手かざしで支払い、AIで渋滞を解消する未来の都市
第31回NEDOピッチ「スマートシティ特集」レポート
国の描くスマートシティに対して
スタートアップはどうかかわる?
神奈川県川崎市のK-NICで「第31回NEDOピッチ」が実施された。同イベントは、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共催による、オープンイノベーションを創出することを目的としたピッチイベントだ。今回のテーマは「スマートシティ特集」。
はじめに、日本総合研究所のリサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル/融合総合戦略グループ長 兼 創発戦略センター Connected Lab.ラボ長の東 博暢氏が登壇。
国内でも、指定都市のスマートシティを目指した有識者の懇談会が実施されたり、報告書が公開されていたりする状況が解説された。
内閣府による「スーパーシティ構想の実現に向けて」と題した報告書は今年の2月に公開されたばかりだが、東氏によれば、これは6月末に大阪で開催された国際会議「2019年G20サミット」に合わせてのタイミングだった。カナダのトロント市でグーグルの系列企業と行政が連携した都市設計が進行しているなど、世界的にスマートシティ化が急速に進行している状況がある。日本としても、この国際競争に乗り遅れるわけにはいかないという見方があるようだ。
また東氏は、近年の国内の状況を踏まえ「現在の日本のスマートシティ化に向けた課題は、自治体ごとにバラバラの仕組みを取り入れているため、全体を統括するアーキテクチャーの仕組みが整っていないこと」であると指摘。
また別の視点からは、「Society 5.0」(内閣府が提唱する未来社会のコンセプト)に関連する報告書において、「スタートアップが自律的・連続的に創出・成長を繰り返すエコシステムの構築」が課題とされていることも解説。国内産業が一丸となって、スマートシティを目指すための環境作りを目指すために、国が動き始めているとの見解が示された。
株式会社バカン
AIとIoTで自由時間を増やす
ここからは、スマートシティ関連のスタートアップのピッチの模様をお届けしよう。
はじめに登壇したのは、株式会社バカンの代表取締役 河野 剛進氏。同社は、AIやセンサー、ネットワークカメラを組み合わせて、レストラン、カフェ、トイレといった空間の空席情報を、リアルタイムにサイネージやスマートフォンに表示するソリューションを開発している。
河野氏はグリー株式会社での新規事業立ち上げなどにも関わった経歴を持つ人物。家族で商業施設に出かけたときに、空席が見つからず、子どもが泣いてしまったり、悲しい思いをして帰ったりした経験から、「人々のムダな時間をなくして、自由な時間を確保できないか」と考えたことが、バカンの立ち上げにつながったという。
バカンは今年で4期目を数えるが、すでに札幌、福岡、大阪、東京といった大都市圏を中心にサービスを提供しており、同社の2017年の調べによれば、顧客満足度は「便利になった」という回答が88%にものぼったそう。
社会全体の高齢化が進む中で、従業員の手間を減らして顧客の満足度が高められる点から、今後も人気を集めていくだろう。また河野氏は、既存のオペレーションを変えず、インストールするだけで使える点も、サービスの強みだとアピールした。
PerceptIn Limited
低速の自動運転車で新たな移動手段を
PerceptIn Japanの川手 恭輔氏によるピッチ。香港に本社を置き、自動運転車や自律走行ロボットを開発している企業だ。
同社の「DragonFlyテクノロジー」は、コンポーネントをモジュール化し、自律型車両をLEGOのように組み立てられるのが大きな特徴。5km未満の移動手段(マイクロモビリティ)として、小型の低速車両を用いたロボットタクシーの国内でのサービス展開を計画している。
自動運転技術は、LiDARを使用せずに、コンピュータビジョンとGPSによって実現している。気になるのが安全面だが、万が一衝突が発生しても、甚大な被害が起きない20km程度の低速で走行することが大前提にあるそう。普通車のように公道を走る自動運転車というよりは、個人が低速で近場に移動するための手段という側面が強いようだ。
現在は法律の整備や社会受容性の高まりを睨みつつ、クローズドな環境での走行試験を重ねている。2022年には公道でのサービス提供を開始したい考えだ。決済にもQRコード決済などのキャッシュレス決済を取り入れる予定とのことで、社会にどれくらい溶け込んでいけるかが期待される。
株式会社フューチャースタンダード
映像解析AIをカンタンに
株式会社フューチャースタンダード代表取締役の鳥海 哲史氏のピッチ。同社の「SCORER(スコアラー)」は、AIと、センサーやカメラといったハードウェア、そのほかの機器をブロックのように組み合わせて、「安く・早く・簡単に」映像解析システムが構築できるソリューション。
用途としては、サイネージや店頭のレジに組み込んで、閲覧者や顧客の統計データをとったり、信号機などに組み込んで、交通量の調査に役立てたりといった使い方が提案されている。
鳥海氏は「スマートシティは、街全体をセンシングして情報を取得し、役立てていくという考え方。まさにフューチャースタンダードの手法そのもの」と話す。確かに、スマートシティのコアになり得るサービスだし、こうした技術が広がると、「国民が普通に暮らしていくだけで、どんどん便利になっていく」といった状況も生まれるかもしれない。
ここで少しだけ筆者個人の見解を挟みたい。中国の杭州市とアリババが協業して、信号機をAIに管理させた結果、交通渋滞が減少したという報道があって、常々うらやましく思っていた。日本では、公安委員会が信号機に関する決裁権を持ち、警察が実際の設置や管理を担っているから、制度上のハードルがあるかもしれないが、フューチャースタンダードのように、すでに技術を確立しているスタートアップと当局が組めば、スピーディーに日本の交通状況も改善されるのかもしれないと感じた。
株式会社ライナフ
美和ロックと協業したスマートロック
株式会社ライナフ 代表取締役社長の滝沢 潔氏は、テレビのショッピング番組風のオープニングで会場を和ませていた(このニンジャロックが、今日だけ◯◯円!)。
同社は不動産会社向けのシステムと、IoT製品を手がける企業で、主力製品はスマートロック「ニンジャロック」だ。ニンジャロックは、NEDOの補助を受け、美和ロック株式会社と共同で開発した新製品が、2019年の4月に発売している。スマートフォン経由で解施錠ができるほか、バッテリーが切れた際も、乾電池を買ってくればすぐに入れ替えられるなど、実際の使用シーンに気を配った点もウリ。
「鍵と通信を結び付けることで、不動産の新しい使い方を提案し、不動産に新たな価値を創出」とうたう同製品だが、発売以来、急速に注文数を伸ばしているようで、美和ロックという大手と組んでいるという信頼感も商品の魅力に大きく貢献しているのだろう。
スタートアップ企業と大手企業が組んでひとつの商品を開発するという体制は、イノベーションの加速という観点から見て好ましい事例だし、今後ますますの普及が期待される製品だ。
株式会社eNFC
わずかな手間の積み重ねをなくせば、大きな時間に
この日最後のピッチは、株式会社eNFC 代表取締役の和城 賢典氏。
和城氏はソニー出身の人物。同社が開発しているのは、「人の体に信号をのせて通信する技術」だ。名称にNFCが入っていることが表す通り、既存のNFCのインフラを利用している。
従来のNFCは磁界の変化をトリガーとして認証しているが、eNFCではそれを電界の変化に置き換えている。ICカードに相当する機器を身につけると、指がアンテナになるため、手で触れるだけで認証が可能になる。
「コンビニで手をかざすだけで支払いができる」といった用途はすぐに連想されるが、和城氏は、医療業界にも着目しているそう。eNFCの技術を応用して、端末をポケットに入れておけば、タグに手で触れただけで情報を読み取るシステムを開発している。
たとえば、患者の投薬のスケジュールをタグで管理している場合、読み取りミスが起きたり、読み取り自体を忘れてしまったりすると、重複や投薬の抜けが生じたり、管理の面で手間がかかる。
eNFCの技術を使えば、点滴を交換する動きをするだけで、自動的にタグが読み取られ、人的ミスの入る余地をなくすといったことも可能になるだろう。それだけでなく、「タグを読み取るわずかな時間であっても、積み重なると大きくなる」と和城氏は指摘。業務の効率化に役立つ点もアピールした。
懸念は安全性や正確性といった部分になると思うが、これについて和城氏は、「利便性とのトレードになる部分が大きいので、端末側で認証をしておかないと、近付くだけでは認証されないようにするなど、現場に応じてソフトウェアの調整は必要になる」と話した。