いま聴きたいオーディオ! 最新ポータブル&ハイエンド事情を知る 第15回
アニソン特化をうたう、ハイエンドイヤホン
歌声がよく聴こえる、finalの新機軸イヤホン「B1」を聴く (3/4)
2019年07月19日 13時00分更新
声の描き分けが本当に見事
ということでB1の音を聴いてみよう。
まずはオーソドックスに、女性ボーカル曲を中心に聴いてみた。子音は刺さらず、適度な艶がある。声の解像感は高く、輪郭もハッキリとしているが、音色はややウォームな傾向。リスニングよりの表現と言っていいかもしれない。
何曲か聴いたが、そのうちの1曲(上白石萌音「なんでもないや -movie ver.」(96kHz/24bit))では、語尾の表現まで、ニュアンスが良く伝わってきた(例えば「父の言葉が、今日は暖かく感じました」の「た」をハッキリと切っている点)。ほかのイヤホンに比べて、言葉が明瞭で歯切れよく聴こえ、「なるほど、この歌手はこんな歌い方をしていたのだ」という発見があった。
また、ボーカルに限らず、中域全般の聴こえがよく、音楽の世界にすっと入っていける。中域を担当する各楽器の音がクリアに響き、よく分離するためだろう。ただし、よくある高解像度・ワイドレンジ系のイヤホンとは違う聴こえ方だ。単純に情報量が多いサウンドではない気がした。そう感じる理由は、レンジの広さや音の情報の細かさではなく、歌声や伴奏に使われる楽器の「音色」が極めて明瞭に描き分けられるからだろう。
耳が慣れてきたところで、聴く曲のジャンルを広げてみた。ロック(ローリング・ストーンズ『Voodoo Lounge』)では、ボーカルがしっかりと前に聴こえつつ、バックの楽器の音やその配置が非常によく整理されていることが分かる。バンドを構成する、ボーカル、ブルースハープやスチール弦のギター、ピアノ、エレキギターなど様々な楽器の音色の差が明確だ。
バンド演奏の楽器は、音域的にボーカルと被る場合も多く、得てして埋もれがちだ。実際、いくつか所有している高級価格帯のイヤホンでも、ブルースハープやスチール弦の音色はほかの音にかぶって聴こえにくい面があった。情報量自体は多く、音が鳴っていること自体はわかるのだが、平板な感じがしたり、独立した楽器の音として聞こえにくかったりする。聞き分けるには、集中力が必要で、意識的に聴かないと聞き飛ばしてしまっていたりする。しかし、B1で聴くと、この楽器のこの音が鳴っていると自然に感じ取れた。脳にかかる負担がとても小さい感じがする。
また、声色の描き分けも見事だ。最近では、多人数で歌うダンス・ボーカルユニットの楽曲が多いが、人数が増えると、声質が似ている人が必ずいて、誰が歌っているのかが判別しにくい場合も出てくる。しかし、B1では不思議とそういうこともなく、誰の声かが分かる。それどころか、メインボーカルの裏で埋もれがちなバックコーラスなどもきちんと前に出てくる。
ボーカルや楽器が独立し、立体的に聴こえる
B1の音には一般的な、モニター系や忠実指向のイヤホンとはちょっと違う味付けも感じるが、録音された音の素性がストレートに伝わってくる。実際の演奏は、もっと混濁していて、きれいではないと思う面もあるが、この楽器がこの位置で鳴っていて、全体としてこういうサウンドになるという見通し感に優れている。このセッションには、合計何人が参加していて、それぞれがこの位置にいるといった情報がよく伝わってくるし、その音や声が立体的に配置されている感覚が味わえる。
また、インイヤー型でありながら、スケール感もある。ドライバーサイズが大きなオーバーイヤーのヘッドホンで再生したときのような余裕感がある。
もっともB1にも弱点はある。ひとつはビート感の再現だ。しっかりと耳に装着すれば、低域の量感は出てきて、不満を感じるほどではないのだが、低域のリズム感や音程感の表現は少々曖昧な印象もある。ドラムやベースといったリズム帯のアタックや芯の強さ、たたき方の細かなニュアンスなどは感じにくい。ピアノ伴奏などもやや膨らむし、低い鍵盤の基音もそれほど沈んでこないので、やや軽く抜けた感じに聴こえる。
このあたりは、リズムをノリ良く感じたい曲では、ややもの足りない感じもあるが、多くの人はボーカルの聴こえを重視するはずだから、それほど気にならない部分かもしれない。
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