログラミング教育や英語授業など教育改革が進みつつある昨今、新型コロナウイルスの影響をもろに受けて、オンライン教育は一気に下克上の時代に突入していきそうだ。少子化している日本の教育市場は、コロナウイルス関係なく、ただですら縮小気味のサバイバルな市場である。今後はレガシーなしきたりや伝統にとらわれた学校や事業者が廃れ、新しいテクノロジーや価値観を持つEdTechプレイヤーが台頭していく。そんな時代に突入していくのではないだろうか?

 オンライン教育に対するさまざまな意見が巻き起こり、先生や生徒が右往左往し、ジェットコースターのように変化し続ける今の状況は、不謹慎なのかもしれないが、子供を持つ親としては楽しみでしようがない。できれば、うちらの子供の世代で、さまざまなトライ&エラーをしてもらい、次の世代に受け継いで、日本の教育を進化させてほしいと思う。みなさんはどう思いますかね。

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