オーナーや不動産会社に寄り添ったスマートロック「NinjaLock」誕生秘話
不動産テックのイベント「Real Estate Conference 2019」が開催
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2019年4月22日に不動産会社で構成される不動産テック協会は、「Real Estate Conference 2019」を開催した。巨大市場でありながら、テクノロジーの導入がなかなか進まない不動産業界を変えようと、さまざまなテクノロジー活用が披露された。ここでは業界動向を概観したPropTechの基調講演とライナフの「NinjaLock」のセッションをレポートする。
FinTechと似て非なる不動産テック業界の特徴
冒頭、「PropTechスタートアップが作る不動産の未来~日本と海外を比較して~」というタイトルで登壇したのは、一般社団法人PropTech Japan代表の桜井駿氏だ。一般社団法人FinTech協会の事務局長でもある同氏は、代表として2017年に一般社団法人PropTech Japanを立ち上げ、定期的なイベントの開催や政府との交流、海外コミュニティとの連携などを進めている。不動産テックのコミュニティは各国ともまだまだ小粒だという。
X-Techは金融業界向けのFinTechを起点に、スタートアップを中心とした変革の流れが他業界にまで波及したものと捉えられる。このうちPropTechが対象とする不動産業界は、FinTechの銀行業界よりも市場規模が大きく、生命保険や医療などの業界と同等。また、業務の性格上、FinTechとPropTechの親和性も高く、FinTechの一部として扱われることも多いという。
一方、不動産業界はITへの投資が進んでいないので、電子化が未成熟という課題がある。「古くさくて堅いと言われた銀行業界でも、オンラインバンクやATM、クレジットカードはあったし、グローバルをつなぐネットワークも整備されていた。データ化されているので、スタートアップはAPI経由でシステムと連携できた。でも、不動産業界は電子化・IT化されてないので、そもそもデータがない。スタートアップが急成長できないというのは海外でも同じ」と桜井氏は語る。
また、AmazonやFacebook、Uberなどが業界をディスラプト(破壊)しつつあるのと比べ、FinTech界隈はエンタープライズとスタートアップが協業しているのが特徴。「FinTechでは、スタートアップはデイスラプターにならず、既存の銀行といっしょに新しい価値を作っていることが多い。業界を脅かす存在ではなく、業界をよくしていく存在でもある」(桜井氏)とのことで、不動産業界も同様の流れになるのではないかと予想される。
北米に遅れること3~5年、日本でのPropTechは生まれたばかり。とはいえ、政府省庁がデジタル化に積極的で、条件付きでの民泊解禁やIT重説なども規制緩和も進みつつある。「FinTech協会も2015年に発足したときは25社だったが、今では400社近くになっている。PropTechも早く200社にまで拡大していきたい」と桜井氏は語る。
元大家はなぜ自らスマートロックを作り始めたのか?
続いて登壇したのは、「NinjaLock」というスマートロックを不動産業界向けに展開しているライナフ 代表取締役の滝沢潔氏。テレビショッピングよろしく新製品である「NinjaLockM」の実現販売からスタートした滝沢氏は、自らがスマートロックの開発・販売を手がけるようになった経緯から話を始める。
20代のときに信託銀行で不動産投資を担当し、ものづくりの経験もなかった滝沢氏がスマートロックの会社を興したのは、自身がマンションのオーナーになった経験があったからだという。「4棟くらい持っていたが、オーナーになると空室が多いことに気づきます。購入金額のほぼ全額を銀行からの融資に頼っていたので、空室が半分を超えると持ち出しが発生するんです」(滝沢氏)。
20代で1億円近い借金を抱え、月に100万円の持ち出しが発生したら、自己破産まっしぐらだ。そこで滝沢氏は空室をいかに埋めればよいかを真剣に考え始めた。「不動産がかわいそう。ごめんね、空室のままで。使われない空室はなんだかしょんぼりしているように見えますよね」と滝沢氏が不動産を同情し始めると、会場はやや引き気味になる。
とはいえ、人口が増えない状態で、マンションや一戸建ては増え続けているので、今後も空室が埋まることは決してない。そのため、オーナーとしては、民泊やスペース貸しなど居住以外の用途で不動産を活用する必要に迫られる。そこで鍵となるのが、文字通り鍵だ。「鍵での入退室管理ができれば、不動産の活用をもっと考えられるのではないか」と滝沢氏は考えた。
現在の物理鍵は持ち運びがしやすく、壊れにくいといったメリットがあるが、コピーが簡単で、入退室の履歴がとれないというデメリットがある。これを解決する方策として、滝沢氏は2013年にクラウドファウンディングが開始された最初のスマートロック「Lockitron」に行き着く。しかし、2012年1月に注文し、現時点で届いておらず、オークションサイトで手に入れたモノは日本の鍵にはあわなかった。ちなみに、この時期に立ち上がったスマートロックのプロジェクトは、ほぼ量産にまで行き着かなかったという。
結局、滝沢氏は日本の鍵にあうスマートロックを自ら開発することにした。これがNinjaLockだ。とはいえ、モノ作りには当然がかかる。「12個のパーツの金型を中国で作ったが、結局1200万円かかった。日本だと3倍かかると言われた」(滝沢氏)のほか、組み込みソフト、スマホアプリ、Web、妻(?)などにお金がかかった。また、規制も多く、iPhoneアプリ、電波法、電気用品安全法、輸入貿易などをクリアしなければならない。「特にiPhoneアプリの審査は、デモ機をシリコンバレーのアップルに送る必要があり、当初の予定より1ヶ月くらい遅れた。
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