世界最小の達成に必要だった、意外な壁とは?
── 世界最小とのことですが、なぜ作ろうと思ったのでしょうか?
岡田 ほかがやってないことをやりたかった。これに尽きますね。市場には、完全ワイヤレスイヤホンがあふれています。Amazonなどで実際に購入し、数十台を分解し、いろいろ調べてみたのですが、「たいていのことはやられている」と感じました。ならば、「世界最小・最軽量だろう」という形で始めました。市場にはすでに何百種類もの完全ワイヤレスイヤホンがあります。いまプロジェクトを立ち上げるなら、その中で目立たなければならない。誰もやっていないことにチャレンジするしかないですよね。
「ちゃんと動くよというのを見せておきたいですね」と岡田さん。
── 一番の苦労と言えば、何でしょうか?
岡田 この電池です。LR41というボタン電池と同じサイズなのですが、ヒアラブルデバイスに使え、充電にも対応した汎用品なんて、市場にまったくありません。ただし、こういった電池を、医療機器用に製造しているメーカーは国内にもあります。しかし、部品自体が高価ですし、最低ロットを発注するにしても膨大な数になってしまいます。ちょっと行けば、何個か売ってもらえるようなものではないのです。
── 門前払いをされてしまったのですね。
岡田 そもそも、供給先は医療メーカーが最優先です。無理を承知で、何度もお願いして、ようやく譲ってもらえることになりました。「少しなら分けていいよ」と。それでもわれわれのプロジェクトを実現するには十分なのです。
── GRAINは小型がウリの製品なので、アンテナ開発などに苦労したのかなぁと想像していました。電池がネックになるとは意外でしたが、言われればその通りです。
岡田 アンテナなどは頑張れば作れますが、電池は手に入らなければそれで終わりです。これが入手できる算段がついて初めて、プロジェクトを始められるめどが立ったと言えます。
なければ……作るしかないよね?
── ドライバーの直径は4mmとのことですが。小さくても一般的には6mm程度までではないでしょうか?
岡田 実は、直径4mmのドライバーサイズは、この電池に合わせて決めました。これも半年通って、ようやく作ってもらえることになったのです。バランスドアーマチュアー(BA)型のドライバーで小さくする案も検討してみたのですが、BA型は縦に長いので収まらないのですね。で、「どうしよう……作る?」みたいな話になって、部品から作るというバカなことをやることにしました。
── モックアップを最初に見た感想は「小さいのか、ふ~ん」といった程度の感想しかありませんでした。本当にごめんなさい。これ(試作のスケルトンモデル)を見て、その苦労がやっと分かりました。